第一異世界人?発見!!
太陽の光が遮られているからか、昼間なのに薄暗い。そしてジャングルみたいにジメジメしている。
制服が夏服でよかった。そしてこの場所が雪山とかじゃなくてよかった。よく歩くしスニーカーで出掛けた自分にも拍手。
でもこれだけジメジメなジャングルだと、毒のある虫とか植物とかありそう。
私はいいけど免疫力を高め中な勇人くんにはあまりいい環境じゃないな。
しばらく歩くと、くっきりと人が通った跡の続く道を発見!きっとこの道を辿っていけば人里に辿り着くはず。
「まー。やぅあー。」
「あ、勇人起きたのね。おはよー。」
可愛い弟、天使な勇人君がお目覚めです。
腕の中でもぞもぞ動く勇人。辺りを見回してキョロキョロしている。
「今ねー、変な場所に来ちゃって迷子なの。」
「あぅあー。」
「困っちゃうよねー。勇人はお腹空いてない?大丈夫?」
「うーう?」
うん、今日も絶好調に可愛いわ勇人くん。
ちなみに勇人と私は血は繋がってない。施設姉弟なんなけど、基本的な世話は私がしてるから母親代わりになってる。
親バカな私だけじゃなく、世間的に見ても可愛い勇人。茶色がかったふわふわな髪の毛に、ぱっちりまん丸な目。赤ん坊らしくどこをさわってもふわふわもちもちのぷにぷに。
最近は言葉は通じないけど、よく喋るから会話っぽいことはできる。私のことは「まー」と呼んでくれる可愛い弟であり、息子なのだ。
弟が起きたところで、独り言が会話になりながら道沿いに歩いていく。
しばらく歩くと、出くわしてしまった。
白くてふわふわの身体に、垂れた長いお耳。紅いまん丸のお目々。
これだけなら地球でいう典型的な兎さんなんだけど、まずは中型犬くらいに大きい。そしてなんでか頭に大きな鋭い角がある。
あれって施設の男の子達がやってるRPGに出てくる一角兎さんに似てる。
こちらは歩みを止めて、何なら後ずさってるんだけど、あの一角兎さんもこっちに近づいてきてる。
待って、想像よりヤバいかも。まさかのモンスターとかいる感じ?
頭が危険!て信号を出してからの私の行動は早かった。クルリと振り返って、自慢の俊足で道を引き返す。
しばらく全速力で走ってから、ちらりと背後を振り返ると、ピーっと鳴き声をあげながら、一角兎さんが追いかけてくるではありませんか。
しかも、振り返らない間に2匹増えてる!?
あんなに見た目可愛いのに!あの自慢の角で突っつかれて死ぬのは嫌だ!
何より勇人がいるんだもん。お姉ちゃんに諦めの文字はない!
ただひたすらに逃げる。
頭は悪いけど、足の速さと持久力には自信がある。
それでも赤ん坊を抱えたままの逃走には限界があるよ。距離が縮まってきてる。
「うぁ〜〜〜〜!まー!!!」
あぁ、勇人が泣き出しちゃった。
怖いよね。私も怖いよ。
こんなに兎が怖いと思わなかった。
勇人をさらにきつく、ぎゅっと抱き締める。
今はあやしてあげる余裕も全くない。
なんでこんなことになってるんだろう。
昨日の夕飯のハンバーグ、自分の分だけ大きくしたのがダメだった?
喉の奥が鉄みたいな味がする。息も切れてきたし、勇人を抱いてる腕も痛い。
もし、もし追いつかれたとしても。
私が絶対に勇人を守るから。死んでも勇人は離さない。
守ってみせるから。
だから、神様。もしいるなら、勇人を守る力をください。
一角兎達があと3メートル程まで追いついた時に、木々の間からザッと大きな影が飛び出してきた。
「ふぃやー!!」と訳のわからない悲鳴をあげて、勇人を抱えながら飛び退いた。身体を地面にドンッとぶつける。
すぐに視線を向けると、ドンッ、ガンッ、ザシュッと鈍い音がして、ピーピー鳴いてた一角兎達の鳴き声がやんでいた。
見えたのは大きな背中。
紺色がかった黒髪に、広い肩幅。胴体は茶色い鎧のようなもので覆われていて、腕は剥き出し。すらっと長い脚はカーキ色のズボンを長めのブーツにインしている。
肩には斜めがけの茶色いリュックのようなものと、手に持っている大きな大剣を収めるんだろう鞘のようなものが掛かっている。
しばらく観察するくらいには、静かな時間が流れた。大男(推定190cmくらいある)は、一度ちらりとこちらに紺碧の目を向けた後、自分が倒した一角兎達に向かって何やら作業のようなことをしている。
一瞬見えた顔はびっくりするくらいイケメンで、若そうに見えた。もしかして同い年くらい?
一角兎達に何をしているのか気にならない訳ではないが、ちょうど大きな身体に隠れて見えないのであえて見に行くことはしない。
それよりも…。
「大丈夫か?」
作業が終わったのか、こちらに歩いてきた大男さん。掛けられた声に驚くよりも、赤黒く染まった両手にどうしても視線がいってしまう。
「あー、あんまりこういうの慣れてないのか?近くに川があるからそこまで移動しよう。そろそろ日が沈んで来たし、近くの村までは距離がある。見た感じだと例え夜を乗り切ったとして、この森を抜けるには厳しいよな?」
そう問いかけて、自然と視線を追うと、私の腕の中の勇人に向けられている。当の勇人は大声で泣くのは収まったけど、腕の中でぐずぐずとしている。
この世界については全くわからないけど、どんな世界だろうが小さな赤ん坊を連れて若い女が森を彷徨ってるのは、かなり危ない状態だろう。しかも、その森がモンスターの出るような森なら尚更だ。
元の世界に帰るとかの話は置いといて、これからのことを考えると彼を逃したら確実に死ぬ。
「あの、ありがとうございました。」
まずはお礼を伝えたが、長く走ってたので声が掠れた。咳払いをして、深呼吸をしてから立ち上がって彼を見つめる。
立つとさらに彼が長身なことがわかる。
「私達、気づいたらこの森にいて、あの兎達に追われてて…、本当に助かりました。ご迷惑なのはわかっているんですが、人のいる村か街までご一緒させてください。お願いします。」
そう言って頭を下げる。
「待て待て。頭を上げろ。理由はよくわからねぇけど困ってるんだろ?俺も流石に森に赤ん坊連れの女を置いてはいけない。これも何かの縁だし気楽について来てくれ。」
そう言って彼は私達に優しい目を向けてくれた。
ひとまず3匹の一角兎達の亡骸を大剣に括り付けて運びながら(彼が言うには一角兎は食べられて、血抜きをしているらしい)、川へ向かって歩いて行く。その道中で、簡単にだがお互い自己紹介をした。
彼の名はリト。この世界に名字はあるのかも含めて聞きたかったが、彼が語らないことに深く追求するのはやめた。冒険者をしながら旅をしているらしく、たまたま道中で聞こえるはずのない赤ん坊の声がしたので、助けに来てくれたそうだ。
私と勇人の自己紹介もして、ここにいる経緯は落ち着いてから話させて欲しいとお願いして、ひとまず川へ急いだ。
川へ着くと、大きな岩場へ荷物を置いてリトは手を洗いに行ってから戻って来た。
「改めて、俺はリトだ。よろしくな、ゆりと勇人。」
大きな手で私と握手をして、少し屈んで腕の中の勇人のやわやわほっぺをツンとつつく。
こうして私達は、この世界で初めて人と会った。