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☆描写するということ

 前の記事(会話文と地の文)で書いたとおり、私は地の文はかなり多めに書きます。今どこにいるのか、何をしてて、誰と誰がどういう位置関係で話をしているのか、または戦っているのか……。地の文は読者に情報を与える手段であり、省くことの出来ないものです。たった一言の台詞のために、地の文はその3〜5倍は書いていると思います。

 では、なぜそうするのか。全ては、読者に与える印象を一貫するため。誰が読んでも、いつ見ても、同じように受け止めてくれなければ、自分の世界を表現しきったとは言えないからなんですね。


 あちらこちらで言ってますが、私は漫画も描きますから、背景の大事さはとてもよく知っています。漫画は簡単に描けるものじゃありません。絵もそうですが、ストーリー、専門知識、絵やコマの構図……、全て揃わなければ面白いものは描けないんです。


 絵が下手でも、面白い話を書く漫画家さんはたくさんいます。ですが、絵が下手だということと、描写が下手だということはまったく別のことと思って間違いないと思うのです。

 背景がきっちり描き込まれ、どういう状況であるか、何故今笑いが起きたのか、悲しんだのか……、はっきりわからなければ、幾ら感動的なお話であっても、読者には伝わりません。ですから、見せたい場面の前後には、その場所の全景が必ず入っています。商業誌に載っている漫画であれば尚のこと、必ず場面転換の後は全景を入れているはずです。手元にある漫画を見てみてください。(4コマは別ですが……それでも、わかりやすいようにあちこちにさりげなく背景を入れていますよね)


 これは、漫画だけにいえることではなく、アニメ、映画、ドラマでも同じように、場面転換後に必ず全景を入れます。

 今までと違うという意識付けもありますが、そうしなければ、見ている人(漫画であれば読者、映像作品であれば視聴者)に、登場人物の置かれている状況が伝わらないからなのです。



 さて、話を小説に戻します。

 会話文を連ね、話を進めていくのはわかりやすく、面白いですね。

 ですが、その場所に読者を完全に引き込むための土台を作っておいていますか、ということなんですよ。


 同じ会話でも、どこで話しているかによって、印象が異なります。


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例文:

「あいつ、最近来てないよな、サボりかよ」

「さあね、いじめに遭ってるって噂も聞かなくはないけど?」

「そういや、誰かが机に花飾ってたよな。俺、陰湿すぎだと思って、思わずとっちまったよ」

「それって、6組のやつの仕業じゃねぇ? 放課後にたかられてんの見たことあるぜ」

「あいつもあいつだよ、悔しいなら、言い返してやるくらいの根性見せりゃいいのに」

「そりゃ、お前だからいえる台詞でさ、あいつには無理だよ。大人しすぎるもん」

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 さて、どこで会話しているでしょう?

 この会話だけで、私とぴったり同じ情景が浮かんだ人がいたら、拍手を送りたい。

 答えは、「男子トイレ」です。


 つまりですね、話の流れがわかっても、どういう人物がどこで話しているかなんて、全くもって伝わらないってことです。

 この例文は、高校のクラスメイトの不登校、トイレで噂する友人、という設定で今適当に書いてみたものです。


 この文章の舞台を教室の中に入れてみます。


--------------------------------

教室にて:

 授業終了のチャイムが鳴り、俺たちは生き返ったかのように大きく背伸びした。肩をゴリゴリ鳴らし、緊張を解きほぐす。

 ふと、左斜め後ろの席が空いているのが目に入った。佐藤の席だ。

「あいつ、最近来てないよな、サボりかよ」

 そう言ってトントンと佐藤の机を叩いたのは、俺の後ろの鈴木。はぁと溜め息をつき……まるで、俺も休みたいとでも言いたそうだ。

「さあね、いじめに遭ってるって噂も聞かなくはないけど?」

 俺は、ちょっと前に聞いたその話を持ち出した。

 ずっと気に掛かってたけど、なかなか切り出せなかった話だ。

 鈴木は俺の言葉で思い出したように、こんな話をしだした。

「そういや、誰かが机に花飾ってたよな。俺、陰湿すぎだと思って、思わずとっちまったよ」

 この前の火曜の朝……、佐藤の席にあったユリの花。アレを見た時の、佐藤の顔は忘れられない。真っ青で、今にも飛び降りそうな悲壮感が漂ってたんだからな……。いや、佐藤じゃなくても、あんな光景を見たら、休みたくもなるだろう。

「それって、6組のやつの仕業じゃねぇ? 放課後にたかられてんの見たことあるぜ」

 明らかに、いじめだ……と、俺はわかってて、止めなかった。止められなかったんだ。

 こうして佐藤が休んで、初めて後悔する。

「あいつもあいつだよ、悔しいなら、言い返してやるくらいの根性見せりゃいいのに」

「そりゃ、お前だからいえる台詞でさ、あいつには無理だよ。大人しすぎるもん」

 鈴木の台詞はあまりに無責任だ。

 佐藤の、弱々しい有様からしたら、誰かにたてつくだの、救いを求めるだのってのは、不可能に近いんだ。

 それを知ってた俺は、こんな他愛ない会話中、胸の中のもやもやが取れず、嫌な気分だった。

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 どうですか。なんだか、イメージがちゃんとしませんか。

 ちなみに、トイレバージョンだとこんな感じ↓


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男子トイレにて:

 授業の合間の便所。

 次の授業は化学室だから、かなり急がないと間に合わない。化学室ってのが、また、俺の教室から遠いところにあって、別棟の三階……、走ってギリギリってとこだ。

 早く用足して、さっさと行かなきゃ、そう思っていた矢先、

「あいつ、最近来てないよな、サボりかよ」

 鈴木だ。休みがちの内気な佐藤のこと言ってんだな。今はそれどころじゃないってのに……。

「さあね、いじめに遭ってるって噂も聞かなくはないけど?」

 用足しながら素っ気無く答えてみる。

 つか、トイレでその話題はやばくねぇ?

「そういや、誰かが机に花飾ってたよな。俺、陰湿すぎだと思って、思わずとっちまったよ」

 今度は山田かよ……。俺の両隣でなんて会話してんだ。

 とにかく、さっさと終えて化学室行かねぇと。あのハゲオヤジ……化学の川村がうるせぇんだからよぉ。あのおっさん、授業態度もかなり厳しくチェックしてるって、もっぱらの噂じゃねぇか。俺、こないだの中間マジやばかったから、これで減点されると辛いんだけど。

「それって、6組のやつの仕業じゃねぇ? 放課後にたかられてんの見たことあるぜ」

 そうそう、鈴木と山田で会話続けてくれ。俺はさっさと手ぇ洗って化学室に……って。

「あいつもあいつだよ、悔しいなら、言い返してやるくらいの根性見せりゃいいのに」

 山田ぁ、俺に話しかけんじゃねぇよ! ──かといって、知らん振りもできねぇ訳で。焦る気持ちを必死に抑えて、俺は心にもないことを言っていた。

「そりゃ、お前だからいえる台詞でさ、あいつには無理だよ。大人しすぎるもん」

 そうだよな、と、顔を見合わせて考え込む鈴木と山田を尻目に、俺は化学室まで猛ダッシュした。廊下をバタバタ走り抜け、やっと辿り着いたと同時に、授業開始のチャイムが鳴る。だけども川村は既に化学室に来ていて、汗だくで駆け込んだ俺と、俺の後に余裕かまして入ってきた鈴木と山田の三人は、言うまでもなく、減点されたのだった。

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 会話がちょっとスピーディーになって、更に人数が三人に増えてます。

 同じ会話だけでも、きちんと地の文を挟むことによって、状況が把握できるわけなんですよね。

 一人称の地の文は、あまり書いたことがないですが、私が書くとこんな感じです。ちょっと厳しいかも知れませんが、状況……場所と、会話に参加している人の人数、誰がどのように動いているのかわかるようにすることは可能です。


 全体像を掴ませるためには、地の文はとても重要な役割をしているはずです。ですから、なるべく「書く」のではなく、「描く」努力は必要なのではと、私は思うわけです。


 せっかく面白い話も、雲を掴むような描写では、勿体無い。字が詰まっていると、携帯では読みにくい……などという方もいらっしゃいますが、決してそんなことはなく、きちんと描写されている文章であれば、苦にならずに読み進められると思いますよ。

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