ハンバーグとマッチョ女子計画
「ははさまのごはんはおいちいのでしゅ。」
イナリはガツガツと、イナリ用特製オニンなしハンバーグを食べている。
犬にネギ類はダメって聞いたことがあるからね。
昼ごはんはシンシアさんに厨房の端をお借りして作った。さすがに昼ごはんの食材を勝手に使うのは躊躇いがあったので、リトと一緒に買い出しの手伝いをした上でだ。
ついでに忙しそうなシンシアさん達の昼ごはんも作っておいた。気に入ってくれてるといいけど。
庶民には一般的なブルーブルの肉ひとかたまりを、鼻唄を歌いながらミンチにする。
何度かシンシアさん達に大丈夫か聞かれたけど、気分は絶好調なので笑顔で返す。
オニンのみじん切りを炒めて、ミンチ肉と混ぜ混ぜ。料理人なシンシアさんは、先進的にいろんな料理を試しているので、パンくずも料理に使う。
有り難くパン粉代わりに提供頂いて、これも混ぜ混ぜ。
こちらの卵は、ウッコイという鶏もどきのモンスターを家畜として育てているらしく、その卵が市場に出回っている。
卵も混ぜ混ぜ。
後は塩と、コショウは高級品なので、代わりになりそうなハーブを混ぜ込む。
熱したフライパンにバターを敷いて、整型したハンバーグを乗せていく。
両面焼き色がついたら、水を少し入れて木蓋を落とす。
しばらくしたら蓋をとって、焼き加減を見て完成!
フライパンに残った滲み出た肉汁に、赤ワイン、キラービーの蜜、塩、そして朝に頂いたミネストローネの残りを少々投入。なんちゃってハンバーグソースの完成だ。
付け合わせに、別の鍋で蒸しておいたじゃがいもとにんじん、ブロリーを切って乗せる。
じゃがいもとにんじんは日本から持参したものの残りだ。いくら日本が恋しくても、食べ物は腐っちゃうからね。
あとはパンを添えたら、ハンバーグランチの完成だ。
部屋に戻ると、リトの前には特大のハート型ハンバーグ。
えぇ。調子にのってますよ。初カレですからね。
勇人の前には、食べやすいように小さめのミートボール風ハンバーグ。こちらも小さいながらにハート型。愛情がこもってます。
イナリのハンバーグは定番の楕円だ。
愛情の差じゃないよ。玉ねぎがないからどうしてもまとまらなくてハートが出来なかったの。もっと修行します。
「肉が柔らかいし、うめぇ!」
リトにも大好評だ。
私の得意料理、といっても施設の子供たちからのリクエストNo. 1で作る回数が多くて得意料理になった。
こちらの世界は肉はステーキか、スープやシチューに入れるのが一般的みたいで、ミンチにする料理はあまりないとのこと。
一瞬だけ、私って異世界料理に革命をもたらして、がっぽり稼げるんじゃ!?なんて思ったけど、商売とかよくわかんないしすぐに考えは消えた。
泊めてくれるシンシアさん達へのお礼になればいいと思うし、何より大好きな人たちが美味しくごはんを食べてくれるならそれで満足だ。
うん、我ながら異世界でも美味しいハンバーグを作れるじゃないか。美味しい。
「まーあー!」
勇人もご機嫌に手づかみでハンバーグを食べてる。まだフォークとかは使えないからね。
私に掴んだハンバーグを差し出してくる。
「それは勇人の分だからね。しっかり食べるんだよ〜。」
通じたのか、そのまま口に頬張る勇人くん。
いっぱい食べて大きくならなきゃ。
作ってる時に味見で食べてたから、みんなの食べっぷりを見てたらお腹いっぱいになってきた。
「もう食べないのか?」
リトが私の食べかけのハンバーグを見る。目が要らないなら食べたいって訴えてくる。
わかりやすいし可愛い。
「もうお腹いっぱいになっちゃった。食べる?」
あぁ、と返事をして少し身を乗り出して口を開けるリト。
こ、この構えは、朝の続き!?
リトが甘えてきてるのか、それともあーんが私の常識だと思われたのか、わかんないけど放置が酷なのはわかる。
「あーん。」
リトが口に入れると、もぐもぐ食べる。
まさか自分がバカップルなことをすることになるとは思わなかった。始めたの私だけど。
昼ごはんも食べ終わって、ちびっこ達はお昼寝タイム。よく食べてよく寝るな〜。
私と勇人はソファでいちゃいちゃ…
ではなくて、リトの見せてくれた地図を再び見ている。
地図の東西南北の様々な場所、そして空の上から海の中まで、様々な場所にリトの求めるものがあるみたいだ。ほとんどが伝説級のものだから、存在するかも怪しいらしい。
古代竜。人魚の涙。魔鏡。天の羽衣。復活の角笛。月の杖。九尾の妖狐。精霊の指輪。黄金のりんご。ユニコーン。虹の石。
うん、どれも伝説っぽいうえに数が多い。
こういうのって普通は3.4個とかのレベルじゃないの?
リトと王子が調べた感触では、大昔の英雄伝説に、さらに伝説の生き物や道具などが後付けで結びついたらしく、どれが実際に魔王討伐に必要なのかわからないらしい。
リト曰く、真実を確かめてても埒があかないから、関係なかろうが集める方針だそうだ。
なんとも難しい道を進むね…。
信憑性も薄いような話だから、これらのものや生き物を探すのと並行して、魔王討伐の協力者を探すらしい。こちらの方が現実的なのは間違いない。
リトがまず目指しているのは、復活の角笛の由来とされる、マンテノウス山脈。この世界の中央よりやや西よりに位置する大山脈で、この山脈と東のアステンシア山脈が世界の中央でぶつかっている。その境目に、勇人の出生地とされる竜の谷もあると言われている。
復活の角笛はドワーフ、土の妖精であるノーム達の秘宝とされているらしい。その彼等が住むのがマンテノウス山脈一帯らしく、他の探しものの中では1番訪れやすく、目的地がハッキリしているそうだ。
「ここからマンテノウス山脈までも、まだ距離がある。マンテノウス山脈に着いてからも、ノームやドワーフの住処を探さないといけないから、3ヶ月は最低でもかかるだろうな。」
3ヶ月ですか。
ファンタジーも現実になると厳しいらしい。ゲームだと時間の感覚はわからないもんね。
「そこでだ…徐々にでもいいかとは思ってたんだが、ゆりには今日から体力作りも始めて欲しい。」
確かに、日本で平和に女子高生をやってた私の体力は、この世界の冒険者基準だと底辺だろう。魔物と戦う以前に、過酷な旅に耐えられるだけの体力すらないんだ。
足手まとい感が半端ない。
でも、一緒に行きたいって言ったのは私だから、頑張らなくちゃ。
「もちろん話してた魔法や薬草術も身につけていってほしいんだが、並行して俺の指示するトレーニングもやって欲しい。もちろん無理させるつもりはないから、そこは間違えるなよ?」
最後は心配するところがリトらしい。
「わかった。もちろんやらせていただきます!」
リトによしよししてもらった。
「旅するにあたっていろいろと考えたんだが、最初は俺とイナリで魔物との戦闘は引き受ける形がベストだと思ってる。だから、残りの期間で俺とイナリは戦闘における連携や実力をお互い確認しようと思う。」
戦いにおいて、チームワークや仲間の力量を知ることは重要事項だそうで、今後のためには2人の連携は必須だろう。
「ゆりにはまずは旅をするにあたって、勇人を抱いてる前提も含めた基礎的な体力作りと、護身術が必要だと思ってる。取り急ぎは体力作りで、護身術は旅の最中に徐々に俺が教える。」
リトが護身術教えてくれるんだ。
確かに魔法の講習とかもある中でいっぺんにやるのはきついかもしれない。
「勇人自身にも体力はつけて欲しいから、そこも俺がフォローする。まずゆりには、この部屋以外では必ず勇人を抱くか背負うかした状態で過ごして欲しい。もちろん、講習の時は別だ。」
まずは勇人を抱っこまたは背負い続ける体力作りってことか。
「あとはこの部屋では、筋トレをしてもらう。これも基本は勇人を抱きながら腹筋や背筋、スクワットとかをこなしてもらう。ここにいる間に一度だけ、みんなで依頼を実施することで、旅ではどんな感じかはイメージ合わせをしよう。」
うん、さらりとスパルタな発言のリト。私が体力低いのが問題だから文句は言えない。
リトが求めるなら、華奢で可愛い女の子じゃなくて、カチムチマッチョな女子を目指すよ!
頑張るぞ!!!




