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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
神代樹の泉
42/85

雨の中の対戦

 レネン視点。男の子の視点って難しい……。

「無理はすんなよ!」

「気をつけてね、お姉ちゃん!」


 光で包まれたアイリスを見て、思わず俺とリヒトが叫んだ。アイリスはこっちをチラッと見て、にっこりと微笑み、それからシュンっと消えた。

 ……無理はすんな、と言ったはいいものの……。


「あいつ本当に、何者なんだろうな」

「……さあな。でも、俺らとは別格ってことじゃねえのか」


 どう考えても、不可思議な点が多すぎる。異様な程強い光魔法。魔法だって、時々思い付きで考えたような行動がある。それに、この前の……例の、冷徹皇帝にも面識があるようだ。……いや、面識があるってレベルではないかもしれない。さっき一緒にいたあの執事も、皇帝の専属で有名な奴だろう。そんな奴と親しげに、さも当然のように一緒に行動している。


「アイリスの奴……なんか、面倒事に巻き込まれてんじゃねーだろうな?」

「……ありえるな」


 ちくしょう、俺があの時、もっと強ければ! 魔力封じをかけられたままじゃなければ……! 守ってやれたのかもしれないのに。俺の出身村の村長、ババアにかけられてた魔力封じだって、あの時アイリスが光を放った時以来、消え去っている。今の俺があるのも、あいつのお陰でもあるわけだ。

 どう考えても、厄介な役職かなんかになっているにちがいない。あんなに危なっかしい奴が……心配でしょうがない。どうにかして、助けてやる方法はないのか?


 アイリスが消えた方向をじっと見つめながら考えていると、急に後ろから声をかけられた。


「ああ! そこの人!」


 振り返ると、城の兵士がこっちに向かって走っていた。息苦しそうに膝をついて呼吸をしている。


「すみません、あなた方は冒険者ですよね?」

「そうだが……なんだ? 俺らは水属性は持っていないから消火できねーぞ?」

「違うんです! 実は、炎から魔物のような妙な化け物が大量発生しているんです……!」

「はあ!? なんだって!?」

「ですからここらの冒険者には手を貸してもらっているんです! すみませんが、ご協力お願いします!」


 わたわたと伝えて、兵士はまた炎のある方へと走っていった。

 炎から魔物? そんなこと聞いたこともないが、あの慌てっぷりはデマにも思えない。よし、ここはいっちょ一狩りいってくるか。


「シルト、行くぞ!」

「……ちょっと待った。お前、武器燃やされただろ? ……ほら、これ持っとけ」

「おっ、さんきゅ。チビッ子、キースさんと一緒に大人しくしとけよ! リヒト、お前は危ないしここにいろ。万が一の時も、俺らの代わりに皆を守ってやれ」

「分かった。気をつけてね、二人とも!」


 「行ってらっしゃい!」とチビ達の声を背中に受け、炎の方へと駆け出した。




 

「なんだこれ……!」


 俺らが見たものは、建物に燃え移った炎から、見たこともない蛇のような魔物が出てきて冒険者を襲っている所だった。


 試しに切ってみても、切った感触がない。一応蛇は真っ二つになったものの、逆にその二つに分かれた体がしばらくすると、再生した。炎がそのまま実体化したみたいだ。


「チッ、これじゃ、物理攻撃は無理か」

「……正直言って、こいつらには魔道士以外は戦力外だ。魔道士を援護する程度……」

「だな。俺に出来ることとしたら、周囲の風を操って炎の威力を弱めることぐらいか」

「……名案。じゃあ俺が援護する」


 了解、と返事して、俺は髪を一本抜いた。ふっと息を吹きかけると、それはふわりと浮いて宙に溶けていった。ババア直伝の、風魔法だ。


「ゲール・ヒューユリステ!」


 飛んでくる蛇はシルトに任せて、周りの風をごそっと、自分の元に集めるイメージする。それをとにかく、収めるように魔力をこめる。しばらくすると、風が弱まって、それに伴って炎の威力も次第に弱まっていった。

 このまま優勢に立っていれば、なんとか炎が鎮火するかもしれない。そう思ってホッと一安心した瞬間、真後ろで爆発が起こった。続けて、悲鳴が聞こえて熱気が伝わってきた。


「んなっ……!?」


 後ろを振り返ると、一際大きな蛇……いや、あれはドラゴンだろうか。それが、周りの魔道士や兵士をなぎ払っていき──広場の方へ向かっていく……! 条件反射で、ドラゴンを追いかけた。ちくしょうっ……間に合え!!


「……レネンっ!」

「ぐあッ……!」


 俺の存在に気づいたドラゴンが、火炎を飛ばしてきた。シルトが庇ってくれたお陰で、寸のところでかわし、致命傷は免れたものの……左足が燃えるように熱くて、動かない。焼けてただれている。シルトはというと、背中に被弾したらしい。背中全体を火傷で覆われていた。

 ドラゴンに気づいたリヒトが、一人で結界を張り始めた。しかし、あれは一人じゃ無理だ。ちくしょう、ちくしょうっ……!


「やめろ! やめてくれぇぇっ!」


 今にも広場を焼き尽くさんとする勢いのドラゴンを見て、思わず叫んだ。……また、何も守れないまま終わるのか。諦めかけた、その瞬間。




「グギャオアアアアアアアッ!」



 地面が割れるほどの奇声をあげて、ドラゴンが真っ二つに切れた。


「は……?」



 呆気にとられる俺の目の前に、そのドラゴンを切ったであろう影が着地した。


「チッ……暑苦しい。炎龍か、とっとと消えろ」


 その黒い影の正体は……黒い外套をはためかせ、大剣を振りかざす男──あの、冷徹皇帝の姿だった。

 

 冷徹皇帝は再生し始めたドラゴンを一睨みすると、再び地を蹴って飛び上がった。


 大剣の重さを微塵にも感じさせない剣さばき。軽い身のこなし。目で追えないほどの俊足。そして、なぜか冷気に満ちている。さっきまで暑かったのに、あいつがきてから急に気温が下がったように涼しい。あっという間にドラゴンは、スパンスパンと切られていき──粉々になったあと、黒く墨のようになって崩れ落ちた。


 そのとたん、広場からワッと歓声があがった。それを一瞥し、皇帝は再びこっちに戻ってきた。


「動ける者は俺についてこい! 何人かで一気に攻撃すれば炎龍は消える。それでも倒しきれない場合は俺が援護する。炎龍の元の炎はまだ消えてない、死ぬ気で闘え!」


 そこらでへばっていた兵士や魔道士たちも、その一声で一気に闘志が復活した。おおおおお! とかけ声をあげ、皇帝のあとに続いた。

 呆然としていると、広場の方から人が走ってくるのが見えた。


「レネン! シルト!」

「リヒト!? お前、危ねぇだろが……!」

「こんな怪我して……出てくんなって方が無理だってば! セラピア!」


 リヒトが治癒魔法を唱えた。すると、さっきまで動かなかった左足の痛みが消えた。


「僕には完治させることは無理だから、気休め程度だけど。とりあえずこれで我慢して」

「おう、さんきゅ」

「じゃあ僕は、負傷者の手当てに行ってくるから! 二人とも、本当に気を付けてね!」


 リヒトは近くにいた、倒れている負傷者に近づいていった。


「あの皇帝、噂でしか聞いてなかったが──すっげぇ強いんだな」

「……そうだな。俺らも行こう」


 皇帝が炎龍と呼んでいた化け物が、無数に湧いていた。無心で切っては避け、切っては避け……の繰り返し。また傷が痛んできた。  どれくらい龍を倒した頃だろうか。再びバカでかい炎龍が姿を現した。さっきよりももっと巨大だ。


「ま、まだいんのかよ……!」

「もう、無理だぁ!」


 そう兵士たちが声をあげ始めた、その時。


 ──透き通った歌声が、響き渡った。


 誰もが、一瞬動きを止めて耳を傾けてしまう。それほど、美しく澄んだ声。

 歌詞は聞き取れないが、物悲しくも優しい旋律……どこかで、聴いたことがあるような……。

 ……そうか、アイリスだ! あの時とまったく同じ歌声だ。思わず歌声の聴こえる方を見ると──


 ぽつっ、と頬に、滴が落ちてきた。


「雨だ……!」

「まさかこの歌声、噂の旋律の巫女か……!?」


 旋律の巫女? まさか、アイリスが……!?


雨は次第に強さを増していく。しかし、それでもどこか暖かみのある、不思議な雨だ。滴の一つ一つが輝いている。すうっと痛みがひいていくような……なんとなしに左足を見ると、傷が完全に塞がっていた。


「怪我が、治ってる!」

「火傷が消えたぞ!」


 どうやらそれはほかの奴らも同じようで、あちこちで歓喜の声があがった。城の方を見たまま黙り混んでいた皇帝が、急に声をあげる。


「今が好機だ。炎龍は雨が弱点。今のうちに切り刻め! 魔道士は雨を使って上級水魔法をお見舞いしてやれ!」

「「おおお!」」


 

 ──大雨の中、戦闘は続いた。





 そして、最後まで残った大型の炎龍に皇帝が止めをさし、この事件はとうとう幕を閉じた。




 明後日から部活の四日間ほど合宿に行って参ります!その間、スマホをさわれないので更新がかなり遅れます……気長に待っていただけると幸いです(๑´ `๑)

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