避け方とサンドイッチ
今週から仕事が多忙で更新速度が遅くなります。
ザシュッ。
「ピュエーーーーー!」
まるまると太った、ムチムチ鳥が絶命する。
「ははさま!これでいなりは4ひきめなのでしゅ!えらいでしゅ!」
真っ赤な返り血を浴びた白いもこもこ。
私の従魔であるイナリがぴょんぴょん報告してくれる。
まず、森に入った瞬間にリトから忠告をされた。
どんなイナリを見ても、驚くなと。
こら驚くわ。
ビビるわ。
出会った時は、強敵だったので魔法を使って倒したが、基本的には魔法は温存する。それは魔物も変わらないらしい。
特にイナリは賢いので、自分の魔力量や相手の力量まで推し量って、戦闘スタイルを変えるそうだ。
とにかく私のパートナーの狐ちゃんは頼もしいことがわかった。
勇人も抱いてるし、さすがに返り血を浴びたイナリを撫でることは出来ないけど、倒したら褒めてあげることは忘れない。
犬とかは飼ったことないけど、フリスビーを投げて取ってきたら褒めてあげる感覚。同じように魔物を倒したら褒める。
リトとイナリは一緒に戦ったことで、お互いの戦闘力をある程度確認出来たらしい。
イナリは狐の特性として、耳がかなり良いらしく、イナリが駆け出したと思ったら魔物が飛び出してくるような状態だ。
一度は逃げようとした魔物を一瞬で追い詰めて倒していた(そのときは一角兎だったなぁ)。
リトはオリエンテの街まで一緒に行ったので、戦いっぷりは見たことがある。
一度持たせてもらった、かなり重い大剣を軽々と振り回す。
イナリから合図を受けると、すぐさま物凄いパワーで魔物をぶった斬る。
「ウモーーーー!」
今もブルーブルの首が飛んだ。
私も現代日本で育った女の子。
最初は魔物を倒す、つまり命が目の前で失われる光景に、怖さと悲しさと、何とも言えない喪失感があった。
今でも完全に消えてはいないけど、まずは慣れるように努力をしている。
私も慈悲深い善人じゃない。やっぱり自分の命は惜しいし、何より大切なリトやイナリが怪我したり、死ぬことの方が怖い。
必要悪とは意味合いは違うけど、この命のやりとりを避けては通れない。
日本じゃあまり感じられなかったけど、なんだかんだ肉や魚を平気で食べてるんだから、それを思うとこれがあるべき光景なのかもしれない。
「あうー。」
この幼い勇人くんには見せられないけどね。
「ははさま、きをつけるでしゅ!」
イナリの声で杖を強く握る。
リトと反対、私のいる側からムチムチ鳥が突進してきた。
反射的に杖を振る。
かなりの重量が杖にかかるが、何とかムチムチ鳥の方角をずらせて避けることが出来た。
「上出来だ!」
すぐにそのムチムチ鳥をリトが仕留める。
こ、こわかった…
「ははさますごいのでしゅ!」
イナリが自分のことのように喜んでくれる。
「イナリのおかげだよ。ありがとう。」
イナリの注意がなかったら、杖を振ることもなく体当たりされて、当たりどころが悪ければくちばしで突かれてたに違いない。
「反射神経は悪くないな。」
リトも褒めてくれた。
今はまだ足手まといだけど、こんな調子で自分の身は守れるようにまずはならなきゃ。
その後はリトにもアドバイスを貰いながら、時折魔物を避ける練習をした。
ムチムチ鳥やニードルラビットみたいに、小さい魔物なら杖で避けれるけど、ブルーブル、ビッグボア、ブラックゴートの大きさだと、私の力負けしてしまう。
気をつけてたけど判断を誤って、ビッグボアを避けきれなくて吹っ飛ばされた。
咄嗟に勇人を庇えたのと、リトが飛んだ私を受け止めてくれたこと、イナリがすぐに魔法でビッグボアを丸焼きにしたことで、何とか大きな怪我は免れた。
イナリは私を傷つけたビッグボアにかなりお怒りモードだったけど、何とか宥めながら、ひとまず休憩することにした。
「こんどあのぶたにあったら、もやしちゅくしゅでしゅ!」
近くにあった川で身体を綺麗に洗ったイナリかプリプリと怒っている。
「燃やすと依頼のための肉が取れねぇからやめてくれ。さっきも魔法使わなくてもお前なら倒せただろ?」
リトが濡れたイナリを布でわしわしと拭く。
「ははさまがとんでって、こわかったでしゅ。きじゅいたら、もやちてました。」
リトに拭かれながら、しょんぼりと喋るイナリ。
そんなイナリをリトがポンポン撫でる。
「今までは自分だけか、自分より強い親と一緒だっただろうが、これが仲間で戦うってことだ。お前がゆりを守りきれない時もあるかもしれないが、判断を誤るな。今回は特に問題ないが、自分がどう動けば、ゆりを助けられるか考えて動けるようになるんた。」
「…はいでちゅ。」
リトから指摘されて、受け入れるイナリ。
やりとりが本当の親子みたいだ。
「ゆりも、今回でかなりビビってるかもしれねぇけど、あまりビビると動きが硬くなる。もし、避けきれなくても俺やイナリでカバーするから、致命傷だけは必ず避けるようにしてくれ。」
「…はいです。」
図星でビビってたので、声が小さくなる。
恐がってても前に進めない。がんばる。
今回は依頼用に魔法袋を冒険者ギルドで借りた。
見た目は普通の袋だが、見た目以上の容量を入れることができる空間の魔法と時間停止の魔法が施されている凄い道具だ。
某国民的アニメのロボットの四次元ポケットの、制限があるバージョンといったところだ。
かなり高価なアイテムみたいだけど、冒険者ギルドで貸し出すものは盗難防止、紛失防止の魔法がかけられていて、依頼を受けた人なら有料で借りられる。自前で持っていれば、借りる必要はなくなるが、かなり高いのでリトも持っていないそうだ。ちなみに代金は報酬から天引きされる。
今回は肉が回収素材だったので、魔法袋に倒した魔物は入れられている。
お昼ごはんは、シンシアさんに厨房を借りて使ってきた。
ハムとチーズとトマトのサンドと、蒸しムチムチ鳥とキュリのマスタードサンドだ。
皮革の水筒には、沸かしたお茶を冷ましたものを入れてきた。勇人用には甘茶の葉も混ぜてるので少し甘いお茶だ。
川辺の手頃な岩に腰掛けて、昼食をとる。
「ゆりの飯、まじで美味い。」
「おいちいでしゅ!しっとりでちゅ!」
2人ともガツガツと食べている。
これだけ美味しそうに食べてくれると作り甲斐がある。
イナリは蒸しムチムチ鳥が気に入ったようだ。
「まーあー♪」
勇人もご機嫌に食べている。勇人の分はもちろんマスタード抜き。
うん。サンドイッチ美味しい。
お昼ごはんを食べ終わると少し休憩。
リトが岩の上に座っていて、その膝の間に私が腰掛けて、私の膝の上では勇人とイナリが仲良くお昼寝している。
みんなで仲良くぎゅうぎゅうだ。
魔物のいる危険な森の中だけど、眠る2人の顔は穏やかで可愛い。見てるだけで疲れも吹っ飛びそうだ。
「2人とも気持ち良さそうだね。」
後ろから…その…リトが抱き締めるような体勢なので、少し斜め上を見上げて小声で声をかける。
「よく食って寝て、元気な証拠だな。」
リトの表情も穏やかだ。
2人で笑い合いながら、この後の予定を話す。
魔物狩りは一度中断して、薬草採取をすることに決めた。
その後も順調に薬草を採取して、途中は魔物に襲われながらも無事に依頼を終えることが出来た。
冒険者ギルドに帰り、素材の引き渡しや、一部こちらで欲しい魔物の肉の解体、加工を依頼した。
魔物の肉は、狩って冒険者ギルドに持ち込めば解体は無料、肉を干し肉や燻製、腸詰にするといった加工を格安で対応してくれる。
冒険者は基本的には体力勝負なので、人気のサービスとしてどこの冒険者ギルドでも提供されている。
食堂に着いた頃にはすっかり夜になっていた。
歩き回って疲れたので、シャワーを浴びてから、夜は簡単な料理で済ませて、すぐにベットに横になる。
勇人とイナリはすぐに夢の中だ。
ちゅっ。
リトが甘々な状態で、ところどころにキスをされる。流石に大人の階段を登るには早いので、「我慢するから。」というリトの要望のもと、大人しくキスを受ける。
私もやっぱり女の子だからさ、好きな人からのそんなお願いは断れない…というより、むしろウェルカムです。
少しの間は意識があったけど、どっと疲れが出て、リトのキスを受けながら眠りへと落ちていった。




