奴隷歌姫、遭遇する。
すみません。1回目の投稿でコピーミスしてました(((・・;)
「おい」
パーティーも無事終わり、平穏な日々に戻ったある日のこと。いつも通り皇帝の部屋の掃除をしていたら、唐突に話しかけられた。思わず動きを止めると、すかさず壁に黒焦げができてしまった。
「なんですか?」
若干イライラしつつ返事をした。皇帝は書類に目を通したまま、呟いた。
「最近呼び出しに来るのが遅すぎる。何をしてるんだ」
「は?」
来るのが遅いって……そんな、今までよりは確かに遅いかもしれないけどさ! 呼び出し何回もするのが悪いだろうが!
「皇帝は何回も呼びすぎです。もう少し控えてください」
私がそう言い放つと、皇帝は私を一瞥すると、立ち上がって私に近づいた。
「……答えになってない。本当にこの城で仕事をしているのか?」
「してますってば……。もう、終わりましたから失礼します」
掃除を一気に魔法でカタをつけて、廊下に出た。しばらく歩いて角を曲がってから、膝に手をついて脱力した。
「あっ、ぶなかった……!」
ええ、もちろん最近はここらでお仕事はしてません。というのは……。
「脱走!?」
「ちょっ……メアリーったら、声おっきいっ」
お部屋の掃除をしているとき、ジェーンとメアリーにそう切り出した。
──そう、実は、脱走計画をたてている最中なのです。
「あんた、本気? やめたほうがいいんじゃないの?」
「そんな! アイリスさん、お城からいなくなっちゃうんですか!?」
「あ、いや……脱走って言っても、街を探索するだけだよ?」
そう、私はお城から逃げようとは思ってない。なんだかんだ、住居と食事を与えてもらってるし、生活は気に入っているし……皇帝は嫌いですけど。でも、もうそろそろ街探索ぐらい行ってみたい。外出禁止って命令だけど、庶民の暮らしを見てきたいからね。ここだと貴族の生活ばっかり見てて、疲れますから。
「な、なんだ。街ね。そりゃあ行きたいわよねぇ」
「何をしにいきたいんですか?」
「お買い物。市場に行きたいの!」
実は、今度サーシャ様とお茶をするときに、お手製のお菓子を用意したいんだよね。洋菓子もいいけど、たまには和菓子も食べたくて……でも、さすがに和菓子は作ってもらえないだろうし。これは、自分で作るっきゃないってことで。
「へぇ。服は見ないの?」
「うーん、服は沢山もらっちゃってるし、それにそんなに長い時間脱走できるとも限らないし……今回は諦めよっかなって」
「お金はあるんですか?」
「うん、一応、お給料としていただいてるよ。……使ってないけど」
ということで、最近はお仕事の合間に、城壁周辺を調査している。さすがに屋内と屋外の距離の差だと、皇帝にも勘づかれたか……。一応、風魔法で駿足にしてるんだけど。
「脱走できそうなんですか?」
「それがちょっと手厳しいんだよね……結界が分厚くて」
「そりゃそーよね。王宮だもの」
試しに攻撃してみたんだけど、びくともしなかった。あんまり攻撃しすぎると、警備兵にばれちゃいそうだったからやらなかったけど、なかなか壊れそうにないと思う。
「まあ、なんとか方法を考えてみる」
「そうですか……」
「お土産あげるね」
「え、いいの? やーりぃっ」
──とは言ったものの……どうするべきか。
第一関門は、結界をどうにか切り抜けることなんだけど、これがまた難しそうだ。壊すまではいかなくても、するっと抜けられたりとか……は、無理だよね。はい。
一応大図書館で結界破りの魔法を調べてみたけど、大体は破るとすぐに、術者に気づかれちゃうみたい。術者が誰かは知らないけど、間違いなく皇帝に伝えられて確保、の道を辿るだろう。
ということで、今日も仕事の合間に、城壁を探索。城壁と言っても、木が繁っているので、木漏れ日が差し込んでいる小道を歩くのはちょっとしたお散歩気分です。……っていうか、もうこれ本格的な森じゃない? 王宮だと森があるのが当たり前なのかな。
「……あれ?」
急に、開けた所に出た。それまで木で生い茂っていたのに、そこだけぽっかりと木がなくなっている。小さな泉があって、その隣には……なんていうか、ガーデニングとかであるような、ドーム型の休憩場所みたいな建物がある。少し寂れていて、蔦が絡まっていた。ここだけ時間が止まってしまったかのように、周りとは完全に醸し出している空気が違っている。
「ふう、涼し……あ!?」
ドームの休憩所の腰掛けに座って、一息つこうとすると……影になって見えなかったけど、人が横になっていた。見覚えのある銀髪。反対方向を向いているから、顔が見えないけど、こんなに綺麗な銀髪は城の中で一人しかいない。──皇帝だ。
「時々姿が見えないと思ったら……こんなとこにいたんだ」
確かにここなら、滅多なことがない限り見つからないだろう。静かだし、風が心地よいし、仕事をサボって昼寝をするにはもってこいだ。──すやすやと眠る皇帝の顔は、普段不機嫌そうに顔をしかめているのからは想像もできないくらい安らかだった。
「寝てれば、可愛いげあるなぁ」
思わず、きらきらと輝く銀髪に手を伸ばし、さわってみる。意外に柔らかくて、さわり心地がよかった。
「まつげ長っ……肌もなんでこんなにスベスベなんだろ」
何もケアしてないだろうに、羨ましい限りだ。……って、何してんだろう、私。なぜか皇帝の頭を撫でている状況に、今さら恥ずかしさが込み上げてきた。
「はやく、探索しなくちゃ……」
頭から手を離そうとした、その時──パシッと腕を掴まれた。そして、皇帝の目が開いた。
「おい、何してる」
「こここここ皇帝!?」
びっくりして後ずさりしようとしたが、ガッチリと腕をホールドされているので動けない。振りほどこうとしても、無駄に馬鹿力なためほどけなかった。
「お、起きてたんですか!?」
「途中で起きた」
「い、いつ起きたんですか……」
「お前がここに腰かけた時」
「……つまり、最初からですね」
う、うわあああああ! 頭撫でてたのバレてんじゃん! 狸寝入りなんて卑怯だ!
「質問に答えろ、ここで何をしているんだ」
「こ、皇帝こそ何してるんですかっ。こんな森の奥で」
「ここは俺の昼寝場所だ。お前こそなぜここにいる?」
「わ、私は……ただの散歩です」
「嘘つけ」
皇帝の銀色の瞳が、私をじろりと見つめた。……皇帝とはいえ、腐ってもイケメン。さすがにその目線に耐えられなくて、目を反らした。
「……まさかお前、脱走しようなんて考えていないよな?」
ギクッ。ば、バレてるー!
さっき、「探索しなくちゃ」とか言ってたせいだよね。や、やばい。どうにか言ってごまかさなきゃ……。
「そんなこと思ってないですってて、ただ、珍しい鳥がいると聞いたので……」
「嘘つけ」
「本当です!」
実は、これは本当ではあった。ジェーンから、ここらでは珍しい鳥が森にいると聞いたから、ひっそり探索がてら探していたのだ。
「ほう……それならいいが、くれぐれも脱走なんてしてくれるんじゃねぇぞ」
「わかってますって」
私の言葉を聞くと、はぁ、とため息をついて起き上がった。ようやく腕を離してくれて、両手が自由になった。
「……ああ、そういえばいい忘れていたが、明日は俺はいないからな」
「えっ……どこかへお出掛けですか?」
「まあな。お前は専属メイドだが、邪魔だから城で待機だ」
じゃ、邪魔とは失礼な!
「……わかりました」
「なら、邪魔者は邪魔者なりに、ここで油売ってないで仕事しろ」
「わかってますよっ」
お前も仕事しろ! という言葉を飲み込んで、城へと戻った。
ったく、いい気分でお散歩(探索)してたのに。っていうか、邪魔とか失礼な。その邪魔者を専属メイドにしているのは誰だっての!
……いや、待てよ。明日いないって、結構チャンスじゃない? 少なくとも、皇帝の目を気にすることもないし、オズもきっと一緒にいくだろうから、オズに見つかる心配もないのか。幸い、脱走時に必要な魔法のできも良いし。……留守にするって、脱走してくださいって言ってるようなものだもんね! 行ってやろうじゃんか!
よし、そうと決まれば準備しよう。待ちに待った、街への進出を目指して!
「ガーデニングとかであるような、ドーム型の休憩場所みたいな建物」とは、ガゼボって名前らしいです。
ただ、アイリスがガゼボって名前を知っているか否かですっごい悩んで、この表現になりました(._.)分かりにくいと思うので、ググって画像を見てください(--;)




