表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
奴隷生活
7/85

奴隷異世界人、救出する。

 転生先での変動があるまで、ガンガン飛ばしていきます!

「……これでよし」


 1日の仕事が終わり、寝床に戻った私は床に石で傷をつけた。


 ここに来てから、年を数える為に床に傷をつけて数えているんだ。──今日で、ちょうど3年。


「もう、3年も経ったんだ。早いなぁ」


 床に座り込んで、窓──もとい、鉄格子をはめられた穴から夜空を見上げた。今日は冬ということもあって、ダイヤモンドのような星が瞬いている。


「……随分、この生活にも慣れたもんだなぁ」


 3年もここにいると色々と身に付くものだ。寝るときに体を痛めない方法、仕事をスムーズにする方法。──これは勿論のこと、いかに"呪いにかかっていないことを悟られないか"が一番の鬼門だった。 隷属呪具(れいぞくじゅぐ)の呪いにかかってしまった人……"隷属奴隷"は、感情がない。だから、看守がたまに八つ当たりで殴った時も、全然痛がらない。声も、生理現象で出てしまう声だけ。痛みに耐えるために出る声なんて出ないのだ。もし私が殴られて痛がってしまったら、呪いにかかってないことがバレてしまう。もしそんなことが起こったら……なんて考えるだけでゾッとする。


 だから私は、ここに来てから感情を押し殺す事を第一に考えてきた。無表情、無表情、無表情……ずっと表情を変えてないと、頭がおかしくなりそう。そう思いながらも私はなんとか生きていた。



「ねぇ、イーリス様。今日でちょうど、3年が経ちましたよ」


 私は一人、呟いた。幸いにも寝床は一人一部屋なので、聞かれる心配はない。っても、壁すごく薄いから騒ぎすぎたら看守に聞こえちゃうかもだけど。


〔おお、そうなのか。──そなたも3年で変わったのう。身長も伸びたし〕


 それは嬉しいお言葉! もしここに来た時が12歳だとしたら、今は15歳ぐらいだもんね。身長ぐらい伸びててもらわなきゃ困ります。──でも、前世よりもチビな気がするのは気のせいだろう。まあここでの食事は質素極まりないもの、当たり前か。ここ出たら思いっきり食べてやるんだからっ!


〔食欲旺盛なのは良いが、食べ過ぎて太るなよ?〕


 そ、それはちゃんと考えますけど……。でも私は肉がついてほしい。特に、体のとある部分に(どこかは言いません。むなしいから)。乏しいにも程があるからね。それに比べイーリス様はスタイル抜群だから羨ましいなぁ。ボンッキュッボンで。私なんかストーンまな板(笑)だもん。幼児体型すぎて笑える。まあこの世界には水泳の授業とかないからね、別に……いいもん!


〔ほれほれ、騒いどらんではよ寝るがよい。明日寝坊しても知らぬぞ〕


 はいはい。分かってますよー、寝坊はまずいしね。私は薄っぺらい布団が敷かれた、部屋の隅に向かった。──その時。


「あれ……?」


 視界の端に、窓の外が写った。そこには──小さい男の子が倒れていた。


「あ、あの子なんであんなとこにッ!?」


〔倒れているようだが、なぜ自分であそこに動けたんじゃ? 呪いが効いているはずなのに……ておいっ、菖蒲!?〕


 私はいてもたってもいられず、部屋を抜け出した。誰も脱走しようとしないから、鍵はついてない。


〔なにをしてるんだ! 看守にバレて見つかったらどうする!〕


 イーリス様が私を叱りつける。そりゃ、当たり前の反応だ。けど、あんな小さい子を見殺しになんてできない。今まで殴られている人を見捨ててきた私だけど。……でも、やっぱり死にそうになっている人を見捨てるなんて絶対にできない。──それに、呪いが効いているはずなのにあそこに行けたのも気になる。


 私はかつてないぐらいの速さで走った。幸運にも看守に出会わなかった。私はその子に近づき、抱き上げた。髪が短いから、男の子だろうか。──驚くぐらい軽い。全身が傷だらけだ。それに、息が絶え絶え。──これは危ない。このままじゃ死んじゃうっ……!


 そう考えながらも、私は男の子を抱えながら走った。部屋に駆け込むと、布団に寝かせた。


〔まったく、無茶しおって!〕


 イーリス様が叫ぶ。ごめんなさい。危ないことは分かってたけど、どうしても助けたかったの……。


 それよりもっ! イーリス様っ、この子死んじゃうよ! 寝かせた男の子の顔を見ると、真っ青。苦しそうに目を閉じて唸っている。


〔落ち着け、まだ息はある。そなたの能力……絶対音感(アブソリュート)があれば助けられる。回復しろと願えば大丈夫じゃ〕


 回復もできたのか! それは初耳だ。よし、早く呪文考えて助けてあげなくちゃ。──回復か。愛情のあるって意味が音楽用語であったはず……。


「"アモローソアーテム"!」


 私がそう呟くと、目の前の男の子は桃色の光に包まれた。地面から3㎝ほど、宙に浮いている。ハラハラと見守っていると、光は収まった。ピクリとも動かないので、私はあわてて顔を近づけた。


「……すー、すぅ……すー……」


 男の子の規則正しい呼吸が聞こえた。よかった……。寝てるみたい。私はようやく落ち着きを取り戻し、いつの間にか額に滲み出ていた冷や汗を手の甲で拭った。


〔だいぶ弱っていたからの、つかれたんじゃろうて。そなたが回復させたから、もう大丈夫じゃ〕


 そっか、それなら安心だね。とりあえず、今日は遅いしそろそろ寝なくちゃ。寝坊しちゃったら大変だしね。

 私は、すやすやと寝ている男の子の隣に寝転んだ。……体の傷も一緒に治ったみたい。絶対音感(アブソリュート)ってなんてチートな能力なのだろう。この生活になったのはイーリス様のせいとも言えるけど、こんな便利な能力を下さったのだから感謝しなくちゃ。


 ──新しい能力を使ったせいなのだろうか。私はすぐに眠気が襲い、気がつけば男の子の手を握りしめて眠ってしまっていた。


 新たな能力、新たな人物が登場!


☆新能力


・アモローソアーテム

回復魔法。使うと対象者が桃色の光に包まれる。


アモローソ(amoroso)……音楽用語で"愛情豊かな"という意味。

アーテム(Atem)……音楽用語で"息"という意味。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ