喋る狐と家族
ちょうどおトキさんと荷物を片づけ終わった時点で、白い小さな身体がむくりと起き上がる。
私が思わず駆け寄ると、ホワイトフォックスは飛び起きて威嚇の姿勢をとる。
あんな壮絶な闘いをするような環境にいる子だもんね、さすがに警戒するか。
小さく屈んで、問いかける。
「もう動いても大丈夫?痛くない?」
そう言われると、ハッとした顔でキョロキョロと自分の身体を見回している。
うん、白い大きなふさふさ尻尾も揺れて可愛い。
それから困惑した表情でこちらを見つめる。
威嚇というより、戸惑い、怯え、興味がごちゃ混ぜになった表情だ。
急に手当てされたら驚くよね。治ったみたいだし、怖がらせても可哀想だから、そろそろ立ち去ろう。
「さっきの闘い見てて、凄い強くてびっくりしちゃった。小さい身体であんな強そうな魔物倒すんだもん。だから…えーっと、凄い闘いを見せてくれたお礼?と思ってくれたらいいよ。」
そう言って微笑む。
私の言葉がわかるのか、ホワイトフォックスは驚いたような表情で固まっている。
まぁ治療した理由としては無茶苦茶かな。自分でもこういうのを伝えるのが下手な自覚はある。
でも本当のことだもん。
「じゃあ私達は行くね。えーっと、お互い頑張ろうね?」
そう言ってそおっとホワイトフォックスに手を伸ばす。
そう。もう耐えられなかったの。
衰弱してた時に触れたあのもふもふ。素敵な手触り。そして何より、この子本当に可愛い。
もしこの子のぬいぐるみがあるなら、勇人に買って帰って抱き締めさせたい。超絶に可愛いに違いない。
ホワイトフォックスは戸惑いながらも避けはしなかった。頭をそっと撫でる。
やっぱり撫で心地も最高。
徐々に撫でてるてに近づく形で距離を縮める。
いつの間にかホワイトフォックスも気持ち良さそうに目を細めてる。何それ可愛い。
ほんわかしてると、んんっと咳払いが聞こえた。
あ、そっかおトキさん待たせたまんまだった。
撫でてた手を止めると、きょとんと見つめてくるホワイトフォックス。そんな顔も可愛い…じゃなくて。
「じゃあそろそろ行くね。またどこかで会えるといいね。」
そう言って、立ち上がる。
ひらひらと手を振って、バイバイとして立ち去る。
チラリと見えたホワイトフォックスの顔が悲しそうだったのが、心が痛む。
街へ向けておトキさんと歩き出す。
ざっざっざっ。
ざっざっざっ。
とっとっとっ。
ざっ。くるり。
おトキさんと同時に振り返る。
そこには悲しそうな眼をした白狐。
え、どうかしたの?
可愛い子にそんな顔をされるとほっとけない。
近づくと、足元に擦り寄ってきた。
ん?もしかしてこれって懐かれた??
「随分と小娘のことを気に入ったみたいじゃの。キツネ種が懐くとは珍しいこともあるもんだ。幼いからかもしれんがの。」
そう言ってしみじみと眺めるおトキさん。
眺めてないで、どうしたらいいか相談に乗って欲しいです。
しゃがんで、今度は少し嬉しそうな子狐を見る。
う、可愛いよう。施設だったから、動物は飼えなかったけど、昔から犬や猫、動物は大好きな私。
小さい時に、犬を飼ってる友達から、ペットを飼うなら責任持って飼いなさいって親に言われたって聞いたことがある。
ペット…にしていいんだろうか。というより、勇人育てながらペットまで育てられるんだろうか。
チラリとおトキさんを見つめる。
「そんな眼で見られても、ワシゃ知らんよ。連れてく気がないなら追い払いな。連れてくんなら、ちゃんと決断した上で旦那に相談するんだな。」
う、そうですよね。おトキさんじゃなくて私の問題だもんね。
勇人は連れてってもいいって言ってくれるかな?
呆れながらも優しいからOKしてくれるかもしれないけど、こんなに可愛くても魔物だもんね。
あんなに凄い火の玉で攻撃したりしてたし。
うーんと悩んでいると、コンッと鳴き声がして、ホワイトフォックスを見る。
「わたくちも、おともさせてくだしゃい。めいわくかけぬよう、がんばりましゅる。」
何この子、可愛いし喋るの?
たぶん今の私、狐につままれたような顔をしてる。
「ふぉふぉふぉ!人語も話せるのか。賢い狐じゃの。」
そう言われると、くるりと回って得意げな顔をする。
「たびじのとちゅう、へんげでひそんでひとごをまなんだのでしゅ。できてましゅか?」
可愛い眼が褒めてと訴えてる。
もちろん、そんな要求に私が勝てるはずもなく。
凄いねー。よく喋れるねー。偉いねー。とべた褒めする私。頭を撫で回すことも忘れない。
「私達も少ししたら旅に出る予定なの。あなたも旅をしてるんでしょう?一緒に来て大丈夫なの?」
そう尋ねると、少し考え込んでから口を開く。
「わたくちは、めざすばちょはありませぬ。」
そう言ってぴょんと飛んできた。思わずキャッチして抱き締める。
「うまれたときから、ははうえとたびをしてまちた。…ははうえはとちゅうでなくなりまちた。とてもこわいやちゅらをやっちゅけて、なくなってしまったのでしゅ。」
腕の中ですりすりとする子狐。
「どこへむかっていたのかはわかりませぬ。ははうえには、おおきくなれとつよくなれといわれまちた。だから、どんなやつともたたかってかってきたのでしゅ。」
壮絶な人生、いや狐生を歩んできたみたいだ。まだこんなに幼いのに。
「このてがあたたかくてすきなのでしゅ。ほかのひととはちがうのでしゅ。ははうえみたいにあたたかいのでしゅ。こんどはわたくちがまもるのでしゅ。」
そう言って見つめる小さな白狐。小さな身体で考えた末の決意なんだろう。なぜか私とお母さんを重ねているみたいだ。
「あなたの気持ちはわかった。私も一緒に行けるように努力するね。」
そういうと、ぱあっと眼を輝かせる。
「あ、でも待って。まだ一緒に行けるって決まってないの。」
目に見えてしょんぼり、眼をうるうるさせる。
う、ごめん。
「私にも他に2人の家族がいるの。その2人がOKしてくれたら、一緒に行こう。」
「がんばるのでしゅ。」
きりっと答える子狐ちゃん。
ひとまず大丈夫そうだ。
「そういえばあなたはいくつなの?」
「わたくちは1のとしなのでしゅ。」
1歳ってことかな。
「1歳で人の言葉も喋れるし、闘えるんだね。すごいね。」
褒めたい訳じゃなくて純粋にそう思う。
勇人ももうすぐ1歳だけど、まだ辛うじて言葉を発し出したくらいだ。
「わたくちたちは、かちこいのだとははうえはいってまちた。かちこくなってながきよをいきるのだと。」
賢くなって永き世を生きる。
この子のお母さんは、短い間にたくさんのことをこの子に教えていたみたいだ。
「ひとまず連れ帰るなら、先を急ぐぞい。話を聞きたきゃ、旦那と一緒に聞いた方が効率がいいだろう。」
おトキさんの一声で、まずは街へと向かった。
森を抜けて、街に入る。
街へ入る時に、魔物を連れ込むのは大丈夫なのか心配だったが、おトキさんがこれから従魔にするから大丈夫だと衛兵のおじさんを説き伏せてくれた。
最初に街に来た時と同じおじさんで、おトキさんの説明よりも、この子狐の愛らしさに害がないと判断したのか、快く通してくれた。
この子、本気出したら街を燃やせるかもしれないけど…大丈夫なのかな?
そんなことはさせないけども。
街に入ると、外套の中に子狐もしまって、私もフードをかぶる。
私だけでも目立つのに、ホワイトフォックスと一緒だと余計に目立つ。
おトキさんにも、いい判断だと褒められた。
私も成長するもんね。
街中で外套を被るのも怪しいので、冒険者ギルドまで道を急ぐ。カードを提示して中に入ると、外套で視界が狭くなっていたので、人にぶつかる。
「コンッ!?」
いきなりの衝撃で、子狐が驚いたらしい。
思い切りぶつかって、私がこけそうになったところを、ぶつかった人が支えてくれる。
「ごめんなさい。ありがとう。」
「まんまー!」
ん?
見上げると、呆れたように私を見下ろす背の高いリト。その腕に抱かれる勇人。
「リトと勇人!?どうしてここにいるの?」
「勇人がママってうるさかったからな。散歩とトレーニングがてらここに寄ったんだ。薬草術に実習があって、居ないとは思わなかったけど。」
ちらりとおトキさんを見ながら、リトが説明してくれる。
「こりゃええタイミングじゃのう。話が早く済む。ひとまず講習の部屋へ移動するかの。旦那の方も着いてくるんじゃ。」
おトキさんに着いて部屋へ移動する。
途中で勇人がママ、ママって呼んでくるけど…うう。子狐ちゃんを抱いてるから抱けないの。
そして、それに何も言わないリトは私が何かを隠してるのに気づいてる。
さっきから視線が痛いです。リトさん。
部屋に着いたら、ひとまず椅子に腰掛ける。
おトキさんは教卓に、私とリトは空いてる席に横並びに座った。
うー。どうしよう。どう切り出したらいいんだろう。
私がうんうんと悩んでいると、はぁっと溜息が聞こえたかと思うと、リトが問いかけて来た。
「まず、今ゆりが受けてるこの講習は、薬草術で間違いないな。」
なぜそこに疑問?
「はい。薬草術です。」
「ワシも薬草術の担当じゃから間違っとらんぞ。」
なんだかおトキさんがにやにやしてる。絶対にこの状態をみて楽しんでる。
「薬草術の実習で薬草採取に森に行ったのは、ギルド職員に聞いた。」
はい。その通りでございます。
「で、なんで薬草じゃなくて魔物を持ち帰ってくるようなことになってるんだ?」
魔物って気づいてたのね。リトの観察力恐るべし。もしかして鑑定スキルがあるんじゃ。
驚いた顔でリトを見ると、呆れた顔で、「お前が分かり易すぎるんだ。」とおっしゃる。
私は魔物持ってますよーって顔に出てたんだろうか。どんな顔だろ。
とりあえず出すようにリトに言われたので、抱いていた子狐ちゃんを外套から出す。
「…犬?」
それは酷すぎませんかリトさん。
それを聞いた子狐ちゃんは腕の中で毛を逆立てる。
「しつれいでちゅ。わんこじゃないでちゅ。わたくちはりっぱな、おきつねさまなのでちゅ!」
犬と間違われるのは、狐のプライドが許さないらしい。
確か狐って犬科だったような…。本人たちは別物の意識があるなら黙っとこう。
いきなり喋った狐を見て、リトも固まっている。
おトキさんは爆笑している。助けてよババァ。
「え、とね。この子はホワイトフォックスって魔物みたいで、闘って弱ってたところをポーション使って治してあげたら、懐かれたというかなんというか。」
「なついたのでしゅ。だいすきなのでしゅ。」
そう言って、私の胸にすりすりとする子狐ちゃん。可愛いけど。可愛いんだけども。
「…助けて、懐かれて、一緒に行きたいってなってこの状況か。」
なんだかリトが疲れてる?
私のせいだろうから、安易に言葉をかけられない。
「この子も親を亡くして1人で旅してるみたいだし、実際にこの子が闘ってる姿を見て、仲間になってくれたら心強いかもなぁとも思って。」
もちろん本心でそう思ってる。可愛いしって本心は隠したけれども。
じとっとした視線をリトに向けられる。たぶん私の隠した本心に気づいてるよね。うう。
「まんまー!うあ〜〜〜!」
勇人が泣き出しちゃった。
「まずはそいつ降ろして、勇人抱いてやれ。朝からずっと我慢してたみたいだからな。」
こっちに来てから、こんなに離れてたの初めてだもんね。不安になるよね。
こんなに寂しい思いさせてるのに…母親代わりとしての自信が失われてく。
話を聞いてた子狐ちゃんは、ぴょんと机の上にどいてくれた。本当に賢い子だ。
リトから勇人を受け取って、抱きしめる。
「勇人〜。ごめんね。いい子に我慢してくれてたんだね。偉いねー。」
泣き続ける背中をぽんぽんしながら、よしよしとあやす。本当に勇人はいい子だ。
「…事情はわかった。けど、連れてくなら俺からもいろいろと確認させてもらう。」
そう言って子狐ちゃんを見るリト。
子狐ちゃんは、まだ犬って呼ばれたのを気にしてるのか、少し不貞腐れた顔でリトを見る。
私が言ってた2人がリトと勇人だと理解しているみたいだ。
「名前は何て言うんだ?」
そう言えば私も名前聞いてなかった。普通最初に聞くもんだよね。
「なはないのでしゅ。1のとしのなづけのぎしきまえにははうえがなくなってしまったのでしゅ。」
「そうか…。俺はリトだ。おまえがゆりについて行きたいって言ったのは本心だな?」
「はいでしゅ。」
「なんでゆりと一緒に行くと決めた?」
「ははうえとおんなじ、あたたかいてだったのでしゅ。やさしいのでしゅ。だからわたくちがまもるのでしゅ。」
私についていくと言ったときと同じことを伝える子狐ちゃん。
「正直、お荷物になるなら俺はおまえが付いてくるのは反対だ。」
え…。
リトが反対するとは思ってなかったので、不安になる。って、自分勝手だよね。私。
ただでさえ、私と勇人で守る対象が増えたんだ。これ以上、リトの負担が増えるのはたしかに私も嫌だ。でも…。
「おまえはゆりや勇人を守れるか?」
そう問いかけるリト。
目を見開く子狐。
そして、真剣な顔で答える。
「まもるでしゅ。もっとつよくなるでしゅ。おおきくなるでしゅ。ははうえとやくそくしたでしゅ。」
しばらく見つめ合うリトと子狐。
ほんの少しの間だったんだろうけど、物凄く長い時間に感じた。
「わかった。一緒に行こう。」
そう言って、子狐の頭をリトが撫でる。
「コンッ!!!」
と、子狐も嬉しそうだ。
太い尻尾がブンブン揺れている。
「仲間にするにしても、まずは名付けからだな。流石に名前が無くちゃ呼びづらい。」
そう言いながら、子狐を膝の上に乗せて撫でている。さっきまでの雰囲気とは打って変わって、子狐もトロンと撫でられてるし、和みモードだ。
打ち解けるの早くない?
「ゆりは何か名前の候補はあるのか?」
リトに尋ねられて、うーんと考える。
名前が無いとは考えてなかったからなぁ。
狐だしね…。
「コン太は?」
「こいつ女じゃねぇのか?なんでか男っぽく聞こえるぞ。」
リト鋭い。
「じゃあコン子。」
「呼びにくい。」
ですよね。
「ゴンは?」
「見た目に対して、名前が厳ついよな。」
絵本に出てくる狐の名前はだめか。
また男っぽい名前だし。
「リトは何か案ないの?」
少し考えて、出た回答は、
「シロ。」
「それ見た目のまんまだよね。」
私には某幼稚園児が主役のアニメに出てくる犬の名前が浮かぶから、ちょっと抵抗感。
犬と一緒にされるの嫌がりそうだし。
「うーん。じゃあ、イナリは?」
狐が神様の遣いとして、祀られてるのが稲荷大社で、たしかその狐も色が白かった気がする。
一応、私の知識も添えて伝えたら、リトも納得したし、神様の遣いって部分に惹かれて子狐も気に入ったみたい。
名前が決まった頃には、勇人も泣き止んでご機嫌になっていた。
「あーう。」
ふわふわなイナリが気になるのか、勇人が手を伸ばす。
イナリも人間の赤ん坊は初めて見るからか、恐る恐る近づく。
勇人の手を待って、イナリの頭に置いてあげる。
ふわふわな感触が気に入ったのか…。
「コンッ!?」
いきなりぎゅっと毛を掴む勇人。イナリが涙目だ。
「こら。イナリが痛いでしょ。掴んだらめっだよ。」
怒られてぐずぐずしだした。
ダメなことをしたときは怒るよね。泣いても知らないもん。
イナリがあわあわしだして、自分の尻尾を勇人の前でふりふりする。
勇人はそれを見て、ぴたりと泣き止むとふわふわな尻尾を追いかけてきゃっきゃしてる。
イナリちゃんやりますな。
子狐、ホワイトフォックスあらため、イナリが仲間に加わった。
仲間に加わったところで、イナリからお願いがあると言う。
「わたくちもかぞくになりたいのでしゅ。なので、ははさまとよびたいのでしゅ。」
そう言って私を見上げる。
「ととさまとよぶのでしゅ。」
リトを見上げる。
「ゆーとはゆーととよぶでしゅ。わたくちがあねうえになるのでしゅ。」
そう言ってにっこり笑った。
うん、私はうぇるかむだ!
産んでないけど娘が増えた感じだね。嬉しい!
なんでかリトが疲れ切った顔をしてるけど、まぁいいか。
「決まったところで、従魔登録するんじゃろ?従魔にする魔物はステータスの報告義務がある。従魔と言っても、主人との信頼で成り立つ関係だからね。もし従魔が問題を起こした時に参考に出来るように、冒険者ギルドが把握する。その代わり、従魔として登録しとけば大抵の街に出入りが出来るようになるんじゃ。」
そう前置きしたうえで、要は自分に鑑定させろと言う話らしい。ホワイトフォックスを鑑定する機会なんて無いに等しいからとのこと。
不気味に笑うおトキさんに怯えるイナリだったけど、リトの膝の上で震えながら鑑定を受ける。
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名前: イナリ
性別: 女
種族: ホワイトフォックス
年齢: 1歳
出生: ワコク
レベル: 30
魔力: A
魔属性: 火: S、水:ー、風: A、土: ー、光: ー、闇: ー、無: ー
魔法:
・狐火
・変化
スキル:
・気配察知
気配察知能力に優れている。
・俊足
素早さが優れている。
・狩人
獲物や木の実などの狩人としての素質がある。
・炎耐性
炎に対する耐性があるため、炎攻撃が効きにくい。
・魔法貯蓄
尻尾の毛に魔力を貯めておくことが出来る。
・狐毛
毛がふわふわのふかふかで手触りがよい。
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