目の前の美少女は何やら訳ありみたいです
《畑野高等学校農業科》
俺はそこに通う三年、『日暮 ルイ』
農業オタク、農業バカ、農業マニア、3度のメシより農業 etc……
そんな言葉が似合う俺にとって、勉学の全てを農業に費やせるこの学校は楽園である。
──ただ一つを除いては
この学校には女子が存在しないのだ!
今、オレンジ色の玉7個集めてドラゴンっぽい何かが出てきたとしたら、俺は、いや、この学校の全生徒がこう答えるだろう
──美少女と農業がしたい!!
共に畑を耕し、汗を流し、収穫をして、料理を作り、味見なんかしちゃったりして、出来上がったものを一緒に食べる
そんな農業高校にとって当たり前の幸せを、俺は3年間むさくるしい男子と送ってきた
……くそっ何の仕打ちだっ
ガラガラガラ
そこへ担任が入ってくる
「ほら席つけー今日はこの前のテスト返却するからなー」
そういえばテストがあったな、特に興味はないが
「今回も1位は日暮だ。よし、じゃあ日暮、なんでも願いを叶えてやる」
「……は?」
つい反射的に声が出たが、その瞬間に思い出した。
そうだ、確かこの学校には、3年間学業成績1位を取り続けた生徒は願いを叶えて貰えるという、かなり胡散臭い伝説が存在していた
生徒手帳にもものすごいサラッと書いてあったし、入学式でも校長が、「今日もいい天気ですね」的な感覚でものすごいサラッと言っていた気がする
まあかくいう俺も、今の今まで忘れていたし、特に期待していたわけでもない。
……といえば嘘になるが、それ目当てで学業成績1位をとりつづけるほど俺も馬鹿じゃない
……いや、ばかなのか?実際取ってるし
まあそんなことはどうでもいい
「何か叶えたい願いはあるか?」
「まぁ、おう。美少女と農業がしたいっつーかなんつーか」
ダメ元でとりあえず答えてみる
「本当にそれでいいんだな?」
俺が頷くと、途端に視界がぐるぐるとまわり始めた。
うわっなんだこれ。きもちわる。
暫くすると目の前が真っ暗になり、徐々に意識が戻ってきた。
夢から覚めたような感覚である
──やっぱり夢だったのか
落胆し、目を開けようとすると、何やら鼻の先から甘い香りがする
しばらく嗅いでいなかった、抱きしめたくなるような、ほんのりとした香り。
ん?なんだこれ?
更に俺の手に何やら柔らかい感触がある。
俺は手をむぎゅっと動かしてみた。すると……
「……んっ」
何やらイケナイ声が聞こえてきた気がする。
そして1番気になっているのが、さっきから俺の顔にかかってくるあったかい吐息だ。
俺は恐る恐る目を開けて見る。するとそこには、俺に寄り添って眠る雪解けのような白い肌の美少女の顔があった。
うおっめっちゃちけぇええええええ
思わず心で叫ぶ。本当に近い。後数センチで唇が触れてしまいそうである
「……んん」
その時、美少女の体がもぞもぞと動き始め、目が開かれた。
「あ、目が覚めたんですね」
寝起きと共に向けられた天使のようなスマイル
……これだ。俺が3年間待ちわびていたものはこれなんだ
よし、まずはこの美少女が何者なのか聞いてみよう
「……君は?」
「私ですか?魔王です!」
「…………え?」
俺が夢にまで見た美少女との農業生活は、何やら訳ありみたいです。