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せ・い・か・つ(未成年者に不適切な表現はノムリッシュ翻訳しました。小さなお子さんも安心してお読みいただけます)

作者: ロニ

 土曜日の早朝、目を覚ました松島ゼータはまだぼんやりする意識の中で、

(なんてこった。今朝はこんなに“ウァ・サダティ”していやがる。・・・ボーナスの使っていい残りがまだあったから、思い切って朝から“風を信仰せし者どもの集う渓谷”に行っちゃうかな)

と休日の始まりにクライマックスを持ってくる計画を立てた。

(今日はお気に入りのルカちゃんが出勤しているはずだ。がっつり90分コースで思いっきり楽しんじゃおう!)

そう考えると、ゼータの“セイクリッド・ソード・オブ・ペニシュルムス”がますます“ファイナルドラゴンソード”した。

急いでシャワーを浴び洋服に着替えたゼータは街に出かけた。大通りがある駅の東側はデパートや商業ビルで賑わうが、駅を超えた西側は川を一本挟みがらりと表情を変える。そこは細い道が網のように走る左右を背の低いビルが立ち並び、昼間でもどこかしら薄暗い印象を感じさせる町並みだった。

ゼータは行きつけの“風を信仰せし者どもの集う渓谷”店が入ってる雑居ビルに到着し、店が入っている2階に階段で上がった。

店に入ったゼータは受付のボーイにルカちゃんを指名し90分コースをオーダーし、料金を支払った。

「お客様、なにかご注文やオプションはご希望ありますか?」

「そうだな・・・“異世界への禁じられた門DIVAによる断罪の刻<とき>”はこの前やったし。恋人コースっていう気分でもないから、ノーマルのコースで。オプションは“完全勝利への誓い(ウルトラショッキングピンク)ロスー=トゥーの覚醒者”と“刻印を介在せし異傾の倶愚”を」

「かしこまりました。“完全勝利への誓い(ウルトラショッキングピンク)ロスー=トゥーの覚醒者”と“刻印を介在せし異傾の倶愚”で合計3000円になります」

オプション料金も支払い、ゼータは部屋に案内された。

「いらっしゃいませー」

手狭だが清潔に整えられた部屋で、“風を信仰せし者どもの集う渓谷”嬢のルカがゼータを出迎えた。

「今日もご指名いただきましてありがとうございますぅー」

「朝からルカちゃんのこと考えちゃったら“ファイナルドラゴンソード”が収まらなくってさ」

「あははー、うれしい!じゃあ頑張って“神々の祝福”しますね」

ゼータが隣に座ると、ルカは優しく彼に手を伸ばし、早速“神々の祝福”にとりかかった。

「お客さん、いつも私を指定してくれて、ホントうれしい。今日は最初っからぶっ飛ばしますねッ」

「ああ、頼む。今日はこの後、廃人になるくらいのつもりでいるんだ」

「えーっ、廃人になっちゃダメですよー」

ルカは可愛らしく笑いながらも怪しげな光を目に宿らせ、ゼータの“セイクリッド・ソード・オブ・ペニシュルムス”を“我が剣を喜んでくわえたまえ”した。

「うあぁッ!ルカちゃんッ!」

ゼータが悲鳴を上げる。

この町を支える営みがこの町に陰りを染み付かせている。だが、陰がなくては生きていけない人々がここにはいるのだ。

ゼータが歯を食いしばる。ルカは歯を立てないように気を付けながら、ゼータの“セイクリッド・ソード・オブ・ペニシュルムス”を口を使って“デミ・ファルシ=ウァ・インヴ”した。

現世と切り離された小さな部屋の中の二人であったが、不意に響いてきた銃声に夢の世界は破られた。

「全員動くな!我々は反体制組織、南足柄バジリスクだ!我々は今、警察に追われている。お前たちは人質だ!」

なんと、テロリスト達が“風を信仰せし者どもの集う渓谷”店を占拠したのだ。

目出し帽を被ったテロリストの一人がゼータたちのいる部屋の扉を開けライフルを二人に向けて、

「お前たち、この店は南足柄バジリスクの支配下にある!絶対に動くな!少しでも動いたら撃つぞ!」

と脅迫した。

「おひゃふふぁん・・・」

ルカが怯えきった表情でゼータを上目づかいに見た。

『テロリストども!君たちは完全に包囲されている!人質を解放し、出てきなさい!』

テロリストたちに呼びかける警察の拡声器の声がゼータとルカにも届いた。

「うるせえ!人質を解放してほしかったら消費税を廃止しろ!」

『落ち着きなさい!話し合おう!』

怒号が飛び交う。

(なんてこった!テロリストの事件に巻き込まれようとは・・・しかし、このような状況にあるのに、我が“セイクリッド・ソード・オブ・ペニシュルムス”はますます・・・ルカちゃん、ごめん!)

ゼータは目をつむり天を仰いだ。

(ええッ!?お客さん、こんな事態なのに、さっきよりおっきくなってる!嘘、ダメよ!動いたら撃たれてしまうわ!)

(ルカちゃん!ああッ、俺は何だってこんな時にいつにもまして“ファイナルドラゴンソード”してしまうのだろう!?なんとか“セイクリッド・ソード・オブ・ペニシュルムス”を鎮めなければ・・・そうだ、般若心経を唱えよう)

ゼータは心の中で般若心経を唱えた。

(はんにゃーはーらーみーたーしんぎょうー

かんじーざいぼーさつ ぎょうじんはんにゃはらみったじー しょうけんごうんかいくう どいっさいくやーくー

しゃーりーしー しきふーいーくうー くうふーいしき しきそくぜーくう くうそくぜーしき じゅそうぎょうしきやくぶにょぜー

しゃーりし ぜーしょほうくうそう ふしょうふーめつ ふくふじょう ふーぞうふげん  ぜこくうちゅう むしき

むーじゅーそうぎょうしき むーげんにびぜっしんいー むーしきしょうこうみそくほう むーげんかい なーいしむいしきーかい

むーむーみょう やくむーむーみょうじん ないしーむーろうし やくむーろうしじん むくしゅうめつどう むーちやくむーとく

いーむしょとくこ  ぼーだいさったー えーはんにゃーはらみったーこー しんむーけいげー むーけいげこー むうくーふー 

おんりーいっさいてんどうむーそう くーきょうねーはん  さんぜしょーぶつ えはんにゃーはらみったーこー 

とくあーのーくたらさんみゃくさんぼーだい  こちはんにゃーはらみったー ぜーだいじんしゅー ぜーだいみょうしゅ ぜーむじょうしゅ

ぜーむとうどうしゅ のうじょいっさーいくー しんじつふーこー  こーせつはんにゃーはーらーみったーしゅー そくせーつしゅーわつー

ぎゃーていぎゃーてい はらぎゃーていー はらそうぎゃーてい ぼーじーそわかーーー

はんにゃーーーしんぎょーーーーーう)

ゼータの煩悩と救いを求める精神世界のすぐ下で、テロリストと警察の間で激しい銃撃戦が繰り広げられた。

(まさか・・・まさかお客さん、このような状況で!すぐ隣で銃撃戦が行われているこの状況で、“我身を削る魂の叫び”してしまうの!?)

ルカは口から伝わるゼータの激しい情熱に戸惑い驚愕した。

銃撃戦がいよいよ激しさをまし、部屋の前にいたテロリストが弾かれたように倒れ、どこからか撃たれた銃弾が激しい音とともに部屋の天井に小さな破壊をもたらした時、ついにゼータの煩悩は決壊した。

(“我が混濁たる魂に光が満ちん”!)

バキューン!

銃撃とは異なる凶弾がルカの口内で“ティーロ”された。

(お客さん、お見事です!私も負けていられない・・・全部、受け止めてみせる!)

ゼータとルカと不穏な世界がギリギリの、針のような鋭い一点の上に繋がった。

(“我が剣を喜んでくわえたまえ”しただけなのに・・・私も・・・わ、私・・・私もーッ!)

ルカも“アストラルフロウ”した。

「みなさん大丈夫ですか!ご安心ください、テロリストどもは全員射殺しました!」

警察官たちが大勢店に駆け込んできて、善良ではないが無害な人質の人々を保護していく。

世の中の喧騒から、少しだけ距離を置いた二人だけの空間で、

「ありがとう、ルカちゃん・・・」

ゼータは拳をルカに向かって突き出した。

「お客さんこそ、ナイス“我身を削る魂の叫び”でした。思わず“アストラルフロウ”しちゃいました」

ルカも拳を握り、ゼータの拳にコツンと当てて応えた。

「あの・・・事情聴取お願いしたいので、とりあえず、あなた達もあの・・・」

若い警察官が、拳をぶつけあっているあられもない姿の二人に戸惑う。

「ルカちゃん・・・俺、まだ・・・」

「わかってる。ちょっと待っててねッ。ねえ、お巡りさん・・・?」

銃撃戦により荒れ果てた部屋の中で、かろうじて壁にかかっていた時計を確認したルカは

「ごめんなさい、お巡りさん。コースがあと40分残ってるの。お部屋から出て行ってもらえるかしら?」

と笑顔を作った。

友情ではない、愛ではない、なにか。ゼータとルカは二人だけの世界を求めた。

それは世界が認めない、世界に必要な、二人だけの陰りだった。


おわり

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