武器と冒険者の心得
さて、ということで向かったのは街の外れ、食堂とは逆方向の鍛治工房の集まるエリアです。
この世界、鍛治と言えばやっぱりドワーフというくらい、ドワーフの方の割合が多い。
ファンタジーの世界でしか知らない存在なので、実際に目にすると変な感じだ。
私と同じか、小さいくらいの身長で、みんな毛むくじゃらで髭が生えている。
そんなドワーフ達が広場に露店を構えている。基本的に集中して武器や防具などを工房で作って、まとめてお店に置くそうだ。
物静かな性格の人が多いのか、あまり呼び込みがないのでゆっくりと見て回れる。
「魔物の解体とか、採取の時に重宝するから短剣は買っておいた方がいいな。」
そう言って短剣を物色するリト。
なるほど、攻撃とかだけじゃなくて便利なんだね。
「ちなみにゆりは何か武器って使ったことあるのか?」
「武器とか使わない環境で育ったから、全くない。」
「それならいきなり短剣を武器にするのも厳しそうだよな。」
「短剣て扱いづらいの?」
さっきの話だと便利そうだし、他の武器よりは軽いから使い勝手いいのかと思ってた。
「人によるとは思うけどな。俺は今でも大剣を、武器にしてるから、短剣は苦手だ。長さが短い分、リーチが短いから攻撃のときはかなり敵の元に踏み込まなきゃいけないし、得物として小さいから攻撃を受けるときも受けづらい。よっぽどスピードと技術がないと武器としてはやりにくいかな。」
なるほど。確かに魔物との距離が近くなる可能性が高いのは嫌だ。ただでさえ魔物に免疫がないから、怪我どころじゃ済まないかも。
「じゃあ私に向いてる武器ってなんだろうね。適正だと弓とかもあったけど、すぐに使いこなせる自信ない…。」
足は速かったけど、器用ではなかったからなあ。
「攻撃主体じゃないなら、杖が1番扱い易いんじゃないか?もともと物理的な戦闘が苦手な魔法使いがよく使うものだし、防御は杖でもできそうだしな。」
「あーやー!うー!!」
リトの腕に抱かれている勇人が喋り出す。
小さな可愛い手を杖が沢山入ってる樽に伸ばしている。
「勇人が気に入ったのがあるのかな?リト、勇人連れてってあげてもらっていい?」
「いいけど、いいのか?好きにさせて。」
「興味持つのはいいことだもん。良さそうな杖だったら、それにするのもいいかもな〜。勇人の選んだ杖なら頑張れそう!」
「それでいいのか…」
なんとなくリトの呆れた感じは伝わってきたけど、気にしない!お姉ちゃんは勇人に託すよ!
呆れながらも勇人の目指す方向へ進んでくれるリト。樽に近づけると、ペタペタと杖を触りながら、背が低くて他の杖に埋もれていた一本を抜き出そうとしてる。
「この杖がいいのか?」
リトが聞きながら抜き出してくれる。
勇人はきゃっきゃと拍手。
うん、この杖がいいようだ。
「面白いガキだな。俺もその杖があることすら忘れてたぜ。」
しぶーい低い声が聞こえてきた。
見るとこのお店のドワーフさんみたいだ。
「この杖はどういう杖なんだ?」
リトが尋ねてくれる。
「特に凄えモンでもねぇ。希少な素材を使ってる訳でも、特殊な効果がある訳でもねえ。特徴があるとしたら、軽くてしなやかな材質で丈夫なことと、手にしっくりくる扱いやすさ、あえて何の付加価値もないことが売りの杖だ。」
本来なら魔法使い達が選ぶのは、自分の魔力を高める効果があったり、杖自体に何らかの特殊技能が詰まっているものだそうだ。
安い杖でも、装飾も兼ねて守備力をあげる魔石が付いてたりするのが一般的なのに対して、この杖はただの杖として使いやすいことを追求しているそうだ。
「嬢ちゃんも見たところ駆け出しだろ?初心者だと技術や力がない分、特殊な力があればそれに頼ってしまう。あくまで自分の力量をあげたいなら、道具に頼らずに自分を高めることを鍛治師としてはオススメするぜ。」
いくら武器がよくても、扱い手が弱いと話にならん。
とのことだ。
ゲームの世界じゃない。
現実世界だからこそ、どんなに強い武器を手に入れても、それだけでは強くなれないんだ。
確かに使いこなせないと意味ないよね。
うん、決まり。
「ある意味私にぴったりなのかな。おじさん、この杖ください。」
「ついでに短剣も買ってくならまけてやるぜ?」
「まんまー。」
お、また勇人がお呼びだ。
見ると、おじさんの足元に置いてある短剣に手を伸ばしてる。
それを見たおじさんは、ガハハと笑いだした。
「こいつは面白いな。偶然にしても不思議だ。この短剣はその杖と同じ素材、かつ同じ一本の木から作られてる。刃も含めて軽くて丈夫だ。2つが兄弟だってわかってんのかもな。」
そんな偶然あるのね…
勇人くん凄いです。
「兄弟の武器は似てるから扱いやすい。この短剣を選ばれちゃあ他に勧められねえな。高いもん買わそうとしてたんだが。ガハハ。」
どさくさに紛れて人聞きならないよ!おじさん!
「兄弟一緒に買ってもらえるんだ、親としては嬉しい限りだ。1000リンで売ってやるよ。返品は受け付けねぇぞ。」
懐の深い、笑い上戸なドワーフさんから有り難く買わせてもらった。
腰のベルトへ2つとも引っ掛ける。
確かにどちらも軽いし、小ぶりだし、非力な私でも扱いやすそうだ。
いい買い物が出来たところで、そろそろリトの仕事が始まる時間。ドワーフさんにお礼を言って、駆け足で食堂への帰路についた。
「…にしても、黒髪黒眼で美女だったな。息子も負けずにすげー可愛かった。野郎も紺の髪に顔も整ってやがったし、まるで昔話に出てくる西の大英雄だな。」
久々にいい商売だったと呟いて、ドワーフは腰掛けた。
食堂に戻ると早速、リトはお使いを頼まれて元来た道を戻っていった。
私は勇人と部屋で大人しくしてよう。
「うあーーーーー!」
リトと強制的に引き剥がされて、泣き叫ぶ勇人さん。どれだけリトが好きなんだ。嫉妬しちゃうよお姉ちゃん。
なんとか、えぐえぐと泣き止んできて、落ち着いた頃には夢の中。今日もお出掛けしたし疲れたのかな?
…あんまり夕方に寝ると、夜泣きするから良くないんだけど。
それでも起こすのは可哀想なので我慢。
冒険者ギルドから借りてきた本を取り出す。
『冒険者の心得』
どこの冒険者ギルドにも置いてある、冒険者ギルド発行の本。けれど、冒険者になるからと言って律儀にこの入門書を読む人は少ないらしく、リトも面倒くせぇから読んでねえだそうだ。
私は新しいものを買ったら取り扱い説明書はちゃんと読むタイプなので、この本も迷わず選んだ。冒険者どころかこの世界ですら初心者なので、幅広く情報が欲しいのもある。
読んでみると、冒険者ギルドの役割から受けられるサービス、ランクアップや依頼について、魔物や世界各地のダンジョンについてなど、本当に幅が広い。
冒険者にオススメの持ち物や便利な小技集も載っているため、飽きずに読み込める。
トントンとノックの音がして、リトが入ってくる。
見ると、大きなお盆に夕飯を乗せて運んできてくれたみたいだ。
「なかなか降りてこないから、これ持って休憩がてらみんなで食べてこいってさ。」
「もうそんなに時間たってる!?」
気付けば結構な時間が過ぎていた。
シンシアさんにも気を使わせてしまったみたいだ。
美味しそうな夕食を机の上に置くと、頭にポンと手を置かれる。
何かと思って視線を向けると、リトが心配そうな顔をしていた。
「疲れてないか?」
思えばいつもリトは気を遣ってくれている。異世界になれない私に。
元の世界ではあまりいない、紳士な一面にどぎまぎする。どう反応したらいいかわかんないや。
「冒険者ギルドで借りた本がさ、思ったよりも読みやすくて面白くて、気付いたらこの時間になっちゃったの。ごめんね。」
とりあえず素直に報告する。
嘘は苦手なのです。
「大丈夫ならいいや。冷めないうちに食べるか。」
「ぱーぱー!」
愛しのリトがやって来たので勇人が目覚めたみたいだ。
…本気で妬ける。
「勇人の分もシンシアさんが作ってくれたぞ?いっぱい食べような。」
勇人を抱えて、食べ物を見せながら話すリト。
もうどこから見ても父だ。父親だ。
そこからは3人でワイワイご飯を食べて、リトは仕事に、私は忙しい中で気を利かせてくれたシンシアさんに勇人とともにお礼を言いに行った。
途中で食堂からの視線を集めたけど、見かけない顔だから注目を浴びたんだろう。
戻ってシャワーを浴びて、勇人を寝かしつける。
案の定、夕寝をした勇人はなかなか寝てくれなくて手こずったけど、今はくーくー寝てくれている。
この世界に来て3日目。まだ慣れないけど、この世界が現実だという実感も出てくる。
これから先、どうなるんだろう。
私は勇人を守れるのだろうか。
このままリトと一緒に旅して、急に元の世界に戻されたりするの?その時は勇人も一緒?
いろいろとわからない。どこに向かえばいいのかもわからない。
それでも…
ごろんと勇人の横に寝転がる。
勇人が幸せになれるように。
リトも幸せに出来るように。
精一杯にこの世界を生きていこう。
冒険者とは。
旅をして、様々な依頼やイベント、出会う困難を乗り越えて、成長していく者たちのことだ。
時には富を手に入れるだろう。
時には名誉を手に入れるだろう。
冒険を続ける限り、人生に飽きはやってこない。
まだ見ぬ世界を求めて。
勇猛果敢に挑戦し続けて欲しい。
我々はそんな冒険者達をサポートする。
〜初代冒険者ギルドマスター エドワード・トマソン〜




