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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
春の慰安旅行編
81/85

奴隷歌姫、リーダーになる。


 と、意気込んだはいいんだけど……。


「オイ! そっちに行ったぞオラ! 囲めえ!」

「逃すな!」


 まっっっっっったくいい案が思い浮かばない……!

 騎士団員と魔道士団員が暴れ狂う声や音が響く森の中、木陰に座り込んでため息をついた。


 作戦を練りたいから少し待っててほしい、と使用人さん達に告げ、とりあえず一人で考えることにして、早十数分。ヒカリゴケチョウを何匹か見かけたものの、なかなか素早くて捕まえるのに一苦労だった。これを私以外の皆が捕まえるのかあ……。これは、なかなか、というよりかなり、無茶振りだ。何人かで追いかけてようやく一匹ってところじゃないかな。私も加速魔法をかけないと一人で捕まえられる気がしないもの。

 追いかけているうちに一つ分かったのは、ヒカリゴケチョウは日陰じゃないと見つからないことだ。日向だと光に紛れて見つけられない習性らしい。ただ、日陰で見つけたとしても、日向に逃げ込まれると見失ってしまうから、その習性が分かったところでどうしようもないのが現状である。


 ああ……どうしよう、困った。あんなに啖呵を切ってしまったのだ、後戻りはできない。なんとか方法を考えなくちゃ。今までもたくさん考えて何とかしてきたんだから、きっと今回もいい案が浮かぶはず!

 

 まず、普通の虫採りならどうするだろう。例えば、カブトムシなら木に甘いものを塗っておびき寄せるよね。ということは、相手が食事をしているときに捕まえるのが良いってことだよね。

 ヒカリゴケチョウって何を食べるんだろう? チョウだし花とかだと思うけど、花に止まってるところを見かけてないんだけどな……ん?


 ふと、置いておいた白銀の棒(アスカロン)が視界の端に入り込んだ。と、そこには数匹のヒカリゴケチョウが止まっている。そして、よく見ると……うずまきの口を伸ばしている。えっ、もしやお食事中? ええ!? ヒカリゴケチョウってそんなにリッチなもの食べるの!? でも、ここら辺に白銀なんてあるはずが……あれ?

 アスカロンにかけていた、私の光魔法が消えてる……ということは……。


 待って、もしかして、ヒカリゴケチョウって……。









 パン! と破裂音が響き渡ると、空中に小さな花火のようなものが見えた。時間がきたことの合図だ。オズが時間になったら合図をすると言っていたけど、こんな火薬を持ってきておくだなんて相変わらず準備がいいですね、本当。


 この個数じゃ勝つのは厳しいかな……。しかも、ほぼ反則なんじゃ、これ。あんなに大口叩いたのに、悔しいけど、やれることは精一杯やったよね。


「自信持ってアイリス! きっと勝てるわよ!」

「そ、そうです……! 大丈夫ですよ……!」


 ジェーンとメアリーが両脇から慰めてくれる。ありがとう、2人がいると心強いよ。


 使用人メンバーで集めた魔法石を抱えて、最初の場所に戻ってきた。そこには既に魔法石の山と共に、騎士団員と魔道士団員が揃っていた。2組の先頭にはレネンと皇帝が睨みあっている。


「お帰りなさいませ、アイリスさ……」


 こちらを振り向いたオズが固まった。ど、どうしたの。そんなに目を見開いて……。


「おいおい、嬢ちゃん、なんだいそれは!」


 鍛練の時に会う騎士団の人たちが目をぱちくりしながら近寄ってきた。魔道士団の人たちは遠巻きながらも、こちらを凝視している。


「とんでもなく魔法石がでけぇじゃねえかよ! なんだそれ!」


 どうやら私たちの抱えている魔法石に、皆は釘付けのようだ。


 そう、魔法石の数は確かに少ないのだ。でも、騎士団や魔道士団が持っている魔法石がアーモンドぐらいの大きさに対し、私たちの魔法石は──おおよそ野球ボールぐらいだろうか。

 実は、あの時気づいたヒカリゴケチョウの習性。ヒカリゴケチョウは、どうやら光属性の魔力が主食なようだ。その吸った魔力を元として、日のある所では外敵の目を眩ませているらしい。何故ダメージを受けたときに魔法石を落として消えるかはよくわからないけど、魔力を吸えば吸うほど遅くなっているヒカリゴケチョウを見たから、多分、魔力を落として逃げやすくするためじゃないかと思う。


 と、いうことで私たち使用人メンバーは開けた草原に拠点を置き、そこにヒカリゴケチョウをおびき寄せる為の私が作った魔法石をばらまいて、草原にヒカリゴケチョウを追い込むことにした。日陰がないと見えないから、ばらまいた魔法石が影になるように私が地魔法で土壁を作るのも忘れない。そして、使用人さんたちが借りていた武器(バットのような、長細いただの棒)に光魔法で網をつけてあげる。そして、人数を半分に分けて、森からヒカリゴケチョウが逃げてくるように適当に振り回す人、土壁の影で待ち構えて、虫網で捕まえる人に分けた。

 そうそう、これだよね、昆虫採集っていったら! どう考えても騎士団と魔道士団のようにがむしゃらに攻撃するより、こっちの方が虫採りって感じだよね。というか、あれはどっちかというと虫採りというより戦場だったよ……。

 そして、どうしてこんな大きくなってしまったかというと、ヒカリゴケチョウを捕まえるために静かに忍び寄るうちに、私の魔法石エサから魔力を吸いとりすぎちゃったみたいで……つまり、この石、ぶっちゃけ私の魔力が大半なんじゃないかな。ということで、不可抗力とはいえほぼ反則みたいなものだ。だって、最終的にはヒカリゴケチョウが落とした魔力だけど、元を辿れば私の魔力なわけだし。全部が全部そうじゃないけど。


「どうやったらそんなでけぇ石がとれるんだよ!」

「ああ、それは……むぐ」

「ちょっとアイリス、ダメでしょ、言っちゃ。これからも同じようにできなくなっちゃうでしょ!」


 詰め寄ってくる騎士団の皆に説明しようとすると、ジェーンに口を塞がれてしまった。う、確かにそうだ。でも、これからもってどういうことよ! もうやりたくないよ~。それに、反則レベルのことをしてることぐらいは言わなくちゃ。


「詳細は言えないんですけど、ヒカリゴケチョウが私の魔力を吸っちゃってこんなに大きくなってしまったみたいで……」

「……なるほど」


 オズが近寄ってきて、まじまじと魔法石を眺めてきた。そして、はてどうしたものか、と言いたげに腕を組んだ。


「確かに圧倒的に数は負けているのですが……換金したとしたらとんでもない額に……」


 ほげー……そんなにすごいのか、この大きさ。これはまずいことをしてしまったかな……。騎士団員も、魔道士団員も、これじゃあ勝ったと言われても納得はしないよね。


「しかし、今回は数での勝負でしたから、これにて順位を発表させて頂きます」


 3つのチームが固唾を飲んでオズの次の言葉を待つ。騎士団と魔道士団、どっちのチームが勝ったんだろう。


「優勝は……僅差ですが、ルイス様率いる、魔道士団チームです!」


 瞬間、わああっと魔道士団チームが沸いた。ここ数年負けていたとのことだったから、感動もひとしおなのだろう。今までは騎士団の圧勝だったらしいから、皇帝が指揮するだけで勝てちゃうのもそれはそれで……普段は分からないけど、皇帝って実はすごい人なんだな。


「あちゃー、やっぱ負けか。まあでも、すごいわよ、アイリス! 大健闘!」

「あ、ありがと。でも負けは負けだし……」

「そんなことないです! 今回は数での勝負でしたし、もし金額の勝利でしたら勝ってたんですから。すごいですよ!」


 ジェーンとメアリーがにっこりと笑って私の手をとってくれた。すると、2人の言葉を聞いた周りの使用人の皆がこう口を開いた。


「そうです。私たちの期待以上の魔法石の量でしたよ!」

「巫女様のお陰でここまでできたんですから。ありがとうございます!」


 そう、口々に感謝の言葉を伝えられた。そ、そっか、ならよかった。頑張ったかいがあるね。


「ですが」


 がっくりと目に見えて落ち込む騎士団員と、小躍りしながら喜ぶ魔道士団員、そして使用人の皆がその声に振り替える。声の主であるオズは、皆の注目が集まったところでこう告げた。


「最初に細かなルールを設けなかったとはいえ、恐らく皆様納得のいかない結果でしょう。と、いうことで」


 そこで一度切って、「こちらへ」と誰かを呼んだ。木陰から出てきたのは……沢山の荷物を積んでいるであろう、大きな馬車。その後ろに回って、荷台を開けた。


「全チーム大健闘、ということで、優勝チームに差し上げようとしていたこちらの品々は、皆様で山分け、というのはいかがでしょうか?」


 出てきたのは大量の樽。その樽を見るなり、皆の目が輝いた。


「酒だ~!」

「うおおおおおおおお!」

「酒さえもらえりゃもう勝敗なんてどうでもいい!」

「今夜はどんちゃん騒ぎだ~!」


 チーム関係なく、皆がわいわいと騒ぎ始めた。うんうん、最終的には皆仲良くが一番だね。


 ……にしても、お酒の量多くない……? 本当にこれ、優勝チームだけにあげようとしてたのかな……。

 小躍りしながら喜ぶ皆を避けて、オズの元へと向かう。そして、疑惑の目を向けた。その視線に気づいたオズは、にっこりと微笑んで小声でこう言った。


「団員同士がいがみ合わず、円満に終わらせることも大切ですので」


 やっぱり、最後はなんとかいい文句をつけて全員で祝杯をあげればいいやって思ってたでしょ! どう考えてもこの量は全員分としか思えないもの!


「アイリス様が丁度よい理由を作ってくださり助かりました」


 ……もしかして、私がなにかやらかすと思って、無理矢理チーム制にしたとかないよね……?


 そう言うと、オズはなにも言わずに微笑んで去っていった。ま、まさかね……。いやでも、あの完璧腹黒執事長のことだ。あり得る……。


 つまり、私はオズの手の平の上だったということか。ハァ……。


「アイリス! 何してるのよ、これから皆で乾杯ですって!」


 項垂れる私の手を引っ張って、ジェーンが皆の元へと私を連れていく。騎士団、魔道士団、使用人関係なく、口々に「やっぱ巫女さんはすげえな!」等々話しかけられた。

 ──ま、いっか。皆が楽しそうだし! 私も楽しもうっと……。





 

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