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告白と魔物狩り sideリト

「私は不服。いやだ。拒否する。」



一瞬何を言われたのかわからなくて、ポカンと呆気にとられてしまった。



隠すつもりはなかったし、旅について来てもらうなら話すべきだと思っていた。


俺にとっては過去の後悔であり、譲れない使命。


俺のために命をかけろなんて言わない。必ず全員守ることが、俺の望みだ。


望むなら、ゆりが俺について来てくれるうちは、俺の使命を手伝ってほしいと思ってる。



…もっと汚い本音は隠して、ゆりに伝えた。



途端に涙を流すゆりに狼狽える。

何より、心が引き裂かれそうに痛む。


目をこするゆりの手を掴む。


と、ゆりに怒鳴られる。

ここまで感情を抑えきれてないゆりは初めてだ。


自分の痛む心のままに、ゆりの涙をどうにか止めたくて、本能的にゆりの身体を引いて抱きしめていた。


少しむっとした様子のゆりを、壊れないように抱きしめながら話を聞く。


俺の伝え方が悪かったのか、危険だからエストランドには道連れにするつもりがないことを伝える。


これは俺の問題だから。


だからゆりには、俺の問題以前にこの世界で幸せになって欲しい。


気持ちを伝えたうえで、ゆりはわかってると言う。



そこから続く言葉は、違う意味で俺の胸を打つ。


一つ一つのゆりの訴えが、想いが、気持ちが、身体中を熱くする。


「まだ出会ったばかりなのに、リトのこと好きなの。いい迷惑かもしれないけど、もっと強くなるし、力になるから。最期までお供させてください」


ゆりの不安な気持ちが、俺を想ってくれる気持ちが嬉し過ぎて、これは夢じゃないかと思ってしまう。


ゆりが(いと)し過ぎて、俺の力になりたいというゆりの言葉を受け入れたくなる。


叶うなら、エストランドも救って、復興したエストランドでゆり達と過ごしたい。これから先も一緒にいたい。


『リトは望まなすぎなんだよ。そんなんじゃいつか大事なものが出来ても失っちまうぞ。大事なもんを見つけたら、遠慮なんかするな!命張ってでも俺のもんだって主張して死守するんだ。』


親友の言葉が蘇る。



お前を助けて、エストランドが平和になることと同じくらいに、手に入れたいものが出来たよ。



ちらりと、眠りこけている1人と1匹を見る。腕の中で、涙を流しながら震える愛しい存在を確かめる。


もう、引き返さない。俺の手で何もかも守って掴みとる。こいつらと一緒に。


「自惚れてもいいのか?お前が俺のこと好きだって。」


ピクンと反応して、確かに、ゆっくりと頷くゆり。


もう逃してやれねぇや。


「望んでもいいのか?いつかエストランドを救って、ゆりや勇人やイナリ、そして王子達とエストランドで過ごす未来を。」



俺はお前達を未来へ連れて行く。



そこから告白とプロポーズ。

それくらいしとかないと、勘違いされたら困る。


今はまだ仮の家族だけど、本物の家族になれる日を誓って。


頷いたゆりに近づく。



やわらかい唇が重なった瞬間。幸せだと心から思った。










それからは、ゆりの美味い飯を食って、直近の目的やゆりへ体力作りのお願いなどをした。



イナリと共に魔物狩りに出かける。


街を出るときに、門番にイナリを紹介しておくことも忘れない。


あくまでイナリはゆりの従魔だから、俺の冒険者カードではイナリの安全性を保証できない。外から帰って来たときは尚更なので、出て行く時に覚えてもらうことにした。


もともとのイナリの見た目が可愛らしく、かつ幼いため、門番もすぐに納得してくれた。


魔物を街に入れること自体は常識的にはよく行われる。大半は、商業ギルドで家畜登録した街の住民の家畜としての魔物だが、従魔という名のペットとして登録する街人や冒険者もいるのも事実だ。



イナリに俺の使える魔法やスキル、得意な技や苦手なことを話し、イナリにも確認しながら、ゆり達と出会った森へ足を運ぶ。



どんな魔物が出るかは把握しているので、力の確認をしやすい。この場所で魔物狩りをすることにした。



「じゃあ、ゆりや勇人もいる想定で動くぞ。イナリは基本的には先頭を歩いてくれ。イナリの真後ろを基本的にはゆりに歩いてもらう。魔物の気配を察知したら、止まるか振り返るかして合図を送ってくれ。」


「はいなのでしゅ。」


「俺は基本的にはゆりや勇人の隣…の半歩後を歩く。俺側の攻撃はもちろん俺が受けるし、後方も俺が相手をする。前方の敵と、ゆり側の敵はイナリが基本的には相手をしてくれ。状況に応じて俺も加勢する。」


そう話すと、イナリが少し考え出す。


「どうかしたか?何かあるなら言ってくれ。」


考えていたイナリが話し出す。


「いなりは、ははさまやゆーとをまもりたいでしゅ。でも、こうげきされたときは、いままでいなりはにげてまちた。こうげきをふせぐほうほうがわからないでしゅ。」


なるほど。今までは魔物の攻撃を避けて、カウンターで攻撃をすればいいだけだったが、ゆりや勇人という守る対象がいる場合はその選択はできない。


イナリが戸惑うのは最もだ。そして、それに気づけるイナリは本当に賢い。


ゆりがイナリと出会ってよかったと思う。もちろんイナリ自身が好ましいのは大前提だ。戦力としても、人である自分よりも気配察知能力に優れ、そして幼いのにここまで賢い。まだまだ成長することを考えると、戦闘力としても申し分ない。


むしろ、リトが1人で負うつもりでいた戦闘の負担が軽くなるだけでもだいぶ違う。




「どうやって攻撃を防ぐかは、これからのイナリの課題として考えていこう。それが出来たら、イナリももっと強くなれる。」


「コンッ!がんばるでしゅ!」


「だが、無理をするのはよくない。防御については、イナリのカバーが難しい分、ゆり自身にも少しでも出来るようになってもらおう。」



それからは、お互いの戦いっぷりを見ながら、襲ってくる魔物を倒した。俺もイナリも、ここの魔物とはソロで余裕で倒して旅をしていたくらいなので、2人だと休む余裕もある。




ガブッ。ヒュンッ。ドン。


襲ってきた一角兎の首に一瞬で噛み付いて、振りかぶって木に投げつけるイナリ。一角兎はすでにこと切れている。


やはり野生で生き抜いていた魔物だったからか、たくましいうえに魔物の仕留め方もえぐい。


「いなりよりおおきくなければ、さきにこうげきすれば、ははさまをまもれるでしゅ。」


どうやら、ひとつ対処方法を見つけたらしい。成長するイナリは微笑ましいが、赤い血を口から滴らせながら微笑む白い子狐の絵はシュールだ。


…恐らく、ゆりはまだイナリのこの姿は知らないんだろう。どうやってこの衝撃を緩和するかについても悩むことになった。




食堂の居住スペースに戻ると、出かける前とは違い、明らかにゆりの気分が沈んでいる。


体調が悪いのかと声をかけても、空元気で大丈夫だと言い張っている。心配だ。


いろいろと聞き出したいところだが、仕事があるので、仕方なく食堂へ降りる。仕事は仕事で割り切ってやらないといけない。


朝のゆりとのやりとりで、変な噂も静まったのか、昨日の混み具合に比べたらだいぶましだった。さらに、夜になってから雨が降りだしたため、いつもより客足が少ない。


結局なぜ混んだのかはよくわからなかった。



日頃のシンシアさん達へのお礼も兼ねて、食べられる魔物の肉はこちらで引き取る形で、ムチムチ鳥だけは先に解体してもらってお土産にした。


ムチムチ鳥は、丸々と太った鳥のモンスターだ。弱いが繁殖力が強く、丸々太った身体で体当たりをしてくる。


太ってるだけあって、食べられる部位が多く、少し脂っぽいが安価で定番食材として重宝されている魔物だ。



ちょうど休憩時間になったので、いつも通りにシンシアさんに夕食を頂いて部屋に戻る。


ムチムチ鳥のトマト煮、ルイ麦パン、オランの実が今日のメニューだ。イナリ用にはムチムチ鳥のステーキとオランの実が多めに用意されている。



部屋をノックするが、応答がない。

なんとか部屋の扉を開けて入ると、イナリが出迎えてくれて、シーッと黙るように合図される。


見ると、ゆりがソファの背に腕を持たせかけて、ベットの方角を見ながら眠っていた。


器用な寝方をするもんだ。


ベットでは勇人がすーぴーと寝ている。


「ゆーとはあそんでたらおねむでしゅ。ははさまはきじゅいたらねてまちた。」


小声でイナリが状況を説明してくれる。

あとは、ゆりが筋トレで疲れてたから元気がなかったみたいだと教えてくれた。


…イナリはそれで納得したみたいだが、俺の直感ではそれは直接の原因じゃないと思う。


今日は落ち着いてるので、ゆっくり休憩していいとシンシアさんにも言われた。直接ゆりに確認しよう。


イナリには勇人を起こすようにお願いして、俺はゆりに近づく。


ソファに持たれているゆりの身体を持ち上げて、ソファに横抱きにして座る。


いきなり持ち上げられたので、薄くゆりの目が開く。ぽーっとしているゆりの頭や瞼にキスを落とす。


「…リト?」


トロンとした顔で、ゆりが見上げてくる。

うっ。心臓に悪い。



ゆりの意識がはっきりしていないのをいいことに、その柔らかな唇にキスをする。


しばらくの間、その柔らかくて甘い感触を楽しんでいると、ゆりの意識が覚醒したのか、声にならない悲鳴をあげた。


俺が口を塞いでるから、悲鳴をあげられなかったみたいだ。意識も戻ったみたいなので、唇を離すと、ゆりは真っ赤な顔で口をパクパクさせている。可愛い。



イナリに呼ばれたので、ゆりを膝から降ろして、勇人をベットから連れてくる。


未だに顔を真っ赤にしているゆりは、イナリに「とまとみたいでしゅ。」と言われてからかわれていた。


ひとまずは食事をとる。シンシアさんの料理は美味い。もちろんゆりの料理も美味いが、シンシアさんの料理はプロって感じがする。


食事中だが、軽く聞いてみるか。


「ゆりはどうして気落ちしてたんだ?何かあったか?」


変化球は通じなさそうだから、直球で聞く。


ゆりも聞かれることを想定していたのか、徐に話しだした。


なんでも、勇人のために借りた本が、俺が話題にしてた伝説の話らしく、読み聞かせていたらしい。


全部読んだところで、まずは自分が登場しないことにショックを受けたらしい。無理矢理ならこじつけられるっちゃられるな。


そして、物語の中では竜の騎士が、金髪の姫君と恋に落ちることになっている。ゆりは金髪でも姫君でもないので、もし実際に俺がそういう奴に出会って恋に落ちたらと思うと、悲しくなってしまったそうだ。


ゆり自身も嫉妬だという自覚と、無理矢理な妄想だという自覚はあるらしい。


可愛らしい嫉妬をするゆりのために、金髪の姫君には気をつけることを約束した。


それからはいつも通りに戻って、俺はまた仕事に復帰した。


夜に部屋に戻ると、疲れたのか流石に全員眠っていた。


寝支度を整えて、ベットに入る。


ゆり、勇人、イナリを腕の中に収めて引き寄せる。可愛い3人の寝顔を眺めながら、俺も深い眠りへ落ちていった。

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