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採取と白狐

リラクの実のなる赤い葉の木を探す。鬱蒼とした不気味な森の中で、日当たりの良い場所を探すのは一苦労だ。



「あの木に巻きついている灰色のツタは、ライムアイビーといって、石灰の成分をもつツタじゃ。」


石灰ツタってことかな?石灰って何か他にも混ぜたら漆喰に使われる聞いたことがある。


「あの少し赤みがかった葉は赤ソシじゃな。近くに青ソシもある。料理ではハーブとしても、茶としても使える万能な薬草じゃ。独特の香りはするが、防腐・殺菌作用、精神安定、胃薬の材料としても使える。」


ソシ…地球でいうシソですね。


なんかこちらの世界の食べ物や植物はニアミスしてるものが多い。


でも、シソというちょっと和食っぽい材料があるのは嬉しい!お茶も出来るって話だし、昔紫蘇ジュースとか作ったこともあるからいろいろ使える。


「ソシ取ってきますね!」


一言声をかけて取りに行く。


「慌てんでも薬草は逃げはせんよ。たまに動くやつもいるがな。ふぉふぉふぉ。」


動く薬草は気になるけど、ひとまずソシを収穫。

普段使ってた大葉の5倍くらいの大きさがある。環境の問題なのかな?


近くの木にも何か実がなっている。


丸っこい実が毛むくじゃらだ。

猫じゃらしの先っぽが実になったような感じ。


「それはネコタビじゃな。ネコ科の魔物にやると、魅了効果がある。」


名前的にまたたびと猫じゃらしのくっついたもの?役立ちそうなので、短剣を使ってこれも収穫する。


こんな感じで進んでは説明を聞き、気になる薬草を採取しながら進んで行った。


他に採取したのは、クール草、コガネ花、甘茶の葉、センザイの実、ネロリ花、マリーローズ、ラダンベー、エタール草だ。


地球にも似たようなものがあるのと、無いものでも名前から想像出来るようなものが多い。


それでも私もただの女子高生。何をどう使えばいいとかはわからない。材料をどう使うかも含めて薬草術なんだろう。


途中、毒に使える薬草も教えてもらったけど、間違えて使うと怖いので、毒系の薬草は避けた。



「あった!!」


木の生えていない、小さな広場のような場所に来た。お目当てのオレンジの幹、赤い葉をつけたリラクの実のなる木。


木の名前はゼーション。実と合わせたらリラクゼーションになるんだね。うん、この世界は不思議だ。


背は低いので、特に木登りの必要もなくすんなり採取できだ。


リラクの実は触るとふにふにぷにぷにしている。ずっと触っていたくなる心地よさ。


「これで材料は揃ったね。ほれ、リラクの実に癒されてないでとっとと帰るよ。」


おトキさんに急かされる。


「はーい。」


帰り道はおトキさんが先導して森を歩いていく。


「おトキさんはずっとこのオリエンテに住んでるの?」


これ以上は薬草の知識は頭に入りそうになかったので、気になっていたことを聞く。


「いや、生まれ育ったのは全く別の場所さ。人生長く生きてりゃいろんなことがあるからね。ここに腰を据えたのは老けてからだよ。」


前を向いて歩きながら、淡々と答えてくれる。




「じゃあ、黒髪黒眼の人に会ったことはある?」


そう尋ねると、私を一瞥してまた前を向いて歩く。


「あんた達が初めてじゃ。」


やはりこの容姿は特殊らしい。リトの言葉を信じてなかった訳ではなくて、別の人にも聞くことで一般的な確証を得たかったから。


「小娘、あんたがどこからやって来たのかは知らん。ただ、あんたと息子が目立つことは確実だ。旅をするなら、自分が常に危険だと認識して行動しな。あんたはまだ警戒心が足りない。」


おトキさんの言葉が突き刺さる。


ここは安全な日本じゃない。

魔物もいれば、文化も何もかもまるで違う異世界なんだ。


確かに警戒心は低かったかも。

日本で自分の目や髪の色を気にしたことなんてないから。ずっとリトは気にかけてくれてたのに、自覚が足りなかった。


「気をつけます。ありがとう。」


素直にお礼を言う。


「礼を言われるようなことはしちゃいないよ。」


おトキさんが少し微笑んで返してくれた。



ふとおトキさんが足を止めた。

つられて私も足を止める。



「何か近くにいるね。」



そう言ってそろりと体勢を低くして動き出すおトキさん。私もゆっくりと後に着いて行く。



茂みをかき分けて進み、一つの木の陰から向こう側を覗くと、おトキさんの合図で私も覗く。



魔物同士が闘っていた。


一方は雄牛の頭、大きな筋骨隆々の身体、そして大きな翼を背にもつモンスター。


もう一方は白いふさふさの毛を持つ小さな狐。



「あれはミノーグルとホワイトフォックスだね。この森にしちゃ珍しい組み合わせじゃ。」


小声でおトキさんが呟く。


「この森にはあまりいない魔物なんですか?」


ホワイトフォックスの方は魔物というより、動物っぽく見える。動物図鑑とかで白い狐を見かけた記憶もあるし。



「ミノーグルは中堅クラスの魔物で、こんな低級な森では見かけないね。決まった生息地はないからなんとも言えないが、動きにくいこんな森にはまず住んでない魔物だね。」


おトキさんの話の通り、ミノーグルは闘いにくいのか、周りの木を倒しながら闘っている。木がバキバキ倒されてるよ。すごい力だ。


「ホワイトフォックスは存在自体が珍しい。キツネ種の特性として、かしこく魔法に長けているうえに長寿で、神の使いとも言われて神聖視されている地域もある。個体数も少ないし、警戒心も強いから人里近くには現れないと聞く。」



けど、なぜか今目の前にいるんですね。


「しかし、ホワイトフォックスは大人であれば馬ほどの大きさと聞く。あれはまだ本当に幼いな。」


本来は馬くらい大きいと聞いて驚く。


ぴょこぴょこミノーグルの攻撃をかわすその身体は、いくら離れたところから見ているとはいえ、サイズでいうとチワワだ。


そんな小さな身体で、あの巨体のミノーグルと闘っている時点で驚きだ。


ミノーグルは主に木を倒して飛びやすくした場所から、ホワイトフォックスがいる場所目掛けて頭のツノを突き出して空から攻撃をしている。時折、攻撃を避けたホワイトフォックスに逞しい腕でパンチも繰り出して、倒木が砕けているのも眼に映る。


対してホワイトフォックスは、特に攻撃を仕掛ける訳でもなく、ミノーグルの攻撃を素早く的確にかわしている。ただ、ミノーグルの攻撃は当たってないものの、ミノーグルの倒した木にぶつかったりして傷を負っているような状態だ。


おそらくミノーグルが優勢、ホワイトフォックスがどこまで粘れるか、時間の問題のように見える。


ミノーグルがまたホワイトフォックスに向かって突進した。木の破片が飛び散る。


しかし、ホワイトフォックスの姿が消えた。


「え?」


ミノーグルも私と同じ心境のようだ。


キョロキョロと辺りを見回している。




と、その時、ミノーグルの背後の倒木がポンッと音を立ててホワイトフォックスになり、同時にホワイトフォックスの口から火の玉が連続で飛び出す。


火の玉はちょうどミノーグルの背中を直撃して、大きな羽から勢いよく燃えだした。


ミノーグルは暴れながらも、ホワイトフォックスに攻撃をしようとするが、攻撃直後に距離をとったホワイトフォックスに攻撃は当たらない。



あとは時間の問題だった。ホワイトフォックスの火の玉はミノーグルを燃やし尽くし、ツノと魔石だけが残った段階で火は消えた。


魔物同士の壮絶な闘いに思わず見入ってしまった。人間と魔物だけじゃなくて、魔物同士でも当たり前だけど闘いがあるんだ。


ホワイトフォックスはミノーグルのツノに近づいたところで、パタリと横に倒れてしまった。


周りに魔物がいないことを確認して、おトキさんとともにホワイトフォックスに近づく。



恐る恐るホワイトフォックスに触れると、まだ息がある。


「どうやら闘いで衰弱して倒れたみたいじゃの。ミノーグルのツノと魔石は換金できるからあんたが回収しときな。魔物にゃ無用だろうからね。」


おトキさんの言う通りに、ミノーグルのツノをリュックに仕舞う。


「この子はどうするんですか?弱ってるみたいだから、このままだと危ないですよね。」


苦しそうに息をするホワイトフォックスを見ながら尋ねる。


「助ける気かい?いくら見た目が可愛くても魔物だよ。人間に友好的な魔物もいるが、キツネ種はどちらかと言うと人間嫌いだろう。目を覚ましたら燃やされちまうかもしれないよ。」


呆れたように反対される。


「燃やされるのは嫌だけど、このまま傷ついた状態で放って置けないです。」


小さいから同情してるのかもしれない。

幼いから勇人を重ねてるのかもしれない。


きっとこの小さくて幼い白狐は私よりも全然強い。


小さくて幼いのに、あんなに凶暴そうな魔物に勝って、今は力を使い切って弱ってる。


たぶん、単純に小さな狐を尊敬した。だから、助けてあげたいと思った。


「仕方がないね。もともと時間がなかったら野外で薬草の調合をする予定だったから、道具はある。」


そう言って、鍋とおたまを取り出して、魔石コンロでお湯を沸かす。


「まずはポーションを作るよ。特に人間だろうが魔物だろうが効果は同じだからね。材料を取り出しな。」


指示されて、慌てて薬草を取り出す。


「お湯が沸騰したところに、キュイ草を入れる。煮詰めたら、お湯が濃い青色になったところでリラクの実を割って、中の汁を鍋に注ぐ。草1に対して実1の割合だ。」


おトキさんの指示通りに鍋に投入する。

青色のお湯にリラクの実の汁を混ぜると、少し明るい水色へと変化した。


「水色になったら、火を止めてコンロから降ろしな。そこにヌルヌル草を刻んで混ぜ合わせるんだ。ヌルヌル草は少しでいいからね。」


言われた通りに刻んで、ヌルヌル草を入れる。入れた瞬間にヌルヌル草の姿はなくなった。鍋の中身をかき回す。少しトロミがついた。


「これでポーションの出来上がり。もうすくえる温度のはずだから、ゆっくりと陶器の瓶に移しな。」


水色のトロミのある液体、ポーションを慎重に薬瓶に移した。


出来立てのポーションを、ホワイトフォックスの身体にかけて塗り込む。すぐに身体に染み込んでいって、目に見えていた傷が治っていった。まるで魔法みたいだ。


「ポーションてこんなすぐに傷が治るんですね…。」


「何当たり前のことを言っとるんじゃ。」


またまた呆れられてしまった。


ポーションで簡単な傷と疲労は回復される。目覚めるのは時間の問題とのことで、ホワイトフォックスはそのままに講習を続ける。


毒消しは、鍋は使わない。すり鉢のような道具でキアル草とドヌキ草をすりつぶしながら混ぜ合わせる。黄色い草と青い草が混ぜ合わさって、緑色のペーストが出来た。ここに水を加えてかき混ぜたら、毒消し薬の完成だ。


同じくこれも陶器の薬瓶に入れる。



最後に作るのは、これまで採取した薬草から作れるもの。


おトキさんのオススメで、ネロリ花とセンザイの実で、ネロリ洗剤を作ることになった。


作り方は簡単で、センザイの実を絞ってためる。同じくネロリ花も麻袋に入れて、揉んで絞り出す。その液体をセンザイの汁に混ぜたら、ネロリ洗剤の完成だ。


名前の通りオレンジの香りのする洗剤で、洗濯にも食器洗いにも使える万能な洗剤だ。あまり虫は好かない香りだそうで、虫除けにもなるのでかなり重宝しそうだ。


すべての実習を終えて、講習も終わる頃に、ホワイトフォックスが目を覚ました。

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