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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
秋の闘技大会
51/85

奴隷歌姫、魔法のイロハを教えてもらう。Ⅱ

10/22追記

光魔法石を透明に変えたので、アイリスの魔法石の描写を少し変更しました。

「ほんっっっっっっとうにすみません……!」


 額に冷たい感触。今、私は膝を折り畳み、体を縮めて手を前について曲げている。……否、土下座をしている。


「いいのよ気にしないで、特に壊れたものも無かったし、これぐらいどうってことないわよ」

「い、いや……この有り様なのに特にどうってことないって方がおかしいですよ」


 場所は変わらずソフィアさんの部屋だが、さっきと同じ部屋だと思えないほどの惨状だ。机はちゃぶ台返しをしたかのようにひっくり返り(脚が一本を残して全て折れている)、そこに乗っていた書類はバラバラに散漫している。カーテンはボロボロ、窓ガラスにもひびが入っている。何より、棚に入っていた魔法石があちこちに転がっている。幸いにも、置いてあった機械類は無事みたいだけど、これはひどい。


 どうしてこうなってしまったかというと、ほかでもない私のせいである。魔法石に魔力をこめようとしたら、なんでか瞬いて、次の瞬間にはものすごい爆音がしてこの有り様に……。


「きっと魔法石の限界魔力量がオーバーしたのね」

「奴隷の癖に脳筋だな」

「の、脳筋っ……失礼な!」


 確かに力のコントロールは苦手だけども! 馬鹿力の皇帝に言われたかない。

 いやしかし、こうなったのも私が未熟なせいだし、申し訳ない……。取り合えず、一番被害が大きそうな机を直しながら、私はため息をついた。


「まあよくあることよ、落ち込まないで」

「え……こんな大惨事、よくあることなんですか」

「そうね、日常茶飯事よ。私もよくやっちゃうし」


 さらっと真顔で言うのやめてくださいよ! 


「それよりも、早く片付けて結界の張り直ししなくちゃね……んーと、これならいいかしら」


 散らかった山を掻き分けて、緑色の魔法石と、ペンのような何かを取り出した。そしてその魔法石をペンにはめこんで──刹那、ソフィアさんの持ったペンが光った。かと思うと、今までぐっちゃぐちゃだった部屋の物が、勝手に浮いた。


「な! なんですかこれ! すっごい!」

「ふふ、驚くのはまだ早いわよ」


 ソフィアさんが、ペンを一振り。すると、浮いていたものが今度は……意思があるかのように、動き出した!


 ひっくり返っていた家具が浮き上がり、元の位置に戻っていった。吹き飛ばされていた魔法石は、ふわふわと浮いて列を作り、棚の中に入っていく。山積みの書類に加えて、それまで部屋中に散らばっていたものも全部、私が直した机の上や本棚に。そして驚いたことに、棚の中や元々整理してあったところは、さっきと同じだ。すごい! 浮遊魔法にしては、精巧だし完璧すぎる……!


 私が途方にくれて見惚れていると、後頭部に何かが追突した。いってぇ! なんだこれ、魔法石? ……皇帝、お前かァ!


「よしっと。これで元通り」

「ファ~……初めより綺麗です」

「うふふ、私の発明した魔術具、すごいでしょ?」


 魔術具? え、これがあの噂の! へぇぇぇぇ! こんな便利な物があるだなんて……私もほしいです!


「ところが残念、この魔術具はね、魔力が全くない人にしか使えないのよ」

「えっ、魔術具、なのに?」

「そうよ。魔力がなくても、楽に生活したいじゃない? 魔道士とまでは及ばないけどね」


 いやいやいや! これ完璧に、魔道士より何倍もすごいですよ! 私だって、掃除はまだしも、最初にあった場所と同じところに戻すなんてできる気がしない。できたとしても、魔力消費がすごそう……。


「ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ。でもね、魔術具って言ってもこれが特別なだけで、一般的なものはもっとちゃっちいものよ。せいぜい、お料理の火と、氷の箱とかね」


 料理の火、氷の箱……コンロと冷蔵庫のこと? ほー、そんなものがあるんだ! ……そういえば、部屋の明かりもどうやってついてるか不思議だったんだけど、そうか。あれ、雷属性の魔法石とかで作られてるんだ。


「そうそう、その通り。だから、魔術具っていってもピンキリなのよ」

「へぇ~……なるほど」

「魔術具は魔力なしの人でも使えるんだけど、作るのは魔道士じゃないとできないの。本体ならいいんだけど、どうしても魔法石が必要なのよ。

 と、いうわけで。魔法石のことも分かったでしょうし、そろそろ本題ね。実はね、これからやってもらう結界張りは、魔術具を使うの」


 ソフィアさんはペンを棚にしまうと、爆発前までは見当たらなかった椅子に座った。どこかに埋まってたのか……。


「結界の魔術具は、魔法石さえ入れちゃえばあとは自動なの。古の巫女が作り出したといわれてるんだけど、真相は分かってないわ。だからさっきは、そのための魔法石を作ってもらおうとしたんだけど……あれなら、一から自分で作った方が安全そうね」


 そうだったんだ。お試しでやってみよう~的なノリかと思ってました。


「本当にお手数おかけしてすみませんっ……」

「いいのよ。それにね、魔法石は一から作った方が、純度も魔力も高まるからその方がいいのよ。きっと、より強固な結界ができるわ」


 そういうもんなのか。……でも、そんなパッとできるもんなのかなぁ。これもまた失敗しそう。


「それじゃ、アイリスちゃん。早速作ってみて?」

「えーと、コツっていうか作り方とかはあるんですか?」

「さっきと同じよ。魔力を集めて流し込むだけ」

「んんっ……」


 しばらく目を閉じて集中する。しかし、いくら経っても石どころか何もできなかった。ですよねー……。


「ん~、これは手厳しいわねぇ」

「うう……なんででしょうか」

「私は自分で作れないから何とも言えないんだけど。なんでかしらね」


 ふむ、と顎に手を当てるソフィアさん。その仕草だけでめちゃめちゃ色気がある。って、そうではなく!

 とにかく今は、魔法石作りに集中しなくちゃ。どうすればいいんだろ。


「そうだ、ルイス君、君が教えてあげ」

「断る」


 即答っ!? っていうか、まだいたんだ皇帝……。全くしゃべんないから忘れてた。


「コツもクソもあるか。自力でなんとかしろ」

「ん~……大福二個」

「断る!」


 ありゃ、ガタンと椅子から立ち上がって、出てっちゃった。チラッと見えた横顔が、ものすごく強ばっている。それに、出る直前に盛大にソフィアさんを睨み付けていった。そんなにコツ言うのやなの? 

 呆然としていると、その一部始終をソフィアさんが、けらけらと笑いをこぼした。


「ふふっ……」

「ど、どうしました?」

「実はね、魔法石を作るコツって、誰かを思う心が大切なの」

「誰かを思うゥ!?」


 それをあの皇帝が!? 持っている……だとォ!?


「つまりは、それを自分で言うのが嫌だったってことですか」

「そういうこと」

「なるほどねぇ……って、ソフィアさん知ってるじゃないですか」

「ふふふ、ちょっとした悪戯よ」


 そう言うと、ソフィアさんは口に手を添えて妖艶に微笑んだ。Sっ気ありますね、ソフィアさん……。


「さて、と。コツも分かったところで、早速どうぞ」

「は、はいっ」


 皇帝の誰かを思う気持ちがすっごく気になるけど、今は集中、集中!

 手を組んで目を閉じて、魔力を集める。……そして、大切な人を思い浮かべて……。


「んんんんんんん゛ん……!」


 次第に、私の組んだ手から、光が漏れ出してきた。


「そう、その調子よアイリスちゃん!」


 そんなソフィアさんの言葉も耳に入ってこないぐらい、魔力をこめる。……やばい、気を抜けば吹き飛ばされそうっ!

 って、大切なのは人を思いやる気持ち。大切な人……大切な人!


「ふんぐぅぬぬ!? ……おらァァァァァァ!」


 渾身の力を込めた瞬間、辺りがまばゆい光に包まれた。そして、その光が収まると……ごろんと、何かが足元に転がった。


「これ、魔法石、ですよね?」

「ええ、すごいわ! こんな大きなサイズ……!」


 え? まじで? これが!?


 拾って手に乗っけて眺める。これがまぁ、見事な真ん丸の魔法石。宝石っていうより、占い師が使う水晶玉って感じ。

 色はと言うと、透明ではあるけど、光の当たり方によって、色が変わって──青、水色、黄緑、たまに赤、黄……。なるほど、属性が反映するって言われてたけど、光をメインに、得意な属性の色はよく出るみたい。

 私が昔見た宝石の中では、ウォーターオパール? 確か、そんな感じの名前のに似てるかな。自画自賛だけど、我ながらなかなかいい感じに仕上がったんじゃない? ……ただ、魔力こめすぎたのかな、ちょっとクラッとする。


「色も文句なしね。魔力量もかなりのもの」

「えっ、ほんとですか!?」

「ええ。作るときのあのエレガントじゃない声さえなければ、満点をあげたいところ」


 う、そんなにひどかった? ……確かに思い返してみれば、結構ひどい声だった気がする。ま、まあ、できたからそれはいいんだ! 終わりよければ全て良しだ、うん!


「じゃあ行きましょ、魔術結界具はこの先よ」


 ソフィアさんが指差した扉の先は、地下へと続く階段だった。


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