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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
神代樹の泉
37/85

奴隷歌姫、再会する。

 路地裏に声が響き、肩をつかまれた。……え、え? 何!?


「アイリス!」


 唐突に名前を呼ばれて、目を見開く。なんで、私の名前知ってるの?


「……アイリス?」

「あれ……シルト!?」


 角からヌッと現れた大男は、最初逆光だから分からなかったけど、シルトだった。前よりも少しベージュの髪が伸びただけで、ほかは何も変わってなかった。


「シルトがなんでこんなとこに?」

「……お前も、なんでこんなところに」


 服装も、奴隷服と うってかわってきちんとした格好……だけど、随分大きな斧を持っている。冒険者でもやっているのかな?

 ていうか、この人がシルトだとしたら、私の肩をつかんでいる人は……。


「……レネン?」


 だと、思う。……いや、燃えるように真っ赤な髪とか、超そっくりなんだけどね──この人はどっからどう見ても、男の人、なんだけど。


「おう」

「え?」

「レネンだ」

「レネン、男の子だったの……?」

「はァ!?」

「ぶはッ!」


 え、ええええええ!? マジで!? 女の子かと思ってたっ……!


「え、なんで……女の子じゃ」

「俺は男だっての!」

「そ、そうなの!?」


 シルトが吹き出して、下を向いてプルプルと震えている隣で、レネンもまたワナワナと震えて口を半開きにしている。……だ、だって、髪長かったしかわいい顔立ちしてたんだもん。間違えちゃうよ!


「はぁ……髪が長かったのは、村長の証だ~とか言われて伸ばされてたんだよ! もうめんどくさくなって切ったけど」

「そ、そうだったの」


 まあでも、さすがにこの姿を見せられちゃ女だとは思いがたい。私より小さかったのに、少し一緒にいなかっただけで追い抜かれてるし。細かった体も、細くはあるもののガッシリとした筋肉がついている。くりっとして大きかった瞳も、今は少し男らしく、キリッとしていた。


「はぁ……ま、まあとにかく。会えてよかった」

「そうだね。二人とも、元気だった? 心配してたんだよ」

「それはこっちのセリフだっての!」


 いつか、また会いたいとは思っていたけど、まさかこんなに早く再会できるとは思ってなかった。ほっと胸を撫で下ろすと、レネンの後ろに隠れていたさっきの男の子が顔を出した。


「なぁ、レネンが探してた大切な人って、やっぱりこいつ?」

「ばっ……べ、別に後味悪かったから探してただけだっての! ってか、やっぱりってどういうことだよ」

「だって、こいつの髪が一瞬、黒く見えたからそうかなって思って連れてきた」


 え、そうなの? じゃあ、さっきのは……


「ったく、最悪だよ、こいつ途中で加速しやがるし、レネンには殴られるし」

「な、なんかごめんね……」


 すっごい申し訳ないことしちゃったな。……まあ、スリ以外で何とかして伝えてくれる方がよかったけども。

 

「コリン……だっけ。黒く見えたって、ほんと?」

「まあな」

「そうなの? 変化魔法、解けちゃったのかな……」


 だとしたら、それってまずい気が……。だって、町歩いてたときもそうだったんでしょ?

 

「……ああ、そういうことか」


 なるほど、とシルトが呟いた。え、なに? 何か理由があるの?


「とりあえず、ここで立ち話はあれだし……帰ろうぜ。ゆっくり話そう」

「家あるの?」

「まあな。行くぞ」


 手を引かれたので、そのまま引かれるままについていった。数分後、廃れた路地裏にひっそりと建っている、教会のような建物の前でレネンが止まった。


「ここ?」

「ああ」



 レネンが教会らしき建物の扉を開けた。すると、だだだだっと何かが雪崩れ込んできた。うわわ、なに!?


「レネンー、シルトー、おかえりぃ!」


 10人近くの子どもだった。まだ4、5歳ぐらいだろうか。わらわらと二人の周りを取り囲んだ。


「ねぇねぇ、きょうはどんなヤツたおしてきたの?」

「あー、話はあとでな。今、忙しいんだ」

「えー! いまがいいー!」


 ぐずり始めた男の子を、レネンはひょいっと持ち上げると「ごめんな、あとでちゃんと話すから」となだめた。その様子をぼーっと眺めていると、シルトの腕をつかんでいる女の子が、私を指差した。


「……あれ? このひとだれ?」


 その女の子の言葉を聞くなり、一斉に私に目線が集中した。


「あたらしいひと?」

「ちがうでしょ、レネンかシルトのアイジンだよ、アイジン」

「ち、ちげーって……はぁ、俺ら大切な話があるから、ちょっとどいてな」

「「「はーい」」」


 レネンの一言で、皆は家の中に入っていった。


「ごめん。驚いた?」

「あの子達は? 隠し子……」

「なわけねぇだろ。ほら、入れ」


 扉をくぐると、妙に開けた空間が広がっていた。やけに天井が高くて、窓には所々欠けてはいるものの、ステンドグラスがある。……どこかで見たことがあるような、人物が描かれている。そして、長椅子と長机がずらりと並んでいる。やっぱり、教会なのかな?

 真ん中にある通路の先に、教卓のような重々しい机が置いてあった。そこの前に、誰かが立っている。待ってましたかとばかりに、こちらに近づいてきた。


「よ、キースさん」

「……ただいま戻りました」

「お帰りレネン、シルト。おや、そちらの方は?」

「ほら、前言ったろ? 奴隷の時の」

「なるほど……初めまして。キースと申します」

「アイリスです。すみません、急にお邪魔して」

「いえいえ。無事再会できてよかったですね。何もないところですし、いつでも来てください」


 人の良さそうな笑顔を浮かべて、「仕事に戻ります」と言うと、キースさんはまた机について何かを書き始めた。……厳しそうな表情。そのキースさんを見つめるレネンとシルトも、暗く沈んだように見えた。


「……場所を移して、そこで話さないか?」


 私の視線に気づいたレネンが、淡々と言った。


「リヒトにも会いたいだろ。行くぞ」

「リヒト! ここにいるの?」

「おう。……ほら、こっち。コリン、お前も来な」

「……やだよ、めんどくせぇ」


 さっとその場を離れたコリンを見て、レネンはため息をつく。シルトも呆れた表情をしている。

 大広間の左側にある廊下を進み、突き当たりにあった部屋に案内された。


「あ、お帰り、二人とも」

「……リヒト!」


 部屋の奥にあるキッチンに、見覚えのある人影が見えた。茶髪に、大きな水色の瞳。間違いない、リヒトだった。


「え……アイリスお姉ちゃん?」

「うん! よかった、元気で……!」


 とことこと近づいてきたリヒトを、力強く抱き締めた。苦しいよ、と言われても構わずに、ぎゅうぎゅうと締め付ける。


「身長、伸びたね」

「うん! レネンとシルト、キースさんのお陰だよ」


 この前までお腹らへんだったのに、今では私の胸らへんまで伸びている。成長期かな? しかも、甘えたようなしゃべり方から一転して、急に大人びた話し方になっている。レネンとシルトのことも、呼び捨てじゃなかったよね? ……と、色々と変わったところはあるものの、前とは変わらずのかわいらしさは残っていた。かわいすぎる、リヒトをじっくりと見つめる私に首を傾げる仕草とか、ほんとにかわいすぎる。なにこれあざとい。


「お姉ちゃん、レネンとシルトが呆れてるよ。話があるんでしょ? 僕はお茶淹れてくるから、ね?」


 呆けている私に優しく声をかけ、リヒトは再びキッチンへと戻った。残った二人と椅子に座り、まずはお互いの近況報告をすることになった。


「俺達はあの後、城の施設に1週間ぐらい留められて、それから冒険者ギルドで生計をたてることになったんだ」


 冒険者ギルド。そういえば、前にイーリス様に聞いたっけ。


「でも、慣れない城下町だったし、右も左も分からない状態でさ。たまたま、ここの孤児院の院長のキースさんと知り合ったんだ」


 孤児院……そうか、ここって孤児院だったのね。だから、あんなにいっぱい子どもがいたのか。


「最初は少し手伝いをする程度だった。だが、ある日この孤児院で"あいつら"を見つけて……」

「あいつらって?」

「……レネン、今はそれはいいだろ」

「そ、そうだな。……とにかく、俺らはこの孤児院で厄介になる代わりに、冒険者ギルドで稼いだお金を寄付してたってわけだ。ここは、城からの寄付金をもらってねぇらしいから……」


 なるほど。住まいを提供してもらう代わりに、か。

 っていうか、かるーくスルーされたんですけど……。あいつらって、なんだろ。


「……で、アイリス。お前は?」

「あ、ええと……」


 い、言いにくい。「助けてくれたのは実は皇帝で、旋律の巫女になって皇帝の専属奴隷(メイド)してるんだ☆」なんて言えないんですけど……。


「わ、私は……」

「……別に遠慮しなくていい。お前を連れ去ったあいつら……皇帝だったんだろ?」


 シルトがぼそりと呟いた。ば、ばれてるー! 知ってたの? ……そうか、あのときあそこにいた周りの人とかも見てたんだし、しかも一時城で保護されてたんだもんね。当たり前か。


「うん、そうだけど」

「じゃあ城で働いてんの?」

「そ、そんな感じ」


 ほんとかよ、と疑いの目を向けられる。で、ですよねー。皇帝に、わざわざ連れ去られて普通使用人だよなんておかしいもんねー。


「……ま、そのことに関してはまた今度言及するとして」


 ここからが本題、とレネンが足を組んだ。


「アイリス、お前さ……闇の神子、ではないよな?」


 少し戸惑いながら、そう尋ねられた。ああ、やっぱりそのことについてか。そりゃ、そう思うよね。逆に、なんで奴隷生活中に聞かなかったんだろう? 


「うーん……多分、違うと思うんだけど」

「多分ってなんだよ」

「実は、つい最近まで知らなかったの。闇の神子のこと」

「そういえば山育ちなんだっけか。どんな辺境の地で住んでたんだよ……じゃあ、黒の申し子ってことか」


 黒の申し子。たしか、闇の神子の容姿と同じ感じの人のことだよね。


「じゃあその髪と瞳の色は魔法か?」

「うん。街に出るのに、このままだと色々と面倒だしね」


 もう一度呪文を唱えて、魔法を解除した。パチン、と音がすると、髪色が真っ黒に戻る。多分、瞳も黒に戻っているはずだ。


「へぇ……大したもんだな」

「ふふ。あの一件から、魔法の練習してるの」


 もう一度変化魔法をかけて、二人に微笑むと、ちょうどリヒトが運んできてくれたお茶を一口すすった。


「あのさ、お前あのとき、光魔法、使ってたよな? なんで光属性持ちだって教えてくれなかったんだよ」


 あのときって、助けられた日のことだよね。


「……実は、あのときのこと、あんまり覚えてないの」


 これは本当。私は歌を口ずさんでいただけで、魔法を発動しようなんて思ってもなかった。気づいたら三人の怪我が治ってて、みんなの隷属魔法が解けて……。


「そうなのか?」

「うん。魔法を使った覚えはないの」

「へぇ……不思議なもんだな。でも、本当に無事でよかった」

「……アイリスを一番心配してたのは、レネンだもんな。毎日探しにいってたし」

「ばっ……バカやろ! んなことねぇよ!」


 そうなの? とリヒトに聞くと、うん、と頷いた。聞くところによると、ギルドのクエストが終わってから、ずっと探し回ってくれていたらしい。


「そうなんだ。ありがとう、レネン」

「……別に。あのまま放っておいても、後味悪いしさ」

「意地っ張りなのは変わらないね」

「うっせ!」


 それから暫く談笑して、ふと窓の外を見ると、そろそろ夕方になりそうだった。


「そろそろ帰らなきゃ」

「お、もう帰るのか?」

「明日から、仕事あるしね」


 皇帝が帰ってくるし、早く帰らなきゃ。


「……なら、レネン。送ってってやれ」

「はぁ!?」

「え! 僕もい……もがぁ」


 シルトがリヒトの口をふさいで、言葉が遮られた。何言おうとしたんだろ。


「悪いよ、近いし大丈夫」

「……ちょうどギルドにも用事あるだろ?」

「そ、そんなバカ言うなよ!」


 はぁ、とシルトがため息をつくと、レネンの耳元に口を寄せた。何かひそひそ呟いてる。その瞬間、ぼわっと火がふいたようにレネンの顔が赤くなった。

 ……そういえば、今思い出したんだけど、奴隷生活中にこの二人は恋愛フラグ立ってるんじゃね? とか思ってたなぁ。レネン男の子だからそれはないだろうけど。……ない、よね!


「……わかった。行くぞ、アイリス」

「え、いいのに」

「いいから。行くぞ」

「うわっ! じゃ、じゃあね! 二人とも!」


 ずるずると引きずられ、半ば無理矢理部屋の外に連れていかれた。いつの間に持ったのか、レネンが荷物を持ってくれている。


「ごめん、重いでしょ? 私が持つよ」

「別に重くない。俺は男なんだし、持たせとけ」

「……じゃあ、お言葉に甘えて!」


 肩を並べて、大通りを歩いていく。時折お店を覗いたり、小腹が空いたから少し甘いものを食べたり。ウィンドウショッピングも誰かと一緒だと、急に楽しくなるもんだね。


「おい、お前食べすぎじゃないか?」

「いいのいいの。なかなかこれないし、今食べとかないと損でしょ。ほら、レネンも食べる?」

「いっ……いらねーよ」

「じゃあそっちの食べてるの、一口だけちょうだい」

「えっ、ば……ばか! おまっ……!」


 レネンが持っていた、アイスのような冷たいお菓子を一口食べようとした、その時。


「おい」

「もがっ」


 後ろから、誰かが私の口を押さえた。続けて、ぐっと引き寄せられたので、そのまま後ろの人に身を寄せることになってしまった。──私の顔の横に覗く銀髪。……もしや。


「こ、皇帝……!?」


 間違いなく、皇帝だった。なんで皇帝がこんなとこに!


「おい、てめぇ誰だ」

「それはこっちの台詞だ、この愚民が」


 レネンがものすごい形相で睨んでいる。それに負けず劣らず、同じくらいものすごい形相で皇帝も睨み返していた。


「俺は自分の奴隷を引き取りにきただけだが?」

「は? 何言ってんだ」


 今にも武器を取り出して戦いそうな覇気に、思わず皇帝の手を振り払って間に入った。


「ご、ごめんレネン。実は私、メイドさんじゃなくて……何て言うか」

「早く帰るぞ」

「おげっ」


 首が何かに強い力で引っ張られた。皇帝は私の首をつかんでない、間接的に引っ張られている。……皇帝の手を見ると、ツタのようなものを手に絡ませていた。で、そのツタは私の首に伸びている……これ、隷属の契り? こんな風に扱うこともできるのか、って痛い! 


「ちょ! 皇帝!」

「チッ……!"ゲール・メタリオス・トルネード"!」


 びゅおおおっと突風が吹いた。周りの人から、悲鳴があがるなか、皇帝はびくともしていない。それどころか、"フローガ"と呟やいて、レネンに向かって炎の柱が向かわせた。咄嗟に絶対領域(サンクチュアリ)を周りに発動させて、打ち消す。


「な……」


 呆気にとられているレネンを放って、皇帝はぐいぐいと私を引っ張っていった。どこからそんな力が湧いてくるのか、結構なスピードで最早私の体は中に浮いている。


「ごめん、レネン! こ、今度詳しく説明するから!」


 必死に叫んだけど、周りの騒ぎで聞こえているかは分からない。


 私はただ、何も言わずに引っ張っていく皇帝に苛立ちを感じながら、背中を見つめていた。


恋愛パートらしきものがようやく書けて楽しかったです。実は、この再会の部分は前から考えていて、当初の予定ではもう少し後にしようとしたのですが、早めに書いちゃいました。……それまでのネタが思い付かなかっただけですけどね!( ^ω^ )

ブクマ80突破しました。いつもありがとうございます!

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