秘密組織、とある洞窟にて。
【お知らせ】
今までの話を読み返して気づいたのですが、
正しくは光の神子、闇の神子です……白の神子、黒の神子と書いてしまった所が多数ありました。ていうかほとんど半分そうなっていました……。
紛らわしくて申し訳ありません!
光を司る神殿の役割(過去の多数は勇者)が「光の神子」、白髪銀の瞳を持つものが「白の申し子」
闇を司る神殿の役割(魔王)が「闇の神子」、黒髪黒の瞳を持つものが「黒の申し子」です!
見つけたところは直したのですが、まだ直ってないところもあるかもしれません。これから地道に直していきます……!
洞窟の闇の中。
一つの人影が、目の前が見えるか見えないかの暗さと整備されていない地面を物ともせずに突き進んでいく。
長く入り組んだ道をしばらく歩き、開けた空間へと出た。
そこは先程まで通ってきた道とは違い、足元は少しばかり整えられていて、壁には小さく掘られた穴に蝋燭が点在している。
薄明かるくなったせいで、影の姿が露になった。女──おそらく十代だろう。
茶色い髪をシニヨンにまとめ、全身真っ黒の服を身にまとっている。首もとには細長い布を巻き、長いブーツを履き、全体的には露出が低めだ。しかし、胸元だけは大きく開かれ谷間がのぞいていた。
開けた広間から放射状に伸びているいくつもの道の一つへと、女は歩いていった。
……が、その道を歩き始めて数分もたたないうちに、ため息をついて立ち止まった。そして、腰につけたホルスターからナイフを取り出すと、後方へと向けて投げた。
「おげっ」という唸り声が聞こえると、天井から何かが落ちた。
「ちょっとちょっと、物騒なことするなぁ」
落ちてきた何かは放たれたナイフを受け止めると、彼女へ向けて投げて返した。
それを容易く受け止めると、女はフンと鼻を鳴らして口を開いた。
「何が物騒だ。尾行しているのはお前だろう、この糞コウモリが」
「え~僕もこっち行きたいだけだもん」
「なら中途半端に気配を消すな、気味が悪い」
しょうがないなぁ、とその影は地面からむくりと起き上がり、女の隣について歩いた。
深い紺色の髪、鋭く冷たい青い瞳、そして口からちらりと覗く犬歯。吸血鬼族の生き残りのバイロンである。
「で、君はあの人のとこに何しに行くの? 帰ってきたからご報告かな?」
「うるさい、お前と馴れ合うつもりはない」
「ひっどい言われよう~……これでも僕、ついさっきまで重傷で結構危なかったんだけど。その苦情を言いにね、彼のところに行くんだけどさぁ~」
はあ、とため息をついたバイロンの言葉に、女は目を見開いた。
彼女はバイロンの事をボロクソに言っているものの、実力は認めている。彼女が知っている彼の能力は瞬間移動、魔力吸収、魔力糸──おそらくこれ以外にも、彼には隠している能力があるだろう。しかし、この三つだけでも充分常識離れの能力のはずである。
(そんなこいつが、重傷だなんて……)
心の中でそう思いつつ、女は吐き捨てるように呟いた。
「また、余裕ぶっこいてヘマしたんだろう。いつかそうなるだろうと思っていた」
「そんなことしてないって! 今回はいつもより、ちょっとだけ本気だったもん。だってさ、あの皇帝様と巫女さん相手だよ?」
当たり前でしょ、と溢す子ども。それでも全力を出しきってないじゃないか、忌々しい奴め……と、女はため息をついた。
「ところで、どうなの? そっちは。順調なの?」
「当然だ、何事にも適当で全力を出しきらないお前とは違う」
「ふ~ん。そんなにさ~気ぃ張ってると、肩こるよ? 只でさえこりそうな体つ」
そこまでバイロンが言いかけて、ゴツン、と鈍い音が鳴った。脳天に拳を落とされた彼はワナワナと震えながら、女の胸部へと伸ばしていた手を頭に持っていった。
「触るなエロ餓鬼」
「えぇ~……何も、グーで殴ることなくない?」
お前が悪い、と吐き捨てて、うずくまるバイロンを放って歩き出した。
いつも生意気な口調で自由奔放なこいつが気にくわない。適当に任務をこなすし、餓鬼のくせにセクハラをかましてきたり、こっそりここに帰ってきたはずなのに神出鬼没に現れてちょっかいをだされる。
そんなおちゃらけた奴なのに、ボスには妙に好かれているのが余計に腹が立つ。
私の方が組織のランク的には上だが、一つ下の位についているのがよくわからない。何故ボスはこんな奴の肩を持つのか。炎の神殿にいる炎の精霊王を乗っ取り、世界の均衡を崩すことをこいつに任せるのは間違っている。私が、私ならもっと上手くやれるはずなのに。
まあ、それでも今は私の方が重要な任務を任されているのだから、それで良しとしよう。
「でさぁ……って、ねえ、僕の話聞いてる? ねえ」
「あ? ……聞いてる、巫女の話だろ」
いつの間に復活したのだろうか、気づけば隣を歩きながら何やらペラペラと話していた。
内容を要約するに、例の炎の神殿のあるあの火山での対戦の話だった。途中までは鉱山の国ドライシンガー王国第四王子を抑え、アインスリーフィアの皇帝までもを拘束し、更にはあの巫女の魔力を奪うところまでいったのだと。しかし、最終的には自分にかけられていたあの人の魔法が解けて重傷を負い、逃げてきたのだとか。
とりあえず聞き終わった後は、ざまぁとしか言いようがなかった。気持ちいいぐらいの逆転負け。これで少しは懲りたか?
と、そう思ったあとに頭に浮かんできたのは、その巫女のことだった。……ボスがかけた魔法が解かれたのは、巫女の魔力を吸ったからだろうか?
「でもさ、いくら光属性の血とはいえど、流石に闇属性の……それもあの人の魔法が解けるとは考えにくいわけなんだよ」
私もそう思った。たとえ旋律の巫女とはいえど、あの人の魔法が解けるわけがない。
解けるとしたら、おそらく──本物の、光の神子。それしか考えられない。
「きっと光の神子だと思うんだよね。だからそれを報告しに行くわけだけどさ」
「……その報告をする前に、任務失敗の仕置きを受けることを覚悟しとくんだな」
「え~っ、やだなぁ。ねえー庇ってよ!」
「死んでも御免だな」
えー、助けてよう! と、見た目相応の態度ですがりついて上目遣いでこちらを見てくる。その手にはもう二度と乗ってやらないと決めたんだ、二度と。
「だが、おそらくこれからも神殿に赴く度に巫女と、それからあの皇帝とも交戦することは間違いないだろう。……今度もし失敗すれば──」
お前の命が危ういから、気を付けるんだな、と言う前に「分かってるよ~」とおちゃらけた言葉が返ってきた。こいつ、本当に分かっているのか? ボスに好かれているからって、浮かれやがって。
「今度はもっと真剣にやるよ~……流石に巫女さんには痛い目にあわされたしね」
「……そんなにあいつは強いのか」
「ん~、まあまあ、かなぁ? 負けといてこう言うのもあれだけど、宝の持ち腐れって感じ。
でも僕はまだ負けた気にはなってないよ? だって血を吸ったらああなるなんて考えても見なかったし」
にこにこと笑っているようだが、目はまったく笑っていない。普段誰かとの勝負で負けたことがなかったせいか、敗北への苛立ちがあるのだろう。いくらこいつでも、口惜しさを感じる心がまだあるんだな。
血を吸ったら重傷、か……。こいつからすれば、美味しい食事の余韻を楽しんでいたところに急に襲撃されたってところか。確かにそれは屈辱的だ。
まあこいつには良いお灸を据えてくれたもんだ。そこだけはあの巫女に感謝しよう。
こいつも、強大な力を秘めた組織の幹部の一人とはいえ、まだ子どもだ。気にくわないことにはかわりないが、少しは気遣ってやらないとな。
「……まあそんな瀕死の状態でも良く無事で帰ってきたな。そこだけは褒めて……」
と、そこまで言いかけたところで、さっきまでの悔しげな顔は一変してニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。
「──ふふっ、でも、巫女さんの血の美味しさったら……普通なら手加減して獲物が快楽を味わって逃げられないように吸うんだけどさ、思わず強く吸っちゃった。
あの巫女さんの痛がってる顔、最ッ高によかったなァ……どれぐらいまでなら吸っても魔法解けないのかな? また吸いたいなぁ……! ふへへへ……」
──前言撤回だ、やはりこいつは気にくわん!
そして、本日何度目かのげんこつ音が洞窟に鳴り響いた。
気づけば今日で、この連載も丸二年です!!!
二年たってもまだ、書きたいことの3分の1も書き終わってないんです!執筆の鈍足ぶりにびっくりしています……。
こんな私でもここまで書けたのは読者の皆様のお陰です……!本当にありがとうございます!
来年春までは受験で全然更新できませんが、今回のようにたま~~~に更新するのでその時はお付き合い下さるとうれしいです!
これからも「奴隷転生者の花唄」をよろしくお願います!