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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
神代樹の泉
39/85

奴隷歌姫、しごかれる。

 この世界での夏──つまり、フィノプルの期間は、日本の夏とは違ってジメジメした感じはない。カラッとした気候だ。ジメジメして暑い夏は、暑がりの私にとっては最大の敵。高温多湿じゃないだけでも、十分に助かるのは分かってる。うん、でもね……。


「119、120……あと80!」

「ひ、ふぅ、へ……あ、あとはちじゅ……!? ぶへ」

「つべこべ言うな、口を動かすな腕を動かせ」

「お、鬼!」


 なんで炎天下の中、私は腕立て伏せをやってるんでしょうか。


 ……それは、大福が気に入っただろうとサーシャ様に言われたので、後日、皇帝に(イヤイヤ)持っていった時に遡る。









「どうぞ。この前、気に入られたようでしたので」


 そろそろ甘いものを出さなきゃなって時に、あのイチゴ大福を出した。ちなみに、ヨモギみたいなハーブはちょっと色があれだったから、今回はそのまんまの真っ白にしました。……さて、どうだろう? どんな反応するのかな。


 相変わらず無言のまま、皇帝は大福に手を伸ばし……頬張った。黙々と食べ続ける姿に安堵し、3つ平らげるのを待った。


「おい。聞いたか」


 大福を食べながら、急に話しかけられた。うん、甘いものをあげると口を開く、というオズの裏技は本当だった……とはいえ、別に話したい訳じゃないんですけどね。言っておくけど、ツンデレではないですから! ……ほんとだよ。


「戦慄の巫女の話ですか?」

「そうだ。……で、どう返事したんだ」

「サーシャ様から聞いてないんですか?」

「直接聞いた方がいいだろう」


 ということは、サーシャ様は独断で私にあの話をしたのか。てっきり、皇帝に話せって言われたのかと思ってた。


「引き受けましたよ。断る理由はないですし」

「あっさり引き受けたんだな、想定外だった。もっと嫌がるだろうと思っていたが」

「すぐ引き受けた方がいいでしょうに」

「いや、抵抗するのを無理矢理屈服させる方が面白いに決まってるだろ」


 ……抵抗しなくてよかった、うん。皇帝に屈服させられるとか、何されるか分かんないもん。拷問とかかな。


「……で、受けたからにはそれなりの戦闘能力も持ってもらわないと困る」

「はあ……それで?」

「そこでお前の強さを見せてもらおうと思ってな」


 なるほど。道理で、いつもよりも嫌がらせが多かったのか。実はさっきから、何発もの炎が飛んできていて、全部水魔法で防いでたのだ。避けてもいいんだけど、そんなに瞬発力もいいわけではないし、なによりその流れ弾が壁を焦がすのが嫌だったから、全部カットしていた。


「これぐらいの魔法ならさすがに余裕か」

「当たり前です! 毎日、私の仕事の邪魔してくるんですから」

「だよな」


 ボワッ! とさっきまでの炎が二倍以上に膨れ上がった。ちょ、天井焦げますから! 咄嗟に水魔法を部屋全体に(ついでに、そこらに散らばってた書類も)かけて、距離をとった。次の瞬間、その大きく膨れ上がった炎が分裂して……四方八方に散らばった。


「"ゲリーゼル"」


 とりあえず、水魔法を唱えて、炎を受け止める──が、勢いが強すぎて止まらない。あっちぃ!


「"グラッセ・フォルテッシモ"」


 部屋がムシムシと暑くなるのに耐えきれず、水魔法からの強化版氷魔法を唱えた。その呪文の通り、"冷たい"空気が頬を掠め、炎が消えた。


「水魔法との合わせ技か」

「暑すぎです! 蒸し焼きにする気ですか」

「蒸し焼きでは生ぬるい。焦がしてやろうか?」

「お断りです!」


 ボンッ! と目の前で小さな爆発が起こった。書類とか、燃えやすいものは私が結界を張っておいたからいいものの、屋内で爆発とかアホかァ!

 目の前に迫る爆風を、水魔法でカット。すると、水蒸気がこもってしまった。辺りが見えない。


「"テンペスト"」


 水蒸気を風魔法で払った。視界が開けると……そこにいたはずの皇帝の姿はどこにも見当たらない。微かに私の周りの絶対音感(アブソリュート)が揺らいだ──後ろだ!


「"ブリリアント・イナクティーレ"!」


 イナクティーレ……"鋭く"と唱え、光魔法を刃のようにして後方に飛ばす。爆発からここまでの時間、僅か数秒間。


 私の攻撃をものともせず避けた皇帝が、炎魔法を飛ばしてくる。水魔法でカット。


「ちょっ……もう、きりないからやめましょうって!」


 私がやめようと問いかけても(ただ単純に怖いっていうのもあるけど、何より部屋がぐちゃぐちゃになるのが嫌だった)、お構いなしに魔法を繰り出してくる。……こうなったら、一気にケリをつけるしか……!


「"ヴィヴァーチェ"」


 この前脱走しようとしたときに使った、加速魔法をかける。ふわっと体が浮く感覚のあと、すぐに飛び上がって距離をとった。


「"ブリリアント"!」


 目眩ましに光魔法をうって、それから素早く皇帝の元へ距離を縮めた。……よし、この至近距離ならさっきの光魔法も確実に確実に当たるはず!

 私はしてやったり、と微笑んで、呪文を唱えた──が。


「ブリリアント・イナク……うわっ!」

「甘い」


 まさに手から光る刃を出して、振りかざそうとしたその瞬間。振り上げた私の腕をいとも簡単に掴んだ皇帝は、そのまま背負い投げのように引っ張り、床に打ち付けた。


「おぅえ! ふ、"フロ"ッ!」


 攻撃するのも忘れて、打ち付けられる前に水魔法でクッションを作り出した。ぽよよん、とした感触がして、思わず閉じていた目を開くと──首筋に鈍く光る剣先が当てられていた。


「……皇帝強すぎです、手加減してくださいよ」

「十分している」


 私の首筋に当てていた剣を腰に納め、イスに深々と座った。


「とまあ、魔法の腕はなかなかのようだが、身体能力が低い。……ということでだ」


 頬杖をつきながら、口の端をにやりと上げた。……な、なんか嫌な予感……。


「──特訓だ。俺が直々に見てやる」







 ということで今に至る。


 騎士団の訓練所の場所を借りて、私と皇帝の貸し切り状態である。少し離れたところから、騎士団員の威勢のいい声が聞こえてくる。……それとは反対に、私は筋トレのノルマを終えた瞬間に、地面に突っ伏した。


 どこの体育会系の部活だよ……と突っ込みたくなるほど、筋トレやら走り込みやら徹底的に叩き込まれた。死ぬ……まじで、死んじゃいますって……。


「こんなこと……ハァ、やる必要っ、ある、んですか」

「当たり前だ。自分の身ぐらい自分で守れ。戦場でそれぐらいできなくてどうする」


 ぐっ、それはそうかもしれないけど……。


「せめて屋内でやるとかないんですか……昨日と今日のやる場所、逆の方が」

「うるさい」


 また炎魔法が飛んでくる。もうカットする気力も残ってないので、もともと張ってあった絶対領域(サンクチュアリ)に任せて水魔法で水分補給した。


「その妙な結界はなんだ。昨日も見えないように攻撃していたにも関わらず、ノーダメージだから苦労した」

「え、炎魔法以外にも攻撃してたんですか」

「あんな魔法だけでは生ぬるい。俺はもともと剣術に秀でているからな」


 ま、マジですか……炎魔法だけでもかなりすごかったのに。

 流れに身を任せて、この機会に倒しちゃえ! とか考えてた私がアホだった。こんな強い人、倒せるわけないもん。そりゃそうよね、将軍だもの。


「おや、アイリスじゃないか」


 練習着に身を包んだサーシャ様が、剣を片手に現れた。さっきまで鍛練をしていたのか、首筋に汗が流れている。


「サーシャ様……!」

「ははは……満身創痍、といった具合だな」

「笑い事じゃないですよう!」


 地面で潰れていた私に、さっと手を差しのべてくれた。手が土で汚れているから、少し戸惑っていると、「ああ、そんなのは気にならないから、ほら」と手をつかんで引っ張られた。うう、優しいよ~。どっかの誰かとは大違い。


「いででだだだだぁ! ……だから、"隷属の契り"乱用するのやめてくださいよ!」

「そのための契りだ」

「鬼!」


 そんな私たちの様子をニコニコと見ていたサーシャ様が、「あ」と声を上げた。


「そうだ、アイリス。この前のダイフクなんだが。騎士団員達に話したらな、是非食べてみたいと駄々をこねはじめてな」

「だ、駄々……そ、それで?」

「料理長に作ってもらおうとしたんだが、ここにはそんな材料はないらしい。そこでだ」


 一拍おいて、サーシャ様はチラリと皇帝を見つつ、言った。


「うちの料理長が、材料を買いにいくのに付き合ってほしいと」

「……え」


 ということは、また町に行っていいってこと……?


「いいんですか? 私で」

「そりゃ、開発者が直接教えた方がよかろう」

「そ、そうかもしれませんが……」


 これ、皇帝が許してくれるかどうか……だよね。絶対、無理だと思うんだけど。そろりと皇帝の方を向くと、腕組みをしたまま黙っている。


「……あのう、皇帝……」

「まあいいだろう。外出を許可する」

「えっ」


 えええええ! そんなあっさり認めるの!? 嘘ぉ!


「……どこか頭打ちましたか」

「いたって正常だ」

「じゃあなんで」

「決まってる、料理長のレパートリーを増やすためだ」


 で、デスヨネー。そうだろうと思いました。

 なんか、微笑ましそうにサーシャ様がこちらを見てるんだけど、気のせい? うん、気のせいだね。





戦闘シーン(?)ってめっちゃ書きにくい。難しいですね……。

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