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父の気持ちと無防備 sideリト

がやがやと、夜の食堂は人々の話し声や笑い声で賑わう。


「あぁん!?酒と言ったらエールだろうがよぉ!」


「だからてめぇは野蛮なんだよ!ワインも分からねぇのに酒を語るな!」



時折、酒の入った住人や冒険者達の怒鳴り声も響く。リトの役割は、そう言った冒険者達が行きすぎた行動をとった時、すなわち喧嘩が始まったら、力づくで店の外に放り出す役割だ。


幸いなことに、このオリエンテはそれほど高ランクな冒険者等はおらず、リトでも対処できるレベルだった。



今日も唸る客を、店先に押しやって店内に戻る。

店の外であればいくら暴れてもらっても構わないというスタンスだ。


そういった客がいない場合は、基本的には片付けを中心に担当している。


短期的な戦力なので、店のメニューがわからない以上、出来ることを手伝う形でこのポジションについた。


「お兄さん、お仕事の合間に一杯付き合ってくださらない?」


たまに客、なぜか老いも若いも女性客からこう言った誘いがある。自分が客のときもたまにあるので、適当に誤魔化して断る。


酒自体は弱くない…むしろ強い方だと自負しているが、仕事中であることと、匂いに敏感なゆりや勇人に酒臭いと言われるのが最もたる理由だ。


「ほんとに真面目で一途だねぇ。ゆりもいい子だし、冒険者じゃなかったら喜んで雇ってるよ。」


極端に男手が少なくて、普段は喧嘩で迷惑を被っているからだろう。普段は気のいい客が仲裁してくれるみたいだが、率先して請け負う人がいるのといないのでは違うからな。


ゆりも真面目だし、異世界から来たため料理センスも変わっている。新メニューの話をよくしてるので、そういう意味ではかなり重宝するのだろう。


途中、シンシアさんに呼ばれて夕食を食べるように指示される。最初は断ろうと思ってはいたが、今日はイナリも仲間入りしたし、家族水入らずで食べた方がいいだろう。


そう判断して、お礼を言って居住スペースへの階段を登る。


ドアをノックし、ゆりを呼ぶと、パタパタとかけてくる音と返事が聞こえて、ガチャリとドアが開く。



特に気にせずに中に入り、お礼を言いかけて思わず叫ぶ。


濡れた艶やかな黒髪、白い肌、白い布地を胸元から巻いているが、太ももから下のすらりとした脚は剥き出しで、綺麗な鎖骨、胸元も少し見えている。


なぜか「ごめんなさーい!」と慌てて掛けていくゆり。いや、謝るならむしろ見た男側な気がするんだが…あの格好で出て来たゆりも悪いと考え直して、何も言わないでおくことにした。



抱き締めた時も思ったが、幼い顔だが身体は出るところが出て…考えないでおこう。


「ととさまおかえりなのでしゅ。」


ソファに座るとぴょんと膝にのるイナリ。

白狐で喋れるくらいに賢いといっても、まだまだ幼いので甘えたい年頃なんだろう。


お腹のあたりにすりすりしてくる姿が可愛らしい。


「ぱーぱー!」

勇人もきゃっきゃと膝をよじ登る。


イナリを撫でて、膝を登りきった勇人を褒める。

この数日の間で、すっかり俺も父親になってしまった。


実際はまだ結婚もしてないどころか、女性歴も皆無だ。ここ数年は特に、強くなるために女性よりも魔物に興味が向いていたので、父親になるなどはずっと遠く、または全く縁のない話だと思っていた。


この2人にとって、自分はどういう父親になれるのだろうか?


「あの…リトごめんなさい。あとお待たせしました。」


戻って来るなり謝るゆりに注意をする。


もしこれが自分以外だったら…まずはもやもやするのと、何もなしでは済まないだろうと思い至る。



ゆりが反省したところで、揃って夕食をとる。


全員が笑顔で夕食をとる光景を見て、悪くないと感じる。


同じく嬉しそうなイナリにも話しかける。

出会った時も白いとは思ったが、汚れが取れた今は本当に真っ白だ。


それだけの汚れが落ちたのなら、気持ちいいだろうと尋ねる。


「コンッ!あと、ははさまのおむねもきもちよかったでしゅ。ふわふわやわやわなのでしゅ。」


何の邪気もないイナリの言葉に、俺とゆりが固まる。


これで俺が本当に旦那で、同意できるような関係があったなら別だが、残念ながら俺達はそういう関係ではない。



さすがに出会って早々に、ゆりに想いを告げるには一方的過ぎるし、リト自身は我慢している。


が、状況は何も気を遣ってはくれず、いろいろすっ飛ばして今や二児の親だ。


ゆりも何かしら想うことはあるらしく、もごもごと謝られた。


特に男心を理解して欲しいとは言わないが、あまりに無防備で鈍感なので睨んでおく。


「ぱんぱー!」


ご飯を食べ終わった無邪気な勇人に免じて、一旦は終わりだ。事の発端のイナリも嬉しそうに肉を頬張っている。




今日は昨日よりも客の入りがよかった。

その結果、仕事が終わった頃にはもうすぐ夜中となっていた。



「なんでソファで寝てるんだ?」


戻ってみると、勇人とイナリはベットで寝てるにも関わらず、ゆりは薬草図鑑を抱えてソファで寝ていた。


運ぼうとは思ったが、汗や様々な匂いのついた身体で触るのは可哀想なので、急いでシャワーを浴びる。


さっと洗って出て来たが、起きる様子もないので薬草図鑑を取り上げて、ゆりの身体を抱き上げる。


仮にも俺は男だ…信頼されてるとはいえ、無防備だろう。ため息をつきながら運ぶ。


軽い。

しかも柔らかいし、同じ石鹸を使っているのに、別のいい匂いがする気がする。


ベットに降ろそうとすると、なぜかぎゅーっと抱き着かれた。





…やめてくれ。


ふわふわやわやわなのでしゅ。


イナリの声が再生されて、思い切りかぶりをふる。



どうにかゆりを引き剥がそうとするが、どこかの森にいたコアーラという魔物のごとく、リトという木から離れない。


俺も疲れた。眠い。


煩悩よりも眠気に、剥がす努力よりも疲れに負けて、ゆりを抱いたまま横になる。


夕食前のイナリの様にゆりがすりすりしてくるが、とにかく眠い。


起きた時に驚いたらいいと頭の隅で思ったが、柔らかい身体を抱き締めながら、何の抵抗もなくすぐに眠りへと落ちて行った。

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