表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
奴隷生活
9/85

奴隷異世界人、驚愕する。

 半年の月日が過ぎた。

 私が助けた男の子──もとい、リヒトはと言うと。


「ただいま~、リヒトー」

「あ、おねーちゃんおかえりなさぃっ! えへへ、ぎゅーっ」


 いつもの仕事(もちろん、奴隷の仕事だ)から帰ってくると、すぐさまリヒトが私に抱きついてきた。

 初めて会ったときは枯れ枝のように細く、小さかった。けど今ではすくすくと成長し、今では私のお腹らへんまで伸びた。当初は5歳ぐらいだと思っていたけど、どうやら小学校低学年ぐらいだったらしい。ちゃんと食事(質は悪いけど)を採るようになって、まるで乾いたスポンジが水を吸っていくように……とはいいつつも、平均身長と比べたらまだまだ小さいと思うけど。でもあの食事量で、ここまで成長したんだから大したものだ。


「おねーちゃん、疲れた?」

「んーん、そんなことないよ? それより、今日は何してたの?」

「えーっとね! 今日はね!」


 それに、半年前は全くしゃべれなかったのに今ではとってもおしゃべりだ。面倒を見るようになってから3日後には「ねーちゃ!」と言うようになってっ! あの時はあまりの感動にガチ泣きしました。しかもその天使のような笑顔ときたら……一発ノックアウトだった。きっと子育てってこんな感じなんだろうな。

 ちなみに、リヒトを奴隷のキツい仕事に出させるわけにはいかない。私が出なくても怪しまれるしね。リヒトは小さいしいなくてもバレないだろうということで、私の寝床でお留守番させることにしている。その間はイーリス様に一緒にいてもらっていて……って、あれ?


「ねえリヒト? イーリス様は?」

「イーリス? あっ、そこにいるよー!」


 リヒトの可愛らしい指がある一点を指している。よく目を凝らしてみると──


〔お、おぉ。菖蒲か、帰ったのか……〕

「イーリス様!? 大丈夫ですか!?」

〔──これで大丈夫に見えるか?〕


 床でのびていた省エネ版イーリス様をつまみ上げて、手のひらに乗せた。随分疲れているようでぐったりとしている。な、何があったんだリヒトと……。


〔はぁ、あいつの能力はすさまじいな。相手をするのも疲れる〕

「ふふふ、あれから大分上達しましたもんね。お疲れさまです」

「おねーちゃん! ねーねー、見てみて! ほら!」


 私が仕事に行っている時、ボーッと待っているのも暇なので、リヒトは3ヶ月前ぐらいから魔法修行を始めたらしい。もちろんコーチはイーリス様。それから毎日私が帰ってくるたび、新しく出来るようになった技を披露してくれるようになった。──おお、今日のは一段とすごいなぁ。リヒトが手のひらを広げると、まるでマジシャンのように光輝く鳩が飛んでいった。


 どうやらリヒトの光属性の魔法は、光を具現化する能力があるらしい。だから、ナイフや刀は勿論のこと、生き物の形を真似ることもできるらしい。一回ゴギブ……もとい、Gを具現化されたときは死ぬほどびっくりした。あれだけは虫OKな私でも無理。生理的に。──そういえば、この世界でも虫や動物は現世と変わらないのだろうか。ここの場所以外に行ったことないから、わからないな……。いつか、森とか行って確認してみたいな。


「この鳩さんね! ぼくの言うことなんでもきーてくれるの! ちゅうがえりもできるんだよ!」

「すごいすごい! 生きてるみたい! 頑張ったね、リヒト」

「えへへ、おねーちゃんよろこばせたくって、ガンバっちゃった」


 リヒトは頭を撫でられながら、へにゃりと笑顔を浮かべた。ああ、この子は本当に私の癒しだ。現世では味わえなかった可愛い弟。

 そりゃ、現世の私の弟……(なつめ)もかわいかったけど、何て言うのかな。こういう、無邪気さは感じられなかったかも。クールで、年のわりには大人びてて。抱きつくどころか、頭もなかなか撫でさせてくれなかったし。案外シャイだったからかな。女兄弟がいるくせに女慣れしてなそうだったし。私の弟なくせしてイケメンだったのに、なんで彼女いなかったのかな? ──まあでも、タラシじゃないだけマシか。それにしてもリヒトは将来、かなりのイケメンに育つだろうな……棗といい勝負かも。


〔ふぅ。この鳩が言うこと聞くようになるまでが大変だったのだぞ! 我を餌と勘違いして、襲ってきおってっ……〕

「そ、それは災難でしたね、イーリス様……だからのびてたのか」


 にしても半年前から、リヒトに振り回されてるのは変わんないなぁ。省エネサイズだったら手も足もでないもんね。これは、本来のイーリス様の姿を見たときのリヒトのリアクションが笑えそうだ。

 心のなかで一人、笑った──その時。


「おい!」


 ──部屋に、誰かの声が響き渡った。


「な、なに!? 今のっ……」


 慌てて辺りを見回したけど、誰もいない。看守? だとしたらかなりマズイ。どうしようっ……。私は、震えているリヒトを抱き締めた。

 チラリと鉄格子を覗いてみても、看守らしき人はいない。空耳……だったのかな。それにしてはかなり大きい声だったんだけど。


〔なんじゃ? 誰もおらぬのか?〕

「うん。気のせいだったみたい──」


 ……と、私が地面に腰かけると──


「おい、お前らだよお前ら! こっちだっつの!」


 私の目の前の地面が突然、穴があいた。その瞬間──赤毛の、長い髪の毛の誰かが顔を覗かせた。


「っうわああああっ……んぐっ」

「しっ! 騒ぐとアイツらくるだろ! 黙っとけ!」


 びっくりして叫ぼうとしたけれど、その人に口を押さえられる。私が抱き締めているリヒトも同じく、口を押さえられた。な、なんなのこの人……!?

 驚きで身動きも取れない私たちを気にもせず、その人は私たちをジロジロと見つめた。


「ってか、やっぱり呪いかかってねぇな。おい、お前ら。ちょっとこっちこい。話はそれからだ」

「んっ、んぐぅ!?(は、はいっ!?)」


 赤毛の髪の人は、私たちの手を掴むと穴の中へ入っていった。


 ちょっ! 何が何だか、わかんないんですけどっ! なんでこんなことにー!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ