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おトキさんと乗り合い馬車

「ほぉ。わざわざご指名とは光栄じゃのう。」


おトキさんの愉快そうな笑い声が響く。




シンシアさん達のご厚意に甘えて、オリエンテの街最終日である今日も、旅の準備にあてさせてもらっている。



以前の約束と計画通り、全員の誤魔化しのないステータスをおトキさんに見てもらうために、朝から冒険者ギルドを訪れていた。



「じゃあ小娘から見ていこうかね。」


その言葉を受けて、私がおトキさんの前に行き、手を差し出す。おトキさんは私の手に触れて鑑定を始める。


ひとつひとつ鑑定内容を確認すると時間がかかるので、全員のステータスを一枚の紙に書いてもらった。



最後にリトの鑑定が終わって、鑑定偽装の魔石のついたピアスを装着し直す。



「改めて鑑定の結果から、忠告だけさせて貰うよ。本当に信用できる人にしか、本当のステータスを鑑定させないこと。特にその赤ん坊のステータスは最優先で秘匿すべきだ。」


まぁその子のステータスを見たらわかる、と最後に告げて、かなり鑑定が今日は賑わっているので、すぐにこの場を後にすることにした。



「あの、おトキさん。」


去り際に声をかける。


「いろいろと教えてくださってありがとうございました。教わったことを活かしながら、もっと強くなってまた鑑定してもらいに来ます。」


この先誰に師事したとしても、おトキさんは薬草術の師匠だ。本当は何かを作って渡せたらとも思ったけど、それはもっとレベルを上げてから渡しに来たいと思ったんだ。



「それまで私が生きてるかどうかじゃな。」


ケラケラとおトキさんが笑う。


「最後に小娘に冒険者の先輩としてアドバイスしよう。冒険者に必要なのは、強さでも、何でも器用にこなせる能力でもない。ステータスに現れることが冒険者の全てじゃないことを覚えておくんじゃな。ステータスを上げるのではなく、まずは仲間と自分を守る術を身につけることじゃ。それがどういうものかは、自分で考えて掴み取るんじゃな。」


そうアドバイスを貰って、おトキさんと別れた。

おトキさんから貰った紙は、すぐさま空間収納にしまう。


その後は、冒険者ギルドでマンテノウス山脈までの地図を貰って、道のりのアドバイスを貰ったり、途中の街や村の情報、冒険者ギルドの情報などを教えて貰った。


オリエンテの街はマンテノウス山脈よりも西にあり、道程の半分までは平原が広がっているため馬車の往来があるそうだ。


ただ、そこまで長距離を移動してくれる馬車はないので、ある程度大きな街を拠点に乗り継ぎをしなければならない。


ここまではリトも調べていた内容なので知っている内容だ。



「馬車を利用するのであれば、最終的には『ポトム』の街を目指されるのがオススメです。マンテノウス山脈から採れる資源は周辺の丘陵や渓谷地帯を越えてこの街に一度集まるので、周辺では一番大きな街になります。」


それに、と受付のお姉さんが答える。


「マンテノウス山脈は険しい山脈です。丘陵や渓谷地帯を抜けると、一気に草木は減り、険しい道のりを進むことになると聞きます。マンテノウス山脈に行かれるのであれば山を熟知した方を雇うべきかと思うので、規模の大きいポトムがベストかと考えるのですが、いかがでしょうか?」


確かに、山を知っている人が居れば格段に旅の危険度も下がるだろう。


「危険を冒さなければいけない旅でもないので、ご忠告通りにまずはポトムに向かいます。マンテノウス山脈の情報はこちらではわかりますか?」


リトが肯定を示したうえで、さらに尋ねる。


「こちらにあるのは人づてで聞いた情報ですので、旅中に情報が変わる可能性もあります。ポトム以降の進み方は、ポトムの冒険者ギルドで検討頂いた方が確実かと思います。」


追加でポトムの途中の平原の情報も聞いてから、冒険者ギルドを後にした。


次に向かったのは商業ギルドだ。



乗り合い馬車や物資の運搬は、商業ギルドが取りまとめて斡旋してくれる仕組みになっているそうだ。



旅の移動手段は、徒歩、馬車、魔獣車、魔石船、転移魔法陣の順に便利で楽になっていく。


一般的なのは徒歩か馬車で、旅を基本としない一般人は基本的に長距離なら乗り合い馬車を使う。


ある程度の人数の冒険者パーティなら、自前の馬車を持っているか、魔物使い(テイマー)がいれば魔物に荷車を引かせるのが主流だそうだ。



馬も魔物ではあるのだが、地球の馬と同じく大人しい上に、力や速さがあるので、この世界でも重宝はされているが、強くはない。


馬車の場合は、冒険者が馬車を守りながら進むそうだ。


魔獣車は、ある程度の魔獣なら冒険者の力なしに魔物を退けることが出来るので、馬車よりもさらに重宝される。


ただ、馬とは違って気性の荒い魔物が多いため、魔物使い(テイマー)による調教が必須になる。なので、お金のある大きな商会や貴族、王族、運良く魔物使いのいる冒険者パーティくらいしか、魔獣車は扱っていない。


その上になるのが、魔石船だ。魔石の力を動力として、比較的に魔物の少ない空を移動する飛行船を魔石船と呼ぶらしい。最近できた技術だそうで、まだ帝国と呼ばれる財力も技術もあるような国の、ほんの一握りの人の間でしか使われていない。


転移魔法陣は、名前のごとく転移が出来る魔方陣で、離れた場所にも一瞬で移動できる。難点として、かなり高度な魔法陣なので扱える人が希少なこと、使用するのに莫大な魔力を消費するので気安く使えないことだそうだ。これは国家機密レベルなので、世界でもほんの一握りしか使えない。



自前の馬車を揃えるお金と時間と技術がないので、自前の馬車は今後に見送られた。


子狐であるイナリに自分の何十、何百倍もの荷車を引かせる訳にもいかないので、魔獣車も却下。


ちょうど明日の朝から、ここから5日ほどで着く『ソヨン』の街に行く乗り合い馬車があるそうなのでその馬車に乗る手配をした。教えてもらった中で、オリエンテから出る馬車では最長なのがこのソヨン行きだ。


ソヨンの街は、馬などの家畜の放牧や農業が主要産業の街だ。商業的な交易もある程度活発なので乗り合い馬車はあるし、リトと相談して安く馬車を手に入れられる可能性も考えて、ソヨン行きを決めた。



ひとまず食堂に帰り、部屋に戻る。念のために遮音魔法をかけて、おトキさんから貰った鑑定結果を全員で見ることにした。

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