はじまりはじまり
「ここ…どこ?」
気がつくと森の中にいた。
自分の知っている森とはかなり様子がかけ離れてはいるが。
私は夏目ゆり。16歳。
どこぞの女優だって名前だけど、中肉中背、可もなく不可もなく、平々凡々な顔をした至って普通の日本の女子高生だ。
見た目は黒髪ストレートのロングヘアーが特徴。日本人形と呼ばれてた時期もありましたよ。うん。
特技は走ることと家事全般。親は小さい時に亡くなって、親戚もいないため施設で育った。今は最年長なので掃除、洗濯、料理など家事全般を、高齢の施設長さんの代わりにお小遣いを貰いながら請けおっている。
さて、そんな私が出くわしたのは摩訶不思議な森。
今日もいつも通り、施設の子供たちを送り出して、学校へ行き、放課後は寄り道もせずに施設へ帰り、晩ごはんの買い出しに最年少の弟くんを連れて出掛けた。
そう、私の左手には1歳未満の赤ん坊で、施設に暮らす兄弟達の末っ子、夏目勇人が気持ちよさそうに眠っている。
お姉ちゃん子な勇人は、私との買い物できゃっきゃと騒いで、その後はそのまま腕の中でおやすみなさい。
ポケットには財布と携帯電話、右手には今夜の晩ごはんであるカレーの具材達と少しのお菓子。
上を見上げると、大きな木々に覆われていて空はあまり見えなくて薄暗い。大きな木も様々な種類があって、見渡す限りでも超巨大チューリップのような形をした木や、スカイブルーの蔦が巻きついた木、なんでか根元にハート型の葉があって枝に葉がない木…などなど、日本で日常的に見かけない木々が生えている。
私と勇人は普通にスーパーから家へ歩いていた。少し前に読んだ異世界転生のお話みたいに、事故にあったりもしてないし、チートとやらを貰うために神に会うイベントも起きていない。
いつも通りに住宅街の角を曲がったら、突然この場所にいた。
あまりにも予想できない自体にビビる。
ビビるけどどうしたらいいのかわかんない。
人間予想外の出来事になると、思考が霧散するんだと思う。
私が帰れないけど今日の夕飯は大丈夫なんだろうか。
むしろ帰れる気配ないけど、施設長は大丈夫かな。てかこれって捜索願い出されるよね。しかも確か明日は日直だったから居ないと気付かれる。
てか、この森って何!?
ここどこ!?
私と勇人って実はめちゃくちゃ危ないんじゃないの!?
とりあえず、やってきたからには…。
クルリ。スタスタ。
後ろを振り返って歩いたら戻った…とかはなしか。
ピョンっ。
ジャンプして着地したら元の世界…もなしか。
「んー」
あ、勇人抱いてるんだった、飛んだらビビるよね。
とりあえず戻れない。何もわからない。
私1人ならとりあえず体育座りして第一村人的な人に発見されるのを待っててもいい。けれど、私の腕の中にはすやすや眠る勇人がいる。
これから何が起きるかわからない中で、小さな赤ん坊連れて森で待つより、積極的に集落を探した方がいいはずだ。
そうして、なんにもわからないまま、幼子を抱いた女子高生の異世界旅は始まった。