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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
大帝国アインスリーフィア
30/85

奴隷歌姫、ビビる。

「旬野菜のピューレポタージュでございます」

「あっ、ありがとうございますっ」


 カタカタと小刻みに震える手でギュッとスプーンを握った。私の震えがスープに伝わって、水面が少し波打っている。


 ──どうも、葉山菖蒲ことアイリスです。冒頭にも関わらず、絶体絶命の状況で何故か自己紹介しちゃいますようひぃ。



 ドレスに着替えたなり、オズは私の髪をくるくると巻いてアップにした。器用だな、さすがオズです。

 そして連れていかれた先は、普段大切なお客様が招かれ、皇帝が一緒に食事をとるときに使われる、長いテーブルのある広間だった。真っ白なクロスが敷かれたテーブルのお誕生日席に、ドス黒いオーラを放った皇帝が座っている。もうこの時点で冷や汗は止まらなかった。

 どうぞ、と皇帝から少し離れた席へと促された。え、何? 一緒に食事をしろと? なはは、冗談でしょうオズェ……。

 嫌だおうち帰る! っていう私の必死の目線に気づかない振りをして、オズはニコニコと微笑んでいる。「兎に角いいから座れゴラ」という心の声が聞こえた。ゲスオズめ。


 それで、訳もわからずここでご飯を食べるはめになった。皇帝は何も言わずに黙々と食べてるし、オズも何も言わないし。多分美味しいはずなんだけど、落ち着いて食べられないせいか味がしない。

 

 わ、私なにかやらかした? ……まあ色々と思い当たる事はあるけど。皇帝からの沢山の呼び出し無視ったり、掃除中の乱入を阻止しようとしたら手元が狂って皇帝に魔法当てちゃったりなどなど。でも、それは皇帝がやたらめったらちょっかい出してくるからだもん。


 食事も終盤になり、デザートが運ばれてきたときの事だった。


「おい」

「はっ、はぃ!」


 ようやく、皇帝が重い口を開いた。……びっくりした、急に話しかけられたから声が裏返った。

 私の声の情けなさに、皇帝が鼻で笑った。くっそう、ムカツクムカツク!


「明後日、ここでパーティーを開くことになっている」

「……ああ、オズから聞きました」


 明後日から、フィノプルの月──日本で言うところの、夏になる。ここアインスリーフィア帝国では、月の変わり目……つまり、三ヶ月毎にお祝いをすることになっていて、庶民から貴族までご馳走を食べるらしい。王族も例外ではなく、毎回城で盛大なパーティーが催される。春夏秋冬の始まりに祭りをする感じだろうか。

 ちなみに、一番華やかなのが年の変わり目のアノキシー最終日とカロカイリー初日。アノキシーは冬、カロカイリーは春のようなものだから、この世界では日本で言うところの4月始まりらしい。

 

「そこでだ」


 皇帝が持っていたフォークを置いた。……待て待て、なんか嫌な予感しかしないのだけれど!


「歌え」

「……は?」


 歌え? どゆこと?


「歌えと言っているんだ」

「えっと……そのパーティーでってことですか?」

「当たり前だ馬鹿め」

「あ……アホかぁ!」


 マジで言ってんですか、この皇帝様は!? 歌えって言っても、明後日でしょ? そんなすぐ言われても無理に決まってる。

 確かに絶対音感は持ってるし、音程とるぐらいなら出来るけど、あくまでその程度。歌とか習ってきたわけではないし……ピアノとバイオリンならできるけど、歌なんて人前で見せつけるほど上手くない。──お母さんは、オペラ歌手だったし上手かったけど……。私は平々凡々な腕前だ。いくらなんでも披露なんて出来っこない。


「出来るわけないでしょうが!」

「何故だ、あの時は普通に歌っていたじゃねぇか」

「あれは歌ってるというより口ずさんでいたんです!」

「その勢いで出来るだろ」

「そんなお貴族様だらけの緊張感漂う中で歌えるかァ!」


 食後のデザートも食べるのを忘れ、ぎゃんぎゃん言い争い始めた私たちをオズがなだめた。む、オズめ、私をなだめたところで歌いはしないぞ! その手には乗るかぁ!


「とにかく、お断り致します」

「ッチ……めんどくさい女だな」


 めんどくさいとは何事だ! なんて強引な皇帝様だ、まったく……。

 すると、皇帝はため息をつくとスッと目を閉じた。


「 カターラ・スクラヴィア・ポスチェシー・シネギアー・モーギア 」

「な、何言って……あっちゃぁ!」


 首に熱い感覚。咄嗟に水魔法で鏡を作って見てみると、あのツタ模様が浮かび上がっていた。


「ぐぅ……力ずく、ってことですか、……いだぁぁぁぁぁ!」

「フン、こちらとしては話し合いで穏便に済ませたかったのだがな、お前がこの道を選んだだけだ」


 穏便(・・)にィ!? どこが穏便だ。皇帝め呪いがあるからってコキ使いやがってっ……! いだだだだ!


「わ、わかりましたぁ! やりますから!」

「明後日だぞ、いいな」

「わかったってば! 痛いですって!」


 視界がじわりと涙で滲んできたところで、首の痛みは止まった。あぁ……痛かった。もう死ぬかと思った……。


「お前が素直な奴で助かるなぁ。明日の仕事ぐらいはやらなくても良い。それぐらいは目をつぶってやる」


 イライラとした気持ちを押さえ込み、食後のコーヒーをがぶ飲みして、早々に部屋を立ち去った。扉を閉めるときにチラッと見えた皇帝の顔が、いかにも楽しそうに にやけていたのでさらに怒りのボルデージが増す。


「明後日のパーティーが楽しみだ」


 この言葉を背に受け、私は大股で部屋へと戻っていった。




 次の日。なんとも目覚めの悪い朝である。今日一日でどうにか明日の披露を形にしなくちゃいけないのに、イライラとした気持ちが止まらなかった。


 ──とは言っても、すでに約束したんだから、どうにかして対策を練らなくちゃ。まずは、私の声量のなさをカバーすることから始めなくちゃ……はぁ……。



 私事ですが、新作出しました!

 この作品、「奴隷歌姫の異世界生活奮闘記」と同じ世界、同じ時系列のお話です。料理に没頭する女の子が、異世界に飛ばされて料理革命起こしちゃいます。

 不定期更新ですが、こちらも見ていただけると幸いです!

 「転生したからには、料理に全てを捧げます!」→http://ncode.syosetu.com/n2988cr/

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