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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
春の慰安旅行編
80/85

奴隷歌姫、仲裁する。


 皇帝の登場に一時は騒然としたものの、皆一様にテントを張りに散らばっていった。

 このあとは夕食まで、川で遊ぶも良し、神代樹を観光するも良し、木陰で昼寝をしても良し、魔物を狩りに行っても良し、とのこと。


「さぁーって、気合い入れていくわよーっ!」


 ジェーンがテントから着替えを終えて出てくると、大きくのびをしながら叫んだ。


「ど、どしたの。随分やる気満々だね」

「あったりまえよ! 頑張ってお小遣い稼がなくちゃ!」


 お小遣い? 魔物でも狩りにいくの? でも、ジェーンって戦闘能力は皆無って前に言ってなかったっけ。


「あっ、そうか、アイリスは知らないんだっけ。これから、素人でも参加できる魔物狩り大会があるのよ」

「へえー。危なくないの? それ」

「魔物といってもこちらに攻撃をしてこない種なので、私たちみたいな使用人も気軽に参加できるんです……でも怖いからやめようと思ってたんですけど、ジェーンが出るから私も、参加することに……」


 同じくテントから身軽な格好に着替えて出てきたメアリーが言った。へえー。そんな大会があるんだ。


 二人が大会の内容を詳しく教えてくれたので、まとめると……。


 ルールは簡単。ヒカリゴケチョウという、キラキラ光る虫を捕まえまくるだけ。ただ、捕まえるといっても、ヒカリゴケチョウはとにかく逃げ足が速くて、実物を捕まえるわけではない。ダメージを与えると、光属性の魔法石を落として消えるらしい。その魔法石を集めて、一番多く集めた人が優勝。それってヒカリゴケチョウの絶滅とか大丈夫なの? と思ったが、ヒカリゴケチョウは死ぬのではなく、一定ダメージを受けたら回復するまで実体を持たずにいるらしい。ということで、絶滅の心配はないとのこと。ヒカリゴケチョウからしたらはた迷惑な話だけど、捕まえるのが難しいしなかなか盛り上がるため、ここ数年は毎年開催されているらしい。

 ちなみに集めた魔法石は買い取ってもらえるらしく、ちょっとしたお小遣い稼ぎに騎士団員と魔道士団員だけでなく、使用人にも人気なんだとか。なるほど、さっきジェーンが言ってたお小遣い稼ぎってのはそういうことか。光属性の魔法石は結構貴重みたいだからそこそこいい金額が手に入るみたい。


「ねえ、折角ならアイリスも参加しましょうよ!」

「えっでも、申請とかいらないの?」

「ゆるーく開催されるから人数なんて数えてないだろうし、途中参加オッケーだから大丈夫よ。私たちは武器が欲しいから事前に登録しておいたけど、アイリスなら魔法使えるし、へーきへーき!」


 武器も貸してくれるんだ。んーでも、確かに魔法も使っていいし、肌身離さず持ってる白銀の棒(アスカロン)もあることだし、やってみようかな。魔法石は自分で作れるからいらないっちゃいらないけど、こういうイベントは積極的に参加していきたい。なんせ、この世界で初めてのお泊まりだからね!


「そっか、じゃあやってみようかな。楽しそうだし!」


 そういうと、ジェーンはよっしゃ! とガッツポーズをした。


「ふふん、アイリスがいれば百人力ね。いいチームだわ!!」

「えっ、チーム参加できるの?」

「4人までだったら、大丈夫だったはず。ただ、チーム参加の場合はチーム一人あたりの魔法石の数で競うことになったはず、ですけど……」


 そりゃそうだよね。チーム全体の個数で競うことになったら、魔法石を獲得することよりもどれだけ人を集められるかの勝負になっちゃうもんね。


 そう雑談しつつ、集合場所に向かうと……ものすごい人だかりが。うわあ、これ、ほとんどの人が参加してるんじゃないの? それに、なんというか……3つの集団に分かれてない? 気のせいじゃないよね?

 そう思ってよく観察してみると……右側には見るからに屈強な人たち、左側には杖を持った人たち、そのどちらにも属さず、ほんわかした雰囲気の人たち。……これもしかして、騎士団と魔道士団で分かれてない? どちらにも属してない人たちは使用人の人たちだし。右側の集団には、いつも鍛練するときに会う騎士団の人たちがいるし。なんだこの状況。


「おっ、嬢ちゃん!」

「巫女さんも参加するんだ」


 騎士団の皆が、私の姿を見るなりこちらに話しかけてきてくれた。


「こんにちは。あのー、この状況は一体……」

「ああ、毎年好例だよ。個人の個数を競うだけじゃなくてな、団の総獲得数が重要ってね」


 騎士団のおじさんが言うには、ある年に騎士団と魔道士団で総獲得数を競って、それからずっと密かに競争してるんだとか。運動会みたいな感じなのだろうか。


「別に勝った方が何かがあるというわけではないけどな」

「今までの勝敗はどんな感じなんですか?」

「近年はほとんど俺たち騎士団の勝ち越しだな。まあ、機動力は俺たちの方が優れてるしな。魔道士団も毎年ボロ負けなのに、性懲りもなく挑んできやがるんだよなあ」


 お、おお……そうなのか。前々から思ってたんだけど、騎士団と魔道士団って謎の対抗心があるというか、お互いにライバル視してるよね。どこの世界にも派閥ってあるもんだね。


 ま、でも今回は私はゆるっと参加しようかな。折角メアリーとジェーンと過ごせることだし……。と、思っていると、また辺りが静まり返った。こ、今度はなに? ま、まさか……。


「あの、アイリスさん……。あの赤毛の人、確かあなたのお友達、でしたよね……?」


 メアリーがぽつりと呟いた。


「あ、本当。なんだっけ、レネンとか言ったっけ? なんかまた揉めそうな雰囲気だけど?」


 ジェーンにもそう言われる。嫌な予感は的中して──レネンと皇帝が睨みあっていた。ま、また? さっきもそんなことしてたよね? 二人の側には、慌てているリヒト、どうしたものかと腕を組むシルト、やれやれと呆れ顔のオズが立っている。シルトとオズは、「うちの子がすみません」「いやいやこちらこそ」と言わんばかりに顔をあわせている。あの、お二人さん、お互いに同情し合うのは構わないけど、その前にこの状況なんとかしてくれない?

 気になって近づいてみると、少しずつ会話が聞こえてきた。


「泉の見物とやらは終わったのか? 随分早いんだな」

「貴様のようなノロマな奴とは格が違うのでな」

「ほー。なら、早く帰ったらどうだ? ほかにも仕事があるんだろ? 皇帝様には」


 うわー、今にも掴み合いの喧嘩でも始まりそうなんですが……。こんなところでこの二人がガチ喧嘩なんてされたら、森が丸焦げになっちゃうよ。


「帰るべきは貴様だろう。俺に負けるほど弱いのなら、こんなところで遊んでいる場合でないだろう?」

「っせーな、さっきから聞いてりゃいちいち腹立つ言い方しやがって……しかも、あの時の決着はついてないだろ!」

「負け犬はよく吠えるとはこのことか」


 ぶちん、と何かが切れるような音がした……気がした。あー、あの闘技大会、中途半端で終わっちゃったからね。正直皇帝が優勢だったとはいえ、レネンからしたら勝敗がついてないのに負け犬呼ばわりされるのは嫌だよね。


「今ここで決着をつけることだってできるんだぞ!」

「貴様の負けが決定的になるだけだが?」

「おーおー、望むところだ」

「す、ストップストップ! 待ってください、本当に落ち着いて。こんなところで戦って丸焦げにされたら困りますから。どうどう」


 痺れをきらして思わず口を出してしまった。あーやってしまった。できれば放っておきたかったよ……。でもだって、保護者役の二人(シルトとオズ)が止めてくれないんだもん。


「あ、アイリス……すまん」

「……邪魔するな、負け犬がでかい口を叩けなくしてやるところだ」

「だから負け犬じゃねえっての!」


 うわー、うわー……火に油注いじゃった。あのさ、仲良くしろとは言わないからさ、喧嘩するのだけはやめてくれませんかね? ほら、周りの皆様もまた困ってるよ? 子どもじゃないんだからね?

 えーと、えーと、なんとか物理的な喧嘩にならず、なおかつ二人が納得する方法は……。……あっ。


「えっと、そしたら、魔法石の数で決着を決めましょう! そ、そうしましょう!」


 これならまだ被害は抑えられるはず。これしか方法がないんだよなあ、他の皆様には大変申し訳ないけど……。


 すると、それまで黙っていたオズが「それはいい!」とにっこり笑った。うっ、その満面の笑み、嫌な予感が。


「では、本格的にチーム対抗にするのは如何でしょうか」


 チーム対抗? 個人戦じゃなくなるの?


「お二人が個人で数を競えば、きっと他の団員たちの出番がなくなるでしょう。皆で楽しむイベントですから」


 確かに。この二人でほとんど狩りつくしちゃいそうだね。

 オズが詳細なルールを作り始めた。騎士団チームのリーダーをレネン、魔道士団チームのリーダーを皇帝にして、リーダーが獲得した魔法石は点数に含めない(・・・・・・・)と。


「チーム戦にしたとて、リーダーの獲得数を得点にしてしまえば、結局個人戦と変わらないでしょう」


 なるほど。じゃあ、どうやって団員を動かしていくかが重要なわけね。


「ヒカリゴケチョウを直接攻撃しなければ、リーダーは魔法も武器も使用可能としましょう」


 サポートはしていいんだね。なるほどなるほど。それなら森も焼かれず、団員の皆も楽しめそうだね……って、ちょっと待って。


「じゃあ、使用人はどうするんですか? さすがに団員が一丸となったら、使用人の皆さんが下手したら一匹も獲れずに終わっちゃうんじゃ……」

「何をおっしゃいますか。使用人もチームを組んでいただきますよ。アイリス様(あなた)がリーダーでね」


 なるほどー、私がリーダね、わかったー! ……って、ええ!?


「な、なんで私!? なんですか!?」


 あまりにもさらりと言われたから、一瞬納得しかけちゃったよ!


「当然です。貴女以外に誰がいるんです?」

「い、いや、無理無理無理! 使用人のリーダーならオズが適任でしょう!」

「私には、審判という大事な役目がありますので」


 そ、そんなぁ……。

 唖然としていると、オズは「……ということでよろしいですね?」と皆に声をかけた。そして、こう続けた。「優勝チームには、城下町市場商店街の商品券贈呈、でどうでしょう」と。すると、


「いいぜ! のった!」

「陛下がいてくだされば、今年は騎士団に勝てるぞ!」

「燃えてきた~!」


 と、あちらこちらから歓声が聞こえてきた。ま、まじで。使用人の皆もそれでいいの!? と、後ろを振り向くと、まばらだった使用人の皆が一塊になって、やんややんやと騒いでいた。


「臨時収入きた~!」

「勝てる気がしないけど、あの人いるならいけるんじゃないの?」

「なんかすごい力持ってるって聞いたわよ」


 わ、私一人の力でどうにかなるという問題ではないと思うんですけど!?


「す、すまん、アイリス……俺らが揉めたせいで巻き込んで……」


 レネンがそう謝ってきたけど、うん、ええと、そりゃ貴方たちが揉めなければ起こらなかったけどね……。一番の要因はそこの性悪執事長さんだから、そんなに謝らなくていいよ……。

 オズって直接的な原因は作らないけどさ、トラブルを私に投げつけて解決させてない? 気のせいじゃないよね?


「い、いや……いいよ。レネンだけのせいじゃないし。でも正直、辞退したい……」

「敵前逃亡か。類は友を呼ぶ、負け犬の仲間は負けい……」

「さあー! 張り切っていきましょうかね~!? 一位目指して!」


 つい、皇帝の煽りに誘われて言ってしまった。そんな私の掛け声のあとに、使用人の皆さんの歓声が続いた。


「アイリス、頑張るわよ! 望みは薄いけど、一発逆転目指して!」

「わっ、わたしも、アイリスさんと一緒なら、頑張れる気がします!」


 ジェーンは元からだけど、メアリーまで張り切り始めた。ああ、もう後には戻れない……。なんてこったい。ほんと私ってお馬鹿……。


「は、はは、は……」


 苦笑いをする私を見て、皇帝が薄ら笑いをして背を向けたのが見えた。にこにこと微笑みをたたえたオズが、「頑張ってくださいね」と言ってきた。

 もう! どいつもこいつも! こうなったらやってやろうじゃないの! 見てらっしゃい!




お久しぶりです!お待たせいたしました。

ずっと書きたかった慰安旅行編のはずなのに、謎大会の描写に迷いまくってこの様です……。

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