お仕事と適性検査
朝目が覚めると、隣にはイケメンが寝てました。
あ、そっかリトだ。なんか謎に腕枕してもらってる私。これ場面が場面なら悲鳴あげるパターンのやつだよね。
それにしても、普段大人びて見えるけど寝顔は年相応で若く見えるなー。なんか可愛い。
「やーうーあー。ぱぱぱぱぱぱぱぱ。」
朝から元気な勇人が、仰向けに寝てるリトの広い胸の上に乗っている。いつの間にかこの高さをよじ登れるようになったんだねえ。
「たーいたーい。」
なんだか今日は勇人がご機嫌だ。
時刻は午前5時半。シンシアさんから6時には下の食堂に来るように言われてる。目覚ましもなく起きられてよかった。
私よりもずっと長い旅をしてきて、疲れてるだろうリトを起こさないように、勇人を抱き上げて準備をする。
仕事着もシンシアさんのお子さんのお下がりを借りて着る。髪を元々着てきた制服のリボンで一つに縛る。ゴムとかなかったからね。何でも使いますよ。
白のブラウスに黒のロングスカート。茶色のエプロン。後ろでリボンで一つに髪は束ねる。
そういえば昨日は靴を買いそびれたのでスニーカー。普段履きには履きやすいから、街にいる間はスニーカーにしよう。
準備がちょうど終わったところでリトが起きた。
そして、さっきまで暴れてたからか勇人が逆におネムなようだ。
「リトおはよ。勇人さっきまで起きてたんだけど、眠っちゃったから見ててもらっていい?私はお仕事行って来るね。」
まだボーッとしているリトに勇人を預けて、下の階に降りる。
食堂に入ると、シンシアさんと娘のアメリさんが出迎えてくれた。
昼間や夜は多くのお客さんで賑わうので、配膳係の店員さんを雇っているけど、朝は比較的のんびり出来るらしく、配膳長でもう1人の娘さんであるルイゼさんと3人で回しているそうだ。基本的には朝は家で食べる人が多いので、朝は常連さんか宿に泊まってる冒険者の人が主なお客さんらしい。
まずは昨日までに使ったふきんやテーブルクロス、調理服等の洗濯のお手伝い。その後は食堂全体の掃除をして、ひとまず簡単な朝食をいただく。
そのあとは配膳は余裕があるとのことなので、モーニングの準備の手伝いと、昼夜に向けての仕込みのお手伝いをする。
食材の名前は覚えるのに苦労はするが、全くわからないような名前は少ないので、聞いたらひと通り覚えることが出来た。食材の名前を確認する私を不思議がってはいたけど、出身が田舎すぎて食材の呼び名が違ったと言うと納得してくれた。
ひとまず安心だ。
食堂のモーニングは毎朝日替わりでのみ提供されているみたいで、今日はコンソメスープ、トマトサラダ、ベーコンエッグ、トーストだそうだ。
シンシアさんの指示で、たくさんのトマトを切っていく。施設で培われた調理スキルとスピードを認めて貰えて、仕込みのついでにこの近辺の伝統的な料理も教えて貰った。
気付けば既にお客さんがモーニングを食べていて、慌てて準備にもどる。
途中、リトと勇人も降りて来て朝食を摂ることになった。シンシアさんの好意で調理場を借りて勇人の朝ごはんも作る。
この世界の料理は元の世界と似ている部分もあれば、全く違うものもある。こっちで覚える新しい料理も食べさせてあげたいけど、慣れるまてまは勇人は地球の料理を母(姉だけど)の味として食べて貰おう。
作ったのはケークサレ風ホットケーキ。ホットケーキの材料にオニン、ホレン草、ベーコン、チーズなどを入れて焼くだけの簡単な朝ごはんだ。その割にいろんな栄養がとれるので、勇人には日本でもよく朝ごはんとして食べさせていた。
こちらではあんまり見かけないらしかったが、味の想像はつきやすいものなので、子供にはいい料理だとお褒めの言葉をもらえた。
シンシアさんの好意で、リトと勇人の朝ごはんは私が運ぶ。新しい店員が珍しいのか、食堂の人の視線を集めたみたいだけど、気にせずに2人の元へ。
リトがカウンターに腰掛けて、その膝の上に勇人が座ってる。
「2人とも朝ごはんだよ〜。勇人はこっちね。」
2人の前に朝ごはんを並べる。
「ありがとう。ゆりは食わないのか?」
「私は仕事の合間にシンシアさんたちと食べちゃった。勇人のごはん見てて貰っていい?これなら勇人自分で食べれるはずなんだよね。」
「こっちは全然いいぞ。勇人も大丈夫だよな?」
「あうー。」
既に勇人は食いしん坊だ。朝ごはんに手が伸びてる。届いてないけど。
「じゃあよろしく。行って来るね。」
リトに渡されたパンケーキを手で持ってもぐもぐ食べる勇人。手づかみできるものは食べれるようになったんだよね。2人をちらりと見てから再び仕事再開。
仕込みの量が半端なくて、あっという間にお昼になった。忙しい昼時に抜けるのはなんだか申し訳なかったけど、いつも2人だからだいぶ助かったと言ってもらえて、明日も頑張ろうと思う。
着替えに部屋に戻ると、勇人がリトに高い高いをしてもらってきゃっきゃしてるところだった。
今じゃすっかりリトに懐いてる勇人。最近大きくなってきたから、私だとあんまり高く持ち上げられないんだよね。男手ってやっぱりいいね。
すぐに支度をして、街に繰り出す。
どんな食材があるのか見たいという私の希望で、リトと市場を巡りながら串焼きや果物で昼ごはんを済ませる。
地球にある食べ物から全く見たことがないものまで様々で、それぞれが何かリトやお店のに聞きながら見て回った。試食もたくさんさせてもらって、勇人もあむあむと食べてた。なかでもパップルという、パイナップルとりんごを合わせたようなジューシーな果物を勇人が気に入ったみたいなので、リトが勇人のおやつとして買ってくれた。
お腹も膨れたところで、目的の冒険者ギルドへ。今日は適性検査ということで、申し込み用紙を記入した。ちなみに私がそのまま書いたら、勝手に翻訳されて向こうの人が読めるようになっていた。
スキル凄いって実感した瞬間だった。
勇人はまだ適性検査を受けるには幼いので、リトと一緒に素材換金や依頼を探して待っててもらうことにした。
私だけ別室に案内される。ギルドのお姉さんの説明によると、適性検査は冒険者として何が得意かを測るための試験のようなもので、筆記試験や体力測定などを行うそうだ。その結果を見て、何が得意でどのような方面で活躍出来るかの指針とするのが目的だ。
まずは筆記試験。簡単な読み書きから、計算、化学の問題のような文章題、冒険者に必要そうな道具や旅の知識について出題された。実技として手順書通りに薬草を調合したり、道具を作ったり、罠を見つけ出したり、夜営の準備をした。
次に体力魔力測定。中庭みたいなところに出て、走ったり、筋力を測ったり、魔法を強制発動する魔道具を使ってみたり、魔力値を測定した。実践として様々な武器や道具を試しに使って模擬演習まであって、この結果は語るまでもなく…うう。
想定外に内容が多すぎて、全部の検査が終わった頃には、私は疲れ果てていた。
「まーまー。」
「勇人〜。私の癒し〜。」
途中から私が走ったり跳んだりしているのを見ていたリトと勇人の元へ行く。
2人はベンチに座っていて、勇人もちょこんと座りながら私が何かするたびに拍手してくれていた。
うん、いい子に育ってくれて嬉しいよ。お姉ちゃん頑張れたよ。
座ってる勇人を抱き抱えてそのままベンチへ座る。
「ふぁー。疲れたー。頭も身体もパンパン。」
「お疲れ。なかなかハードな検査だったな。」
リトがよしよしと頭を撫でてくれる。
うふふ。子供扱いだけど褒められるのは嬉しい。
「うあー?」
「けど、出来る限り頑張ったよ!私何に向いてるって出てくるのかなぁ?」
「適性が少しでもある中から、ゆりがやりたいものを伸ばしたらいいさ。お、結果が出たみたいだぞ。」
検査を担当してくれたお姉さんがやってくる。
「こちらが検査結果になります。この適性を目安として冒険者としての方向性を考えてみてくださいね。」
紙を受け取る。ドキドキ。
リト、なんでか勇人も紙を覗き込む。
適性検査の結果として、適性のあるもののみ記載という説明書きの下にはこう書かれていた。
------------
ユリ・ナツメ
【適性のレベル】
優: 推奨
良: 補助として習得推奨
可: 習得は可能
【適性項目】
水魔法: 良
光魔法(治癒): 良
光魔法(浄化): 良
無魔法: 優
薬草術: 優
魔物使い: 優
錬金術: 良
短剣: 可
弓: 可
杖: 可
調理: 優
------------
えーと、これはどう捉えたらいいんだろう?
ちらりとリトを見る。
私の視線を受けて、リトが尋ねる。
「ここに載ってる中で、まず何を習得したい? 優がついてるものが相性いいんだと思うが、初級の魔法やスキルなら良のものも最初に覚えてて損はないと思う。」
あくまで私の意思を尊重してくれるみたいだ。
優のついているものは、無魔法、薬草術、魔物使い、調理。調理は今の食堂の仕事で経験値は稼げそうだから、わざわざ教わる必要はないよね。
「ちなみに無属性魔法ってどういうものなの?」
あー…と考えるリト。
「一般知識として、他属性に属さないような魔法が無属性って言われてる。無属性魔法に精通している魔法使いは少ないから研究途中の魔法とも言われてるな。例えば時間だったり、空間に働きかける魔法や、何かを消したり、逆に創造したり、自然の概念に属さないものを無属性と呼ぶって本で読んだことがある。代表的なものだと空間収納や転移魔法、変化魔法、肉体強化の魔法は聞いたことがあるし、適性があれば覚える冒険者も多い。」
なるほど。想像以上に便利そうな魔法だ。
「極めるのは難しいかもしれないが、初級や便利な魔法なら無属性魔法も講習あると思うぞ。」
やたらと無属性魔法に適性があるみたいだから、伸ばすなら無属性魔法かな?良だけど普通に水魔法も使ってみたいな。まぁゆっくり覚えていけばいいよね。
「とりあえず無属性魔法の講習を受けてみる!」
「そうだな。薄々思ってはいたが、ゆりは戦闘より補助系だな。そっちの伸び代の方が圧倒的にある。」
私も同感です。物理攻撃の適性は可のやつしかないからねぇ。
「補助系でいろいろ伸ばしてくのが良さそうだよね。あとは魔物使いか薬草術にしてみようかなぁ。」
「魔物使いはパートナーになってくれる魔物と主従関係になって、戦ってもらうことになるからすぐには出来ないだろうな。」
「だね。ならやっぱり薬草術かな。生物とか化学とかは私好きだから、なんとなく面白そうだし。」
「ゆりが興味あるならいいんじゃないか。俺はそういう頭使いそうなのは無理だ。身体動かす方が性に合ってる。」
リトはバリバリ体育会系っぽいもんね。
私は物理攻撃力ゼロな分、頭使って戦えるようにならなきゃ。そして、リトを華麗にサポートしまくるんだ!
「リトのこといっぱいサポートできるように頑張るね!」
リト強いから不要かもだけど…見捨てられないように頑張る。
「期待してる。」
よし、では早速ということでギルドの講習受付カウンターを訪ねた。ちょうど明日、薬草術の初級講習があるみたいなので申し込み。無属性魔法は来週2日間あるみたいなので、これも申し込むことにした。
ついでに、暇な時にも勉強出来るようにギルドの図書サービスで本を2冊借りることにした。元々学生が本業だからね。学べる時に学ばないと。しかも今は生活がかかってるから尚更だ。
借りる本は『冒険者の心得』っていうギルド発行のいかにも冒険初心者向けの本と、『魔法の教科書 初級編〜これであなたも魔法使い〜』っていうこれまた魔法初心者向けの本だ。
「まんまー。たーい。」
ん?勇人も本が読みたいのかな?
勇人の指さしてるのは…うん、表紙がキラキラ光ってる豪華な本だね。『貴族のたしなみ』だって。貴族向けだから豪華なのか?
「もっと面白そうな絵本借りてあげるよ。あっちの方にありそうだね。」
この世界の識字率はそんなに高くないみたいで、冒険者でも読み書き出来ない人がいるから、ギルドにもそんな人のために絵本がそれなりに置かれている。
「これとかどう?『魔法使いと幻のダンジョン』。」
「やーあ。」
いやいやして別の本に手を伸ばす勇人。
「『勇者と竜の騎士』か。これがいいの?」
「あうー。」
これがお気に召したみたいだ。本人はどんな話かわかってなさそうだけど。3冊を借りたところで、換金の査定が終わったみたいでリトが戻ってきた。
「本借りたよー。勇人も絵本読みたいだなら3冊借りちゃった。」
「勇人もう絵本読めるのか?」
「ただ絵を眺めるだけだよ。元々たまに読み聞かせたりはしてたんだ。」
「帰ったら読んでやるか。こっちも換金していくらか稼ぎにはなった。」
そう言って、貰ったであろうお金を見せてくれる。
「ありがとう。お金って大丈夫?急に私達の出費も増えたし、講習もお金かかってるし、旅の準備でもまだお金いるだろうし。」
ほとんど養ってもらってるから申し訳ない。
「多少出費しても余るくらいの余裕はあるから心配するな。出費する分は宿代や食費が浮いてるから問題ないし、俺も身体が鈍らないように暇な時は街の周辺の魔物討伐の依頼も受けるつもりだしな。」
「わかった。私も早く稼げるようにならなくちゃね。」
「その前に、ゆりの武器を買いに行くか。適性は低いけど、いざという時には必要になるからな。」
本当にどこまでも優しいよねリトって。今はたくさん甘えさせてもらいます。




