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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
武道と舞踏
74/85

奴隷歌姫、王様に会う。Ⅱ


2018/5/15、前話の最後の方を変更しました。お菓子を食べる前にエレアが何かをアイリスに渡す→「渡すものがある」と言うだけ




 小皿の上にのった、一口大のお菓子を切って口に運ぶ。瞬間、口中に上品な甘味が広がって、思わず笑みが溢れた。


 エレアの言うとおり、ドライシンガーの料理人さんが作ったお菓子はとても絶品だった。新年を祝うのにふさわしい、色とりどりの花やおめでたい動物を象ったお菓子がずらりと並んでいる。うーん、舌触りが少しちがうけど、見た目は練りきりに似てるかも。お菓子も今は和風が流行っているようだ。


「お気に召していただけたかしら?」

「はい! 彩りも鮮やかで、味も文句なしに美味しいです」


 でしょう! と笑ったエレアが、「これは如何かしら?」と淡いピンク色のお菓子を差し出した。


「この花は、サクラという名前のこの国の国花ですの」


 桜! へえ、この世界にも桜、あったんだ……! 前に森に行ったときも思ったけど、この世界にきてから桜の木らしきものがなかったから、てっきりないものだと思ってた。


「へぇ……! ピンク色でとっても可愛らしいお花なんですね」

「そうでしょう! この花は葉が出る前に花だけ咲き乱れるらしい(・・・)のです。さぞ綺麗な光景なんでしょうね……」


 ほう、と感嘆の声をあげながら、エレアはにっこりと笑った。らしい……? 見たことがないって、国花なのに?


「この国が建国された頃には、あちらこちらに咲いていたそうなのですが……ある大災害によってほとんど全ての木がなくなってしまったらしいのです」

「大災害?」

「ええ。先日、アイリスが噴火を止めてくださったおくりび山の噴火、それが原因だったそうですわ」


 国のそこら中にあったのに、おくりび山の噴火でほとんど全部なくなったって……そんな。


「国の方も花どころではなく、傾いた国を復興するのに必死だったようで。……当たり前ですわよね」


 仕方がないことですわ、と寂しげにエレアは笑った。


「ただ、数本だけまだ城内に残ってますの。今は、どういうわけか花が咲かないのですけど……それでも、いつか咲いたところを見てみたいものですわね」


 ささやかな私の夢の一つです、と言いながら、エレアはお菓子の花びらの部分を切って口に運んだ。刹那、顔がふわっと綻ぶ。うん、切なげな表情もとても絵になっていたけど、笑顔はもっと素敵だ。



「はい、アイリスも一口どうぞ」

「……ん、おいしい!」


 お互いに微笑みながらお菓子を堪能していると、流れていたワルツの音楽が止んだ。すると、賑やかだった会場も次第に静かになっていく。なんだろう? なにかあったのかな?

 人々の目線を追うと、王様が玉座から立ち上がる。そして、大広間から外へと繋がるバルコニーへと進んでいった。挨拶でも始まるのだろうか。でも、なんでバルコニーに?


 それと共に貴族の方々もバルコニーへと向かう。訳がわからずぽかんとしていると、エレアが残りのお菓子を口にいれると、私の手をとって貴族の方々の後を追った。と、とりあえず出てみればわかるかな?


 バルコニーに出ると、下の方からわあああっと歓声が聞こえた。下に明かりが少ないから見にくいけど、溢れんばかりの人だかりがあった。歓声に混じって、「王様!」「トリスタン国王!」って声も聞こえる。

 誰だろうと思っていると、エレアが「今日に限り、城の中庭だけ国民の方々にも解放してますの」と教えてくれた。へえー、じゃあ、中庭もパーティー会場ってこと? にしてはかなり暗いような……。


「諸君、楽しんでおられるだろうか。──それならばよかった。ところで、新しい歳時の訪れが、もうそこまできていることにお気づきだろうか」


 王様はそう告げ、腕をあげるとパチン、と指をならした。すると、中庭の真ん中あたりに、パッとライトがついた。そこには、際密な細工が施された大きな振り子時計が。ああ、そういえば空から来たときにチラッと見たような見ていないような……。

 にぶく銀色に光る針が指し示す時刻は、22時59分。秒針は下を通りすぎ、数十秒で23時になるところまだきている。あと1時間で年明けか、早いなぁ。


「新たな年の訪れを手をとりあい喜ぼう。そして、平和な年となることを──」


 カチ、カチと秒針が音をならす。その音を聴きつつ、王様の言葉にほけほけとしていると、隣にいたエレアがあっと小さく声をあげた。


「いけない、また忘れるところでしたわ! アイリス、これを……」


 慌ただしくエレアはそばにいたメイドさんから何かを受け取り、それを私に手渡した。

 ──なんだろう、これ? 赤い布に包まれて、薄くて所々ぼこぼこしていて、とても軽い。そして少し振動が伝わると、しゃん、しゃんと鈴の鳴る音がした。


「──今宵は無礼講、思う存分楽しんでいってくれ!」


 王様がそう言い切ると、わああ、と歓声が上がると、会場のあちこちから、『10、9、8』と声が聞こえてきた。カウントダウン? いや、年明けまであと一時間なのに何で今……?

 わけもわからず周りを見渡す。皆、今にも待ちきれない様子で声をあげている。老若男女問わず、何なら身分も。何事?


『7、6、5』


「アイリス、カウントダウンが0になったら、その布を開けて下さいませ」


『4、3』


「えっ、えっ? なんで……? というか一時間前にカウントダウンなんか……」


『2』


「ふふっ、ドライシンガーの、1年に一度の一大イベントですわ!」


『1』


 な、なんだかよくわからないけど、えーい! なるようになれ!


『0!』


 わけがわからないまま、言われた通り布を開ける。すると、中身を確認するまでもなく、周囲の明かりが一つ残らず消えた──と同時に、手に持っていたものがぺちんと顔にくっついた感触と、自分の体の回りに風が起こって、ふわふわと持ち上がる感覚に襲われた。っていうか、これ、飛んでない……!? 真っ暗だし何がなんだかわからない! なに、なに!?


 思わず目をつぶると、不意にすとん、と着地した。さっきまで風の音しか聞こえなかったけど、わいわいと賑やかな話し声が聞こえ、華やかな音楽も聴こえてきた。そして、瞼越しに明るさを感じる。


 ──私は恐る恐る、目を開けた。



 およそ2年前に200ブクマ到達を喜んでいたのが、いつの間にか300ブクマ達成していました……! ありがとうございます!

 この話を書きはじめて、今年の8月で丸4年です。まだ、物語の中ではアイリスが皇帝に拾われてからまだ1年経ってないというのに……。時の流れは恐ろしいです。これからも地道に頑張っていきます!

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