あーんと引きこもり
ぴょぴょぴょぴょ。
こけーちょこけーちょ。
よくわからない鳥の鳴き声がする。
ちょっと朝は肌寒い。
もぞもぞ。
でも、何かに包まれててあったかい。
すりすり。
「まんまー、ぱーぱー。」
朝から耳元で勇人の声…可愛い。ふふふ。
ごそごそと、私と暖かいものの間に小さな物体が入り込む。
「あうー!」
勇人がなんだか喜んでる?
とりあえず勇人もあったかいから抱き締める。
「ととさまとははさまはなかよちなのでしゅ。ゆーとうらやまちいのでしゅ。」
さらに何か小さな物体が入り込む。
ふわふわな手触り。イナリかな。
イナリも勇人とまとめてぎゅっと抱き締める。
「うふふ。あったかいのでしゅ。」
朝からあったかくて幸せだね。
ん?
朝!?
ぱちりと目が覚める。
目の前には笑顔の勇人、その向こうにはもふもふした尻尾、さらに向こうは…壁?
ふと顔を上に上がると、最近お約束のイケメンのどアップ。
これだけ騒いでるのに、よく眠ってる。
あれ?わたし昨日ソファでリトを待ちながら寝ちゃってたはずじゃ…
この状況だと予想がつく。仕事で疲れたリトに、重いのに運ばせてしまったんだ!
何やってるの私!
頭を抱えながら、時計を見ると、やばい。
そろそろ下に降りなきゃ。
「まんまー。」
私とリトの間でぬくぬくだったから、起き上がると勇人が不満そうな声を出す。
「おはよー。勇人とイナリ。私すぐに仕事しに降りるね。イナリ、勇人の相手してあげてくれる?リト疲れてるだろうから寝かせてあげたいし。」
可愛いけど仕事優先!ごめんね勇人。
素早く着替えながら、イナリにお願いする。
「もちろんでしゅ。いってらいなのでしゅ。」
「いってきまーす。」
パタパタと食堂へと降りる。
それからはルーチンワークを黙々とこなす。
朝ごはんだけは、気合が必要。まずいもの食べさせられないしね。
今日のメニューは、ミネストローネ、腸詰め、フレンチトーストだ。
作り終わったところで、なぜか昨日よりもお客さんが増えてる。
ホールの手が回らなくなってきたみたいなので、落ち着くタイミングまで手伝うことに。
朝はモーニング1択で、飲み物の種類くらいしか聞くこともないので、オーダーも受ける。
なんでか私に声をかける人が多い。そこは上手くカバーしてもらってるけど。
なんとか仕事をこなしてると、シンシアさんに呼ばれる。
厨房の前に戻ると、リトが階段を降りてきたところだ。
「昨日から急に客の数が倍近くになるから、おかしいと思ってたんだよ。」
シンシアさんがぼやく。
「何かあったんですか?」
そう聞くと、なぜか私達2人をじっと見つめる。
リトもよくわからないって顔をしてる。
「まず、昨日の夜は、やたらと飲みにくる客の数が多かったんだ。さりげなく聞くと、うちの店にかっこいい店員がいるって噂が流れたらしい。女の情報網は早いからね。その影響で女性客が増えて、女性客に釣られた男共も増えた。」
これは普通にリトのことだよね?確かに街で他の人を見ても、リトが特にイケメンなことがわかる。
堀の深い人は多いんだけど、その中でもリトは全てのパーツが整ってる。本人の様子を見る限り、無自覚みたいだけど。今も首を傾げてる。
「で、今朝になっても人が多いのは、なんでかと思ったら、ゆりを表に出した瞬間にわかった。客層は常連や昨日も来てた連中の連れがほとんど。たまにゆりが厨房から出入りしてたから、目にとまった訳だ。」
やっぱりこの黒髪が目立つのかな。客寄せパンダみたいになってたってことか。
なんかリトから呆れたような視線が向けられる。
む、無自覚よりはマシだもん。ちゃんと目立つことを自覚してるからね!私は!
シンシアさんがそんな私たちの様子を見て、深いため息をつく。シンシアさん、過労で疲れてるのかな。
「とにかく、私達の平穏な日常のためにも、あんたら2人はホールの真ん中で朝食とってきな。ついでにゆりの作った朝食も採用だから、宣伝も兼ねて食べておいで。スキンシップ多めで頼むよ!」
そう言って朝食のプレートを渡されて、ホールへ追いやられた。
スキンシップ多めって、朝食食べるのになんで?
「あ、飲み物もらってこなきゃね。」
プレートとスープは持ってるけど、飲み物がない。
「俺がそれ持ってくから、なんか取ってきてくれるか?」
「カファーでいい?」
「ああ、頼む。」
リトにプレートを渡して、飲み物を取りに行く。
カファーはコーヒーのことで、リトは好んで飲んでいる。私は苦いのが苦手だから、オランジュースだ。
席に着いて、いただきます。
「そういえば、イナリと勇人は?お腹空かせてないかな?」
「あー、俺が起きた時には2人とも朝から激しく遊んでたからな。さっき出る時には疲れて2人して寝てた。」
それなら先に食べちゃうか。
「私よりも早起きしてたからねー。あの2人。」
「そんなに起きてたのか?」
「うん。その…リトが抱き締めてくれてたでしょ?だから私とリトの間が暖かそうだったみたいで、2人して潜り込んで来たから目が覚めたんだ。リト気づかなかったでしょ?」
「全く覚えてねぇな。」
お互い少し照れながら喋る。
うん、ミネストローネが熱いからね!顔も暑いんだ!
「よく寝てたもんねー。あ、昨日リトが私をベットへ運んでくれたでしょ?重いのにごめんね。」
「…言うほど重くねぇから気にすんな。それより何でソファで寝てたんだ?昨日疲れてたなら、そのまま勇人達と寝たらよかっただろ。」
「昨日あんまりリトと喋れなかったから、落ち着いて話したかったんだけど、眠気に負けて寝ちゃった。勇人やイナリがいると、どうしてもそっちに構っちゃうからさ。」
「確かに落ち着いては喋れねぇもんな。夜遅いと朝に響くから、何もない昼間にでも話そう。あいつら2人ともが昼寝でもしたら大丈夫だろ。今みたいに。」
「そうだねー。あ、それどう?私のせか…国の料理なんだけど?」
ちょうどリトがフレンチトーストに手を伸ばしたので尋ねる。焼き加減はうまくいったと思う。
口に入れて、むぐむぐ食べる。
「…美味い。けど、俺はあんまり甘いのが得意じゃないから、好んで食べるかは微妙だな。」
なるほど、貴重な男性的な意見だ。
「じゃあ側に腸詰めがあるでしょ?それと一緒に食べてみてよ。」
リトが怪訝な顔をする。
いや、騙されたと思って食べると美味しいんだよ。しょっぱ甘くて!
私が実践して食べてるのを見て、リトも真似する。
「こっちの方が上手いな。」
「でしょ?本当はホットケーキでも美味しいんだけど、フレンチトーストとも合うんだよね。」
この美味しさがわかって貰えて何よりだ。
食べながら辺りを見渡すと、ものすごく見られてる。よくこんな視線浴びて食べれたよね私。
こちらから見ると視線を逸らすんだけど、それでもチラチラと見られる。
戻りたくてシンシアさんを見ても、大きくバツ印を送られるし。まだ戻っちゃダメなんだよね。
何したら戻してもらえるの!?
急に食欲無くなってきたんだけど。
「きょ、今日はこの後何しよっか?」
思わず声が裏返る。リトもこの状況と、シンシアさんのダメ出しには気づいてる。
すると、ガタンとリトが私に椅子を近づける。
「それ食わねぇんなら、くれ。足りん。」
なんでか急に甘えたモード?
は!そうかスキンシップか!
それなら…
「そうなの!お腹いっぱいだからあげるね!はい、あーん。」
そう言って差し出すと、きょとんとするリト。
あら可愛い。じゃなくて、違った?
でもここまで来たら引き下がれないよね!?
やっぱ食べるとかした方がいい?
しばらく静止してたけど、リトが決意したようで口を開けてくれた。すかさず食べさせる私。
えーっとこの後は、どうするのが正解なんだろ。
「美味しい?」
とりあえず聞いてみる。
ギロリとリトに睨まれた気がするけど、「美味い。」と答えてくれる。
私が作ったものだし、なんだか照れる。
一部始終を見ていた周囲が騒ついている。
顔を赤くするお姉様や、うおーっと叫んで頭を掻きむしってるおじさん。何かを悟ったように、沈んでいるお兄さん。楽しそうなおじいさんおばあさん。
シンシアさんを見ると、ようやく丸サインが貰えた!
リトと顔を見合わせて、とりあえずリトが私の分を食べて(恥ずかしいからあーんはしてないよ!)、厨房へと戻った。
そんな朝の一幕が終わって、今は勇人とイナリの朝ごはんタイム。
「あまくておいちいでしゅ。」
イナリはフレンチトーストが気に入ったようだ。勇人も好物なので、手づかみでもぐもぐと食べてる。
「どこか行きたいとことか、やりたいこととかあるか?」
リトに聞かれる。
うーん。
「イナリの印になるものを買いたいくらいかな?旅に出るまでに薬瓶とかは欲しいけど…今じゃなくてもいいし。」
やりたいことかぁ。
「もっとリトとお話したいかも。出会ってからバタバタしてたでしょ?私達、お互いのことまだよく知らないから、もっと知りたいし、私達のことも知ってもらいたいな。」
まだまだこれからも長いから、お互い知ることも多いと思うけど、いつになるかわからないしね。
「…いいなそれ。なら今日は部屋でのんびりしながら話そう。俺もゆり達のこと知りたい。」
「いなりもでしゅ!」
そうだね。と、イナリの頭を撫でる。
今日は引きこもりの日だ!




