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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
奴隷生活
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凡人女子高生、死亡する。Ⅱ

 ゴトゴト、ゴトゴトと音が響く。

 ゆっくりと目を開けると、どこか狭くて暗いところに私は座り込んでいた。目を開けても真っ暗で、自分の手のひらさえも見えない。

 私──どうなったの? ここ、どこ……?


〔──め、あや──め、菖蒲……聞こえるか?〕


 不意に、私の頭の中に声がこだました。これは、イーリス様の声!? また、来てくれたのかな。

 でも周りを見渡しても、イーリス様がさっき現れたような姿はどこにも見当たらなかった。


〔ああ、そうやって辺りを見渡しも我はおらぬぞ。先程この世界に姿を現した影響で、力を使い果たしたのでな。しばらくそなたの前に姿を現すことはできぬ〕

「そ、そうな──」

〔しっ、声を出すな。心の中で語りかけるだけで充分じゃ。そなたの周りには沢山の人間がいるからの、しゃべらないほうが身のためじゃ〕


 えっ、周りに人いるの!? そっか、それなら一人でブツブツしゃべってたらおかしいもんね。了解です……。


〔ところで、そなた、今どこにいるか分かっておるのか?〕


 分からないです。勿論、真っ暗闇だから何も見えない。試しに手を伸ばしてみる──と、何かにぶつかる。何だろ、さっきイーリス様が「人がいる」って言ってたから、人だろうか。そして、なんかゴトゴト音がするし、小刻みに揺れてる──なんかの車とかに乗っているのかな。ほら、よく農家の人とかが乗ってる軽トラみたいなやつ! もしや、あれの荷台的なところかな?


〔そなたのいた世界の車とやらはこの世界にはないのだが……近いの。これは馬車の中じゃ〕


 馬車ですか。だからこんなに揺れてるのか。なるほど。で、なんで私はこんなとこにいるんだろうか。


〔ふむ。そしてこれは恐らく、人身売買であろうな〕


 へー、そっか。なるほど人身売買ね~。なら暗いのも納得~。


 ──って

 じっ……!?

人身売買いいいいぃぃぃぃぃぃ!?


〔う、うるさいぞ耳に響くわ! 驚きすぎじゃ〕


 そりゃ驚きますっ! どうしてくれるんですか!? 人身売買だなんて、いつの時代の帝国ですか!


〔大丈夫じゃ、人身売買と言うてもちぃと働かされるだけじゃ。殺されることはあまりないのでな、心配するでない。

奴隷として売り飛ばされるだけじゃ〕


 そ、そんなサラッと物騒なこと言わないで下さいよ! しかも"奴隷"って。なんで転生した先で奴隷になんなきゃいけないんですか! ならおとなしく天に召されてあの世で過ごした方がましですっ!


〔まあまあそういうな、奴隷ライフもなかなか楽しいかもしれぬぞ?〕


 た、楽しい訳がなかろうがああぁぁぁぁぁぁぁっ!

 ダメだこの人──じゃなかった、この女神様は頭の中がお花畑のようだ。楽観的に物事を考えすぎですよ、転生ライフから一気に奴隷ライフってどういうこっちゃ、です! こんなんじゃ月とすっぽんもいいとこ、天から地にいきなり突き落とされてるようなもんだ。


〔しかしあそこにいても、のたれ死んでいたぞ? ちとみすぼらしくともこっちのほうが寝床は与えられるであろうし。これからこの世界は冬に入るみたいだから、雨風しのげられることは大切じゃぞ〕


 それはそうかもしれないですけどねっ! 奴隷だなんてこんな──


「おい!」


 ドガッと大きい音がして、明るい光が射し込んできた。め、目がチカチカする──何事……!?

 どうやら誰かがドアを開けたようで、四角い光の前に黒い影が見える。光が入ってきたことで、視界が開けた。やはりどうやら、馬車ではあるみたいだ。でも、荷台じゃなくて巨大な箱──コンテナみたいなのの中のようだ。それにイーリス様が言ってた通り、私のほかにも沢山の人間が乗っていた。いや……"乗っていた"って言うより、無理矢理詰め込まれたようでまるで満員電車のようだ。いる人も、老若男女さまざま。


「てめぇら早く外へ出ろ!」


 ゴンゴンッと大きな黒い影が、棒のようのものを振り回して音を出す。──よく見ると、大きな影はさっきいた大柄の男だった。あの人、人身売買してたのか。迂闊だった。


 しかし、私の周りの人達は男に怯えずに果敢に挑んで行く。


「ふっざけんな、家に帰せっ!」

「違法だぞ、引っ込めウスノロ!」

「うちにはまだ小さい子どもがいるのよ? 貴方たちこんなことしていいと思っているの!?」


 大柄の男に向けて誰もが殴りかかっていく。すでに大柄の男の姿は見えず、人でもみくちゃだ。

 それとは対照的に、私は床にお尻をぺたんとつけて動けない。 あんな恐ろしい人に向かって太刀打ち出来るわけがない。 怖くて腰が抜ける。なんで皆、そんなに勇気があるの?


「何やってんだよ嬢ちゃん! 嬢ちゃんも応戦しなっ!」


 そばにいた中年ぐらいのおじさんが、私の腕をつかんで引っ張る。ちょっ、嫌っ! 私、そんなことできない! 無理だって! そう叫びながら大柄の男を再び見た。──その時だった。

 沢山の人の体の隙間からわずかに見えた、大柄の男。──そいつの手には……変わった形の指環がはめられていた。

 何あれ? と思った瞬間、その指環は怪しい光を放ち始めた。


「ッ……!?」


 太陽の光のような、暖かい光ではない。暗い、淀んだ色。──でも何故か、直射日光のように眩しい。いや、直射日光、という表現では間違っているような……太陽の光のように、暖かさはなくて、どちらかというと寒い……。

 私は目を開けられなくなって、思わずかがんだ。


「嬢ちゃん何怖じ気づいてんだよ! 早くあいつらに参戦するぞ!」


 それでも尚、おじさんや皆は普通に立っている。なんで、こんな強い光を浴びてるのに立っていられるの? 私なんかクラクラして、座ってるだけでも辛いのに……! 吐き気がして、一歩も動けそうにない。


「ちっ、みっともねぇっ!」


 おじさんは私の腕を放すと、喧嘩の輪に加わっていった。

 それでも私の吐き気は止まる気配がない。なんで、なんで私だけこんなにフラフラなの?


〔菖蒲、菖蒲!? 大丈夫か!〕

「いー、りす、さま……?」


 頭にまた、イーリス様の声が響いた。


〔すまぬ、また力が切れての。ようやく声が出せるようになったのじゃ。

それよりも菖蒲、あの光を見てはならんぞ!〕


 な、なんで? それに、私以外にはあの光が見えてないみたいなんですがっ……。


〔あの指環は人を操る為に作られた"隷属呪具(れいぞくじゅぐ)"と言うものじゃ。この世には魔力をこめた"魔術具(まじゅつぐ)"と呼ばれるものがあるのだが、その中でも奴隷を拘束するための呪いをかけられる魔術具のことを隷属呪具と言うのじゃ〕


 奴隷にするための道具……なんて恐ろしい物なんだろう。ってことは、あの男が持ってるのは──隷属呪具?


〔そうじゃ。あの光は精神を壊し、操るために放たれているんじゃ。だから見てはならぬ。あの光は普通の人間には見えぬのだ。が、そなたは転生者じゃ。ちぃと他人とは違う特殊な存在だからの。光がそなたにしか見えぬのもおかしくはない〕

 

 特殊な存在か。確かに転生してきたからね、多少は他の人と違うのかもしれない。

 それはともかく、この吐き気をどうにかしたい。私にだけ光が見えるから、気持ち悪くなるのかな? 仕組みはイマイチよくわからないけど。


〔そなたは呪いに打ち勝とうとして光に対抗しておるようじゃからの、それゆえ吐き気がくるのであろうな。魔力を大量に使うからの。真っ裸で北極にいるようなもんじゃ。──楽にしたいのなら、我の能力を試してみい〕


 イーリス様の? さっきの、あれですか?


〔あの能力とは違う。あれは"絶対音感(アブソリュート)"ちゅう能力じゃ〕


 あ、アブソリュート? ──確か、音楽用語で絶対音感って意味だっけ。洒落た名前だなー、イーリス様意外に現代人っぽい。


〔意外とはなんじゃ。まあともかく新しい能力を使うがよい。これは呪文とかは考えなくとも大丈夫だぞ。能力名をそのまま言うだけで良いのだからな〕


 は、はい。了解です。で、その能力名と効果は何なんですか?


〔うむ、この能力はの、簡潔に述べるのであれば"結界能力"じゃ。我に続けて言うてみい。──"絶対領域(サンクチュアリ)"〕


「"絶対領域(サンクチュアリ)"!」


 私がそう呟いた瞬間、今度は辺りがパアッと明るく輝き、私の体は暖かい光に包まれた。──スッと吐き気がなくなっていくのわかる。


〔吐き気が止まったであろう? これは下等な魔法を弾き返すことが出来るのじゃ。隷属呪具など弾き返すにはたやすい。これからはこれで身を守るがよいぞ〕


 なんて便利な……ありがとうございます、イーリス様。


「ハハッ、もうしまいかてめぇら?」


 不意に大きい声がしたので、私はそっちを見た。

 ──そこには、さっきまで戦ってた人達がぐったりと倒れていて、中央にはあの男がふんぞり返って笑っていた。でも、ぐったりと倒れている人達は傷一つついてない。あの男が殴ったりとかしたんじゃないの?


〔あやつら、隷属呪具の餌食になったのだな。ああなると自我も薄れ、言うことをなんでも聞く"隷属奴隷"となるのじゃ〕


 そんな──ひどい……! 私になんとかすることは出来ないの?


〔無理じゃ。あの隷属呪具を壊さないことには出来ぬ。──菖蒲よ、隷属呪具が効いているふりをして生活せねばならんぞ。もしもそなただけ呪いにかかってないと知られればどうなるかわからぬ〕


 なんでですか? 効かないのなら大丈夫じゃ?


〔効かないからこそ、怪しい研究に使われたりするかもしれぬ。それに万が一転生者とバレてみい。それこそ奴隷よりも辛い目にあうかもしれぬ〕


 うっ、マジですか。……頑張ります。


〔すまない。我が年を間違えたばかりにこんな目にあわせて〕


 もうこうなちゃったのはしょうがないですし、大丈夫ですよ、……多分。イーリス様からの能力で身を守ることはできてるし。


「さぁ、てめぇらもこれで隷属奴隷だな! 立て、命令だ! ここから出るぞ!」


 男が声を張り上げた。瞬間、ザッと皆が立ち上がった。おっと、私も立たないと怪しまれちゃう。


「よーし、一人残らず呪いにかかったな。へへっ、やっぱこの呪具はサイコーだぜっ。

さあてめぇら、俺様についてきやがれ!」


 ガタガタガタッと皆が歩いていく。その姿はさながらゾンビのようだ。虚ろな瞳で男の後ろをついていってる。──あんなのにならなかっただけ、ましだと思わなきゃ。


──私の転生ライフ……もとい、奴隷ライフは前途多難のようです。




☆菖蒲能力一覧

絶対音感(アブソリュート)

翻訳(シャルフ)


絶対領域(サンクチュアリ)

→並大抵の魔法は弾き返す。結界能力。

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