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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
秋の闘技大会
52/85

奴隷歌姫、魔法のイロハを教えてもらう。Ⅲ

前回との文字数が上手くいかず、短めです。


 ◇



「ここに置いてね」


 行き着いたのは、ガランとした地下室だった。天井がものすごく高い。洪水防止の為の地下空洞みたいだ。

 ソフィアさんが指差したのは、地下室の中央に置いてある、台座だった。繊細な装飾が綺麗だけど、相当古いもののようで、色褪せている。その台座をぐるっと取り囲むように、数段の階段があって、少しだけ台座が堀り下がっている。RPGとかでありがちな、典型的な神殿っぽい外観だ。

 台座に目を向けると、何やら図が描かれている……なんだろう? ──世界地図? 真ん中にコンパスみたいな十字があって、それを取り囲むようにぐるっと、大陸らしき図だ。


「ここに? 平らだから転がって落ちちゃいません?」

「いいのよ。どうせ転がるほど余裕ないでしょうし」

「……?」


 なんだろ、わけわからん……まいっか、大丈夫って言ってるんだし、とりあえず置いちゃおう。この真ん中のところでいいんだよね?


 私は、台座の真ん中に魔法石を置いた。──刹那、石が突然光りだした。


「まぶしっ……ぐぇっ!」


 目が眩んでふらついたかと思うと、後ろから抱きつかれて持ち上げられた。


「ふぅ……間一髪ね」

「そ、ソフィアさん……!?」


 目はまだ眩んでいるから見えないけど、声は間違いなくソフィアさんだ。というか、あの場に私と彼女しかいなかったから当たり前だけど。でも、あんな華奢な腕で私を持ち上げたんですか!? 


「それよりも、アイリスちゃん。危ないからほら、下がって!」

「危ないって何か……」


 あるんですか、と口に出そうとした。だけど、その言葉は地響きによってかき消されてしまった。訳がわからずに目を白黒させている私に、ソフィアさんは私の後ろを指差した。


「あっ……!」


 台座の上に置かれた魔法石がどこかに消えていて、水晶の塊のようなもので覆われている。そこから、パキパキと音をたてて、剣のように鋭く結晶ができていった。その結晶はとどまることなく、怪物のように巨大化していって、台座は早々に飲み込まれてしまった。


 そして、台座の上に魔法石を置いてから数分後、今や私たちの身長の何倍にもなったであろう結晶体に、ひびが入っていくのが見えた。


「おっと……アイリスちゃん、私たちに結界張ってくれないかしら? 結構強めにお願い」

「は、はい! "フロ・フォルティッシモ"!」


 水魔法を展開させて、自分とソフィアさんを覆った瞬間。食器棚をひっくり返したような、なにかが割れる音が聞こえ……衝撃波と、破片がこっちに飛んできた! ぐっ、と力をこめて結界を強め、しばらくたつとシン……と静まり返った。恐る恐る結界を解くと──


「……!」


 ──そこには、全て結晶でできた、何かのオブジェがある。……大木、だろうか。

 台座を中心として、そこから円上に地面が結晶に覆われている。


「あらあら……綺麗ね」

「ソフィアさん、これは?」

「あれが魔術結界具よ。貴女の魔法石の魔力を取り入れたの」

「え、じゃあ……あの結晶は、私の魔法石?」

「そういうことよ」


 確かに、結晶の色が私の魔法石と同じだ。あの魔法石がこんなになっちゃうんだ……すごい。


 階段を降りて、結晶体に近づいてみた。台座だったところの後ろには大木があって、そのまわりや足元には、まるでガラス細工のような草花が生えている。この世界での名称はわからないけど、朝顔、ヒマワリ、紫陽花、オシロイバナ、カタバミ……と、なんとなく夏の植物が集まっているような気がする。そして、ご丁寧なことに茎や葉の部分は私の魔法石の色だったが、花びらだけは違っていて、赤や黄色にかわっている。

 

 そして、台座は結晶に覆われ、中心に一つだけ、花が咲いていた。それだけは花びらも葉や茎と同じ色で、虹色の光が漂っている。そして、この花の種類は──アヤメだ。

 アヤメだけ、他の花とは違ってて特別な感じがするけど、なんでだろう? 私が無意識にそうしたのかな。


 花を眺めながら物思いにふけっていると、ソフィアさんが私の肩を叩いた。


「ほら、アイリスちゃん。この魔術結界具全体から、魔力のオーラが出てるのわかる?」

「えーと、なんとなくなら」

「あれが出てるってことは、結界が上手くいったのよ」

「そうなんだ……よかったぁ」


 私が結界を壊しちゃった訳だし。これで一安心です。


「結界って、かける人によって効果が変わるのよね。だから、確かめて効果を後で教えてもらってもいいかしら?」

「後で? 今行くんじゃだめなんですか?」

「今でも構わないけど、私はこれから用事があるの。大人(・・)のね」


 そう言ってソフィアさんは……胸の谷間に手を突っ込むと(あんなことする人が実際にいるのに驚き)、何かを取り出して私に手渡した。鍵、かな? ひんやりとした冷たさを感じる。あれ? あんなとこから取り出したんなら、体温で温まってるんじゃ──って、これじゃなんか変態っぽい! やめよう!


「それはここに繋がる鍵よ。鍵穴のあるところはどこでも使えるからね。これからは貴女がここの結界を管理するから、渡しておくわね」

「管理……って、具体的には何をするんですか?」

「この結界の魔力が少なくなってきたら、定期的に魔力補充してくれれば良いわ。魔力不足になれば、見ればすぐに分かるから。

 それじゃあ私はこれで。次会うのはきっと、今度のセレモニーね」

「えっ、あっ、ちょ……ソフィアさん!」


 またね、とソフィアさんは言い残し、ぽむっと煙を出して消えてしまった。い、今のも魔術具、なのかな? って、しゃべるだけしゃべって置いてかれたんですけどっ! というか、セレモニーって何? 


 もうすでにいない人に向かって言っても意味がないので、私は黙り混んで鍵を見つめた。……管理かぁ。見ればすぐに分かると言われてもねぇ……。とりあえず、数日の間は朝イチでここに来て、観察してみようかな。うん、この鍵もあることだしね。


 階段から帰ろうと、振り返り様に結界の結晶が目に入った。地下室のはずなのに、どこからともなく入り込んだ陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。特に、台座の上のアヤメだけは、より一層輝きを増している。


 ──アヤメ、私の元々の名前。

 ここでの生活に慣れすぎて、のうのうと過ごしているけど……私は葉月菖蒲(はづきあやめ)、なんだっけ。……たまに、忘れちゃいそうになってしまうけど、私はこの世界の住人ではないんだから。

 この世界が平和になったら、私は帰るんだよね。それが、イーリス様からのご褒美だし。その時にならないと分からないけど、なんだか実感わかないな……。


 私は少し感傷的になりながら、しばらく台座の上の小さな花を眺めていた。


 このあと、帰りが遅くて皇帝に怒られたのは言うまでもない。




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