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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
秋の闘技大会
53/85

奴隷歌姫、賛美される。

 後日、結界を確かめに行ってみた。見事成功……いや、大成功すぎたと言っても過言ではないと思う。今までにないほどの強度になって、「これで城も安泰です!」と衛兵さんに感謝されたほど。


 そしてなにより! 私が嬉しいのは、なんとこの結界は私の意思で開閉できるらしく。──要するに、私はいつでも通行可能になったらしい。なんてこった! これで脱走も楽にできるようになっちゃったじゃないですか! なんというチート性能……! うふふふ。


「チッ……」


 納得いかないという表情の皇帝に、私はにこにこと笑顔を浮かべながら昼食を配膳した。どうやら私が思うままに外に行けるのが腑に落ちないらしい。悔しい? 悔しいでしょ~ふふふふ。

 そう心の中で煽っていると、ナイフがシュッと飛んできた。ちょっと! 何も言ってないんですけど!


「……出掛けるときは俺に報告しろ」

「えっ」


 ……聞き間違い? なんか、出掛けていいって行ってた気がするんだけど気のせい?


「どうせその結界じゃ脱走されるのが落ちだろう」


 まじでぇぇぇぇええええ!?

 あの、皇帝が!?!? 外出許可!?


「皇帝……本気ですか、嬉しすぎて死に」

「ただし行くときは俺も同伴する」

「親かッ!」


 待て待て、過保護すぎない? 確かに私、皇帝から見りゃ危なっかしいと思うけどさ。一応、自分の身ぐらい守れるんですよ? この前だって、ギリギリの状況だったけどなんとかなったし! 大体この世界のことも把握してきたし……何でそんなに、神経質になるんだろ。


「ところで」

「話そらさないでください」

「お前、トレーニングの結果はどうだ?」

「おい、そらさないでくださ」

「前と強さが変わらないだなんて言わんだろうな」

「…………」


 無視かよ、このやろ……。


「皇帝よりは確かに弱いとは思いますけど……それなりに強くなってません?」


 実はこれは本当だ。魔力の消費効率も上がったし、何よりこの前は負担が大きかった身体能力強化魔法も、短い間なら楽に使えるようになったし。前よりも魔法のレパートリーも増やせた。体力も上がったし……短期間のわりには、強くなったと思うんだけど。

 私がつらつらと出来るようになったことを指折り数えていると、皇帝は肩をすくめ、私が淹れた食後の紅茶を啜りながら言った。


「それだけか? 魔法頼りで?」

「ぐっ。そりゃあ、魔法頼みですけど……」

「いざ魔法が使えなくなった時どうする?」

「それは……」


 魔法が使えなくなったら、か……私は魔力不足で魔法が使えなくなることはなかなかない。今までも、あの泉での無茶ぶり以外は枯渇しなかったし。

 でも、魔力がなくならなくても、声が出せなければ私は魔法をかけられない。絶対音感(アブソリュート)は、声にイメージをのせて魔法を放つ能力だから、呪文じゃなくても、歌でも単語でも……多分、呻き声とかでも発動はできる。ただし、声が出なくなればそこで、私の戦力はゼロに等しい。

 うーん……確かに、皇帝のいう通りかも。


「声が出せなくなったらそりゃあ、もう駄目ですけど……その前になんとかすれば」

「てめぇ、それで生き延びられると思ってんのか? 本当に脳内が花畑だな」


 むっ……相変わらず、ムカつく言い方だ。でも今回ばっかりは言い返せなくて、目を反らしてしまった。

 そんな私を皇帝は一瞥し、急に立ち上がると、ツカツカと壁にかけてあったマント(暑すぎなければ、夏でも大体好んで着ている)へ向かい、羽織りだした。


「ちょっ、皇帝、どこに?」

「あ? 町に決まってるだろ」

「え、でも今日はそんな予定なんかなかったはずじゃ……」

「あー、もう五月蝿い! いいから黙ってついてこい!」


 契りのツタを出され、訳もわからないまま城門まで引きずられた。そんな私たちを、二人のうち一人の衛兵さんは目を白黒させながら見つめている。うう、恥ずかしい! もう一人の衛兵さんは満更でもないように見てるけど、なんでなんだろ……ってか、なんか超満面の笑みを浮かべてるけど!? 何故に!?

 皇帝がずかずかと城門に進んでいく。そんな皇帝に、にこにこ顔の衛兵さんが話しかけてきた。黄土色の髪に一束寝癖がついていて、いかにもやんちゃっ子って感じだ。私と同い年か、もしかしたらそれよりも若そうだ。


「チワッス、陛下! お出掛けでございますかっ!」

「ああ」

「ええと、後ろの方はいったい……」

「気にするな」

「了解ッス! 行ってらっしゃいっ」

「こ、こら! 承知致しました、行ってらっしゃいませ、だろ! 失礼だぞ!」


 びしぃ! と敬礼したやんちゃっ子衛兵さんに、隣にいた目を白黒させていた方の衛兵さんが怒った。それを気にもせず、皇帝はずんずん進んでいく。ちょ、ちょっ、待ってってば……!


「皇帝! とにかく引っ張らないで、まず話してくださいっ! どこいくんですか!?」


 精一杯声を荒げても、どこ吹く風という表情だ。皇帝の耳は垢だらけなの!? 聞こえてんの!? ったく、このっ……!


「ちょっと、一旦止まれって言ってんですよっっっっっっ!!」


 半ギレで叫んだ、その瞬間、


「ぐぁ!」


 今にも城門から出そうだったのが、ごいぃぃぃんと鈍い音が鳴り響いて皇帝がうずくまった。と、同時に私を縛っていたツタも消えてしまった。

 うずくまった皇帝は、おでこを手で抑えてふるふると震えている。衛兵さんたちも、目を見開いて私を見、そして城門へと目を向けた。え、私がなにか……おわっ。


 衛兵さんたちの視線につられて城門を見ると、一瞬だがキラリとガラス板のようなものが見えた。虹色に輝いている。もしかして、これって結界? え、でも私は普通に通れちゃいますけど……。


「っつぁ……! なんだ、これ……!」


 一方皇帝は。まだおでこが痛いのか、片手で擦りながらもう片方の手でコンコンと叩いている。

 もしかしてこれ、私が「皇帝が止まってほしい」=「城門から出れないように」って感じで、私の結界魔法が反応してる訳? すごい、こんなことも出来るんだ。


「なにすんだ、てめぇ……!」

「げっ……皇帝ちょっと待ってください、落ちつ……ちょっ! さらりと剣を抜くなぁっ!」


 やばい、こいつ()る気だ、と思った時にはすでに遅し。私が身構えた時には、顔の横を皇帝の大剣が通りすぎた。ひぃっ!


「チッ……」

「タンマっ! ストップ、ストップ!!」

「ぉらあっ!」

「く……"ヴィヴァーチェ"! "絶対領域(サンクチュアリ)"!」


 咄嗟に加速魔法と、この後の攻撃に備えて絶対領域(サンクチュアリ)を展開させる。攻撃が防がれて結界を張られたのも気にせず、皇帝は次の攻撃を仕掛けてくる。避けて、攻撃して、避けて、攻撃……の繰り返し。

 な、そんなに怒ること!? ちょっと痛い思いしただけじゃん! 無制限に攻撃をしてくる皇帝に、さすがに腹が立ってきた、その時。


「すっげぇ! かっけえええぇぇぇええっっっっ!!」

「「……は?」」


 突然、私でも皇帝でもない声が響いて、攻撃をやめてお互いにその声の主へと目線が動いた。


「つええ! こんな派手な手合わせ見たの初めてだっ!」

「ちょっ、おい、レオ!」


 声の主は、さっきの黄土色の髪の方の衛兵さん。目を爛々と輝かせながら、走ってくる……え、私に向かってない?

 びっくりして固まっていると、レオと呼ばれた衛兵さんは私の手をガッチリと握り、鼻と鼻がくっつくほど顔を近づけてきた。


「ん、んん!?」

「貴女、お噂の旋律の巫女様ですよねっ!? 歌が上手いだけじゃなくて、あの最強と名高い皇帝とやりあえるほど魔法がお上手なんスね! カッケー!」

「あ、あ、えと、その……」


 ふんふんと鼻息を出しながら、熱っぽい視線を向けられる。ううっ、眩しい! そんな純真な瞳で見つめないでっ!

 私が手を包まれながら動揺してると、黄土色の頭ににチョップが炸裂した。その勢いで屈んだ彼の後ろには、もう一人の衛兵さんが。さっきは気づかなかったけど、煌めく金髪に碧眼、シュッとした顔立ちのイケメンである。


「ごるあああ! てめぇ、困ってんだろ空気読め!」

「いってぇ……なにすんだよぉ、アレン」

「ほんっっっっっと申し訳ありません! こいつがご迷惑をお掛けしましたっ!」


 アレン、と呼ばれた衛兵さんはばっと超高速で頭を下げ、ついでにレオ君の頭も強引に下げた。お、おお……レオ君の首ボキョっていったけど、大丈夫?


「大丈夫ですよ、びっくりしただけですから」

「ほんとすみません。こいつ、強い人には目がなくて……」

「ちげーよっ、強くて綺麗な人に憧れてんの!」

「まぁたそうやって口説くんじゃねぇ!」


 べしーん! と、アレン君がレオ君を叩いた。ぶっ……コントやってるみたい。仲良いんだね。


「旋律の巫女様っ、今度遊びにいらしてください! またあの、ばびゅーん! てした魔法見たいッス!」


 ばびゅーん? ああ、加速魔法かな。なんか良くわからないけど、なつかれたみたい。別になつかれるのに悪い気はしないし、キラキラと輝く子犬のような瞳には勝てそうになくて、私は微笑んだ。


「あはは、気に入ってくれたなら嬉しいです。また来ますね」

「やったぁ! 俺、レオンっていうんス! レオって呼ばれてます! こっちは相棒のアレンッス」

「私はアイリス。よろしくね、レオ君、アレン君」

「ほんとすみません……こいつが……」

「っ……くはぁ、その笑顔も殺人級にびゅーてぃふぉーですね!」


 アレン君の拘束を意図も容易く解いたレオ君に、また手を握られ……私の頬に顔を近づけ……ん!? 


「!」

「がっ……レオオオォォォッッッッッ! てめぇって奴はァァァァァ!!」


 私の頬に、レオ君の唇が当たりそうになった瞬間──レオ君の頭にはチョップが、対する私は後方にグイッと引っ張られた。


「アレン、邪魔すんなよっ」

「こ、皇帝」


 皇帝は何も言わずに、私の腕を掴むと歩き始めた。結界も、私たちが通れるほどの大きさに、炎魔法で亀裂を入れられてしまった。ちょ、直すの私なんですけど! って、いってぇ! 力強いし! というか、ちらっと見える横顔が……ひいいい、マジ怖いっス……。皇帝ってあんなに顔黒かったっけ??


「え、えぇと……二人とも、また今度ねっ!」


 皇帝の手を振りほどくこともできず、引きずられていく私は、どんどん遠ざかっていく衛兵二人組に声をかけるしかなかった。





 

新キャラ登場!猪突猛進な子とオカン系の組み合わせはなかなか好きです。完全に私の趣味ですね。笑

そして50話突破!去年の夏?に投稿を始めて、ようやく50話です。鈍足ぶりが顕著に現れますね(^^;

ここまでかけたのも皆様のお陰です!これからも頑張ります。

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