紅蓮の炎の社
タイトル変更しました!
色々考えてみたはいいんですが……やっぱりタイトルをつけるのは難しいです。
もしかしたらまたこっそり変わってたりするかもです。
「あはぁっ! ありがとォ、巫女さん!」
恍惚とした表情で、バイロン君は叫んだ。
「こんなに魔力をくれる血なんて、初めてだァ! あっはは!」
竜巻のような真っ黒な魔力の渦が巻き起こっている。その中心で高らかに笑う彼と比べて、いまだに立つことができない私と皇帝。皇帝が倒れているところには、血だまりが……!
「ね、カニバル~。お前の言うとおり、巫女さんって絶品だったよ」
ぬっと影から誰かが現れた。例のあの大男が、ボロボロのアーロンさんを片手に……ニコニコと立っている。
「だろぉ? 俺お墨付きらからなぁ~!」
どさ、とアーロンさんを放り投げた。気を失っているようで、ピクリとも動かない。
私は魔力を奪われて、皇帝は重傷、アーロンさんは気絶状態。
──絶体絶命。
「さて、と。巫女さんは連れていかなきゃいけないから殺しちゃダメだけど……こいつら、どうしよっかなぁ」
じりじりと倒れている二人に近づいていく。バイロン君は犬歯をちらつかせながら、大男はよだれをたらしながら──。
「骨の髄まで、しゃぶり尽くしちゃう?」
「……やめてっっっ!」
僅かに残った魔力で、自分の体を風魔法で吹っ飛ばした。敵二人と皇帝達の間に割り込むと、伸ばされたバイロン君の手を白銀の棒で受け止める。
大男に隙が生まれたのを見逃さず、氷魔法で拘束した。これで、しばらくは私とバイロン君の一騎討ちになる。
「なあに巫女さん、まだ動けたんだぁ」
「絶対に、死なせないっ……!」
「はあ、そんなに真剣な目ぇしちゃって。……殺されたいの?」
バチッと閃光が走った。バイロン君の黒いオーラはどんどん濃くなっていく。
そして、手を高々と振り上げた。
「……ならお望み通り、君の魔力で殺してあげるっ……!」
彼の手のひらに、黒い魔力の塊が集まっていった。きっと、闇魔法……!
あんな、特大な魔法! 絶対領域でも、止められるかわからないっ……!
「ばいばい、巫女さんっ!」
迫り来る闇魔法、反射的に目をつぶった。
殺され、る……!!
「ガはっ……!」
口から、血を吐いた。
吐いた血が、地面に広がる。
「っァ、ハがっ……!」
──吐かれた血は、私のものではない
「なっ、んで、僕が……!」
バイロン君だった。
闇魔法が放たれた瞬間、彼がくの字に体を曲げて苦しむのが見えた。かと思ったら、いきなり吐血してしまったのだ。
それと同時に黒いオーラは消えて、辺りに白い光が立ち込めた。その光を浴びて、魔力が回復していくのを感じた。
──なんて暖かくて、心地よい光なんだろう。
「なんでっ……ただの光属性の血なら、アイツの魔法っ……解けないはずなのにっ! ゲホッ」
苦しそうにもがく彼に、立ち上がって近づくと白銀の棒を向けた。
「……怪我なら、治してあげる。
だから、この山とオーラを纏った人達を元に戻して!」
「っは、言うとおりなんて……なるかよぉ……!
覚えとけ!」
「わっ……!」
そう叫んだ瞬間、バイロン君と大男の周りに大量のコウモリが飛び交い──消えてしまった。
追い払った、の……?
緊張が解けて、その場にしゃがみこんだ。
死ぬかと思った。殺されるかと思った……!
「今のは一体、なんだったんだ」
へたりこんだ私の隣に、皇帝が歩み寄ってきた。
「こ、皇帝! 怪我してるのに、動いたら……!」
「表面は焼いて防いだ……。やめろ、今は治している場合じゃない」
「で、でも!」
「そうだよ、アイリスちゃん……治療は二の次、今はあれをなんとかしなくちゃ」
いつの間に目を覚ましたのだろうか、アーロンさんがお腹を押さえながら立ち上がった。目線の先は……山の頂上に建っていた、あの社だった。
黒いオーラが大量に放たれている! なんで? さっきまであんなんじゃなかったのに!
「あいつらが残した置き土産ってところか」
「しかもあれ、まずいなぁ……。実はここ、うちの家系が代々守る"炎の神殿"への入り口らしい」
炎の神殿?
もしかしてそれって、各属性にちなむ土地とか書かれてたやつじゃ。だとしたら、あの二人が故意に世界の均衡を崩しに来てたってこと!?
「まあそういうことかもね……多分、人々が変になったのもあれのせいだと思うし。それにこのままだと……魔力が込められすぎて、社が壊れて噴火する危険性がある!」
噴火! そんな、麓にはこの国の人達がいるのに……!
「どうすれば、元に戻せるんですか!?」
「おそらくあの黒いオーラをどうにかするしかないだろう」
「じゃあ私が……!」
と、言いかけた時。
社から凄まじい爆音がした。
そして、その中から……
「グギャアオオオオオオオオ!」
巨大な、炎を纏った怪物が現れた。
炎の怪物は、私たちがいるのに気がつくと突進してきた。
「っ、アイリスちゃん! ここは、僕とルイスでなんとかするから! お願いだ、黒いオーラを浄化してくれ!」
え!? 二人とも怪我してボロボロなのに! 私も、戦った方が……!
「……じきに噴火してしまう。お前がなんとかしろ」
そう言うや否や、二人は怪物に向かって攻撃を仕掛けていった。
社への道を切り開くように、怪物を誘導しながら……。
……言われた通り、あっちは二人に任せよう。
きっと、二人なら大丈夫!
社へ一直線に走る。地面が揺れ、マグマが次々と噴き出してきた。
飛行魔法でそれらを回避しつつ、ようやく近づいた時には、社にはヒビが入っていた。
一度落ち着いて、あのお母さんの歌を歌い始めた。神代樹もこの歌で浄化できたから、これならきっと……!
──しかし、いくら歌ってもオーラは消えない。
社の周りの黒いオーラはびくともしない。歌が、効いてない! そんな、嘘でしょ!?
……待てよ、魔法が効かない……それって、昨日師匠と倒したあの魔物と一緒だ。
──魔法耐性が限りなく強いなら、真ん中にある核を壊すといい──
なら、直接社に触れられれば……!
「ぐっ……!」
黒い灼熱の炎が私を包み込む。
熱い……! 絶対領域を張っていても、肌が焼ける痛みが私を襲う。
でも、社に直接なら……きっと!
目を閉じ歌を歌い始める。
それに抵抗するように、社から一層炎がふきだした。
絶対領域を突き抜けて、私の体を燃やしていく。
「あ、きらめてっ……たまるかっ……!」
お願い、効いて!
伝われ、私の歌……!!
──目の前が、まっしろになった。
◇
「おい──おい!」
「うえ゛っ!」
お腹に衝撃を感じて目が覚めた。
目を開けると、どこまでも真っ白な空間。……どこ、ここ?
というか、山は? 二人は? どこにいったの?
「おい、おめぇ」
後ろから声が聞こえた。
「いつまで寝てんだこの野郎」
振り替えると、男の人が私を見下していた。……て、でかっ! なにこの人、あの人喰い大男よりも大きいんじゃ……。
レネンのような深紅とは違った、朱色の長い赤毛。半裸に、炎を纏った赤い羽衣、金属でできた装飾品、腰には布を巻きつけたような服を身につけている。そこから伸びた足は人間の足ではなく、鱗に包まれたような……ドラゴンの足のようになっている。
バキバキに割れた腹筋といい、たくましい腕といい、プロレスラーのような体格だ。
呆然と突っ立っていると、鋭く尖った冷たい目線が私を貫いた……顔が超怖い! 大物政治家でも尻尾巻いて逃げるレベルですよこれ!
「え、えぇと……ど、どなた、ですか?」
超逃げ腰で尋ねる。すると、男の人は目を反らして言った。
「俺はエフリート。炎と破壊を司る精霊王だ」
せ……精霊王ォ!?
なにそれ、初耳なんですけど……!
「精霊王って……なんですか」
「ハァ? んなのも知らねぇでこんなとこまで来やがったのかよ、くそアマが」
ひ、ひぃ! 炎飛ばしてきた! どこぞの誰かと同じ事するなぁ!
っていうか、さっきのお腹の衝撃もこの人のせい? めっちゃ痛いんですけど!
「俺が起こしてやっているというのに起きない奴が悪い」
「そ、それはそうかもしれないですけど……そもそも、私なんでこんなところに……」
「あの社に触れ、俺の魔力に干渉したからだ。……不本意だが操られかけていたのを解放されたのは礼を言う」
え……そうだったんだ。素直にお礼を言うところは皇帝とは偉い違いだね。
「もしかして、あの二人になにかされたんですか?」
「そうだな。
あいつらは闇の力で、民の憎悪の魂を俺に奪わさせた」
「憎悪の魂……?」
そこからの話は無駄に長かったので短くまとめると……炎の神殿であるこの山を破壊すれば、世界の均衡は一気に崩れる。それを狙ったあの黒い組織が、エフリートさんを操って登山客の心の奥底に宿った憎悪の魂を抜き出していたんだとか。
じゃあ、数人の人が無事だったのはその憎悪の心がなかったってことか……。
「誰にでも憎悪の心は秘めている……まだ子供などはなかったのであろう。
俺はその魂を糧として、魔力を増幅され……放っておいても魔力が増大になり、やがて爆発する。そうすることで神殿を壊したかったのだろう」
そういうことだったんだ。で、でも今エフリートさんがこうなってるってことは、爆発せずに済んだんだよね? よかったぁ……。正直社に触れてからの記憶がないから、手遅れかと思ったよ。
「で、魂抜かれたようになっちゃった人達は? どうなっちゃうんですか」
「大丈夫だ、しばらくすれば治る。俺がどうにかするさ。
ところでお前のようなちんちくりんが光の神子とは……弱々しいやつを転生させたものだ」
し、失礼な! そりゃそんな三メートルぐらいありそうな精霊王と比べりゃ、誰でもちっちゃく見えますよって……ん?
「え、今、なに? 転生って……え!?」
「は? 知らねぇわけねぇだろうが。光の神子は転生者がなるもんだ」
「え、え!? ひかりのみこって……ええええええ!?」
ひ、光の神子ってあの!? 勇者とかになるっていう、あの!?
「わ、私が!?」
「お前以外にここに誰がいる」
「だ、だって黒髪に黒い瞳だし……ほら!」
結んでいた髪をほどいてみせ、ずいっと目を近づける。「やかましい」と言うとエフリートさんは私の頭にげんこつをおとした。い、いったぁ!
「知らねぇよんなの。光の神子は目覚めし時に白髪、銀の瞳……さらに覚醒した時には紅の瞳になるらしいが」
あ……そういえば、そんなことも書かれてた気が……。
えええぇぇえええ!? わ、私が……神子!? 嘘だぁ……!
「間違いない。あの野郎とそっくりだ」
「は? あの野郎……?」
エフリートさんは私の言葉を無視すると、その場に寝転がった。
「さ、さっさと帰るこったな。ここにいても何もねぇよ」
「とは言われても……どうやって帰ればいいんですか」
「武器ぐらい持ってるだろ、それでこの空間を切り裂く」
そんなんで帰れんのか。画期的なものですな……。白銀の棒で帰れるのかな。刃ついてないし……。ていうか、あれ?
「おっきくなんない……おりゃ!」
いくら振っても、叩いても。大きくならない。
え、ちょ、なんで?
「何してんだよ……って、おめぇこいつと契約してないのか」
「契約?」
「んなことも知らねぇのかよ……ッチ、めんどくせぇな……
それは光の神子が持つと言われている聖槍だ」
「……せいそう?」
「聖なる槍。槍か剣かは曖昧だが。っても、今は折れちまって剣でも槍でもの影も形もないがな」
聖槍……たんなる白銀の棒だと思ってたのに、そんな凄いものだったんだ。
「おめぇはこいつと契約してない。それじゃ、こいつには主と認められてねぇ」
「そうなんですか……で、契約ってどうすればいいんですか?」
「はぁ……それもやんなきゃいけねぇのかよ……」
眉間にシワを寄せながら、エフリートさんが手を一ふりする。……すると、いつの間にかドラゴンの手のようになっていて、鋭い爪が生えていた。そして、私に振りかざす……ふ、振りかざしてる!?
「はぁぁぁっ!」
「えっ、ちょっ!」
間一髪で避けた。あ、あぶな! なに、私がうざったすぎて切り殺そうとでもしたんですか!
「ちげぇよ……契約には血が必要なんだ」
「な、なんだ……そうならそうと早く言ってくださいよ、殺気むき出しでビビっちゃったじゃないですか」
「軟弱者め」とため息をはきながら、今度は軽めに爪を振るった。私の手の平に浅い傷がついて、血が滴ってくる。
「それをこいつに垂らし、名前を呼ぶ」
名前を呼ぶ? これ、名前あるの?
「俺は知らねぇよ。名前なんかなんでもいいだろ」
んな適当な……えぇと、えぇと……名前、名前か……。
血を垂らして白銀の棒を握った。……すると、自然と口から言葉が漏れた。
「"我こそは光を司る者 封印の鎖を解き放ち 我に力を与えよ
聖槍アスカロン"!」
ぶわっ、と光が溢れて目が眩んだ。
勝手に口からとびでた"アスカロン"が、この槍の名前……。でも、もしかしてこれで、ただの棒じゃなくなってるんじゃ……!
「……って、変わってないー!? さっきと同じまんまじゃん! なんで!?」
「知らねーよ」
私の手におさまっているのはそっくりそのまま。何もかわってない。……もしかして偽物とか?
「んなわけねぇだろ。……でもこれで契約したんだ、それ使ってとっとと帰るんだな」
「契約……これでよかったんだ」
ほんとに契約できてんのかな。呪文も何故か勝手に湧き出てきて……ってうか、あの呪文、今になってみるとすっごい恥ずかしい! なにあの中二病みたいなセリフ!
「うっせぇな、いいから早く帰れ! 俺はここの修復とか色々忙しいんだ!」
「ひ、か、帰りますから! 攻撃しないでくださいい!
え、ええと……切る感じでやればいいのかな……おりゃ!」
ヒュン、と空を切る音が聞こえると、目の前に亀裂が入った。亀裂からは光が漏れている。
ここから帰れるのかな? よし、じゃあここに無理矢理体を押し込んでっと……。
「エフリートさん、ありがとうございました。それと、お邪魔しました。じゃあ!」
ふん、とため息を吐くと、エフリートさんは欠伸をしながらまた寝転がった。
それを見るや否や、私は光に吸い込まれていった。
炎の精霊王エフリート。見た目は怖そうだったけど、案外面倒見がいい人だったな。
精霊王が登場しました。ずっと書きたかったので今回でようやく登場できて嬉しいです!
ほんとは野蛮で暴君な奴のつもりだったんですけど、世話焼きになってしまった……何故。
あと傷を焼いて塞ぐっていうの出来るんですかね、超痛そうだけどかっこよかったのでそうしました。
ぬるぬる更新なのにいつもありがとうございます。
これでおくりび山編は終了です。男ばっかだったので早く女の子書きたい!!ですね!!