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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
大帝国アインスリーフィア
19/85

奴隷歌姫、びっくりする。

「とりあえず今日はもう遅い。皆への案内はまた明日にしよう。今はとりあえず……部屋、だな。オズ、旋律の巫女の部屋はどこだったっけか?」

「ご案内いたします。こちらです」


 再び長い廊下に出ると、オズさんの後ろについていった。どうやら私の部屋を貰えるらしい。


「あの、サーシャ様。旋律の巫女の部屋っていうのは……」

「ああ、代々旋律の巫女は専用の部屋があってな、そこで生活してもらうんだ」

「へぇ……専用の部屋、ですか」


 案外考えてたよりも、待遇は良いみたい。一人部屋とはこれまたラッキーなことだ。


「こちらです。どうぞ」


 オズさんが不意に、扉の前で足を止めた。まわりの豪華な雰囲気とは裏腹に、木で出来ている。こじゃれた黒いドアノブが可愛らしい。プレゼントを開ける時のような緊張感とワクワクに心を弾ませながら、ドアノブをひねった。さて、部屋はどんな感じなのだろうか? ドキドキ。


「お、おぉ……」


 部屋はビックリするほど……



 ──すっごく汚かった。



 ええ、言い間違えではないです、汚いです。もう、汚いとしか言いようがない。贅沢言うな! と言う声が聞こえてきそうですけど、これはもう言ってもしょうがないんじゃないかな……。ほかに例えるとしたら、廃れててボロボロってとこかな。ここの部屋だけ異空間な気がしてしまうほどだ。


 どこが汚いかをあげると、要素がありすぎて困ってしまう。

 部屋がすごく広い。それはとても嬉しいことなのだが、とにかくボロい。真ん中にドカッと鎮座しているベットは、遠くから見ても一目瞭然なほど埃まみれで茶色。部屋の四隅には蜘蛛の巣らしきもので埋め尽くされている。足元を見ると……なんだろう、鼠の糞?(ここでふと思ったのだけどこの世界に蜘蛛や鼠がいるのかは謎)らしい黒い粒が落ちている。どんよりとした空気と埃っぽさに、鼻がムズムズした。

 とりあえず部屋に一歩踏み出してみると……老朽化のせいだろうか、それとも私の体重が重いのだろうか、床に穴が空いた。──前者のせいだと思いたいです、切実に!


「……」

「す、すまないな。急に取り決めがなかったらもう少し掃除させたんだが……先代の巫女はかなり前にしかいなかったからな。本当に何から何まで申し訳ない……」


 唖然として言葉も出ない私に、サーシャ様が言った。


「い、いえ! えぇと……風情があって素敵です! 私、掃除得意なのでこれぐらい大丈夫ですよ!」

「そうか……?」

「それなら、掃除はアイリス様にお任せしてよろしいでしょうか? 実は、最近メイドの人数が足りなくてほとほと困っておりまして……」


 オズさんが私に問いかける。私は胸を張って「余裕です!」と言いはなった。


「そうか、大変だとは思うが頑張ってくれ……じゃあ、また明日」

「お休みなさいませ」

「あ、はい!」


 2人が出ていった瞬間、私は頭に手を当てて唸った。


 うわぁぁぁぁぁ! 何てことを言ってしまったんだ私! いくら掃除が得意だからと言って、こんなに汚いのに一人でやるのがどうかしてる。しかも部屋自体すごく広いし……強がって言うんじゃなかった。私の馬鹿! 見栄っ張り!!


〔まったくじゃ。そなた、本当に懲りない奴じゃのう〕


 私の背後から声が聞こえた。この声は……!


「イーリス様っ!」

〔たく、やっと姿を現せたわい……〕


 紛れもなく、イーリス様が私の真後ろに浮かんでいた。


「助けに来てくれたんですか!」

〔残念だが……あまりこの世界に力を使うのは禁忌じゃ。この場は自分で切り抜けい〕

「で、ですよね……はぁ」


 窓の外を見ると、既に真っ暗。これから掃除するにしても、うるさいだろうし……取り合えず今日は寝るとしますか。

 床に空いた穴を避けつつ(避けても私が歩いたことで空いた穴も多数)、真ん中に鎮座しているベットを触る。さわぁ……と埃が舞った。


「っ……こ、これは、ここで寝るのは……ひっ、無……へっくしょお!」

〔うーむ、明日には黒髪が真っ白になってしまいそうだな〕

「そ、その前に私アレルギーが……ひっく、鼻痒すぎて絶対寝れませんっ……」


 参ったな。私、実はハウスダストだかなんだかで、めちゃくちゃ鼻水が出ちゃったりするんですよ……だから、ティッシュは必需品。皆にはティッシュ女王と呼ばれたりもしたんだよね。いつでも持ってるから。てことで、こんなとこで寝るのはさすがに抵抗ありますね……くしゃみが出まくって寝られないことは目に見えてる。


〔なかなか手厳しいの〕

「で、ですね……この調子じゃ、先代の巫女さんがいなくなってから掃除してないみたいですね」

〔まぁ、我にどうこうすることではないからの……自力で頑張れ。っと、我はもう眠いから寝るぞ、お休み……〕

「えっ、ちょっ……イーリス様!」


 ふっと霧のようになると、イーリス様は消えてしまった。なんにも助言してくれなかったな……ううん、頼りっぱなしじゃだめだし、こんなことで弱音を吐くわけにはいかないもんね。

 ていうか、なんか今日のイーリス様、なんかテンション低かったような……仕事大変なのかな、お疲れさまです……。

 


 とりあえず水魔法で即席のベットを作ってみる。ちょっと工夫すると水には濡れないから、ちょうど良い感じに仕上がってほっと一息。ついでに体も洗いたかったので、シャワーをイメージしつつ水魔法を発動してみた。すると、あらまびっくり、濡れてないのに肌や髪はツルツルさらさらになった。いやぁ、ほんと水魔法って実用生活においてすごく役立ちますね。ビバ、魔法!


 一人でテンション上がりつつ、水のベット(巨大な水の固まりに体を包んでいるから、無重力で寝ている感じ)に丸まった。──明日は、早起きして掃除しよう。


 久々の屋根の下での就寝に感謝しつつ、私は目を閉じた。


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