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奴隷転生者の花唄  作者: 雨宮 海
奴隷生活
14/85

奴隷異世界人、脱出する。Ⅰ

「 ネロ・ギネーフェ・ディアファニー・ウォール! 」


 牢屋に私の声が響いた。今日は、一人ぼっち。今週は大移動があるかもしれないから、なるべく皆で一緒の行動をしたいというのがシルトの考えとのこと。いざ移動するって時に皆バラバラだったら、大変だからだ。でも私はまだ透明魔法が完成していない影響で、一人だけ別行動。一刻も早くできるようにならなくちゃいけないからね。

 修行はと言うと、あれから全く進歩した感じがしない。たまに指先とかが消えかけることはあるけど、すぐに壁が溶けて水に戻ってしまう。そのせいで私は一日中水浸し……になるところなのだが、絶対領域(サンクチュアリ)をちょっと魔力を込める感じで発動してみると、なんと水までも弾き返すことに気づいた。それ以来濡れることはなくなった。魔法だけでなくて物や人に触れられないようにするのも可能らしい。ああ、便利すぎですよ、魔法。魔法は偉大なり。

 それにしても、なんで透明魔法はうまくいかないんだろうか……。魔力が足りてないとか? いやいや、絶対領域(サンクチュアリ)は効いてるし。何より私は翻訳魔法がかかってないと言語が分からないから、それはないだろう。うーん、どうしたものか……いつ移動が始まるか分からないのに。これは、私だけじゃなくて皆にも関わることなんだから。

 とにかく、今は気合いで頑張るしかないかなぁ。でも、なんで絶対音感(アブソリュート)絶対領域(サンクチュアリ)は上手くいったのに普通の魔法はできないんだろ……。


〔お困りのようじゃなー!〕

「うわぉうっ!?」


 突然、目の前に整った顔が現れた。数日ぶりの省エネ版イーリス様だ。いつもの通り、小さくても威厳のあるお姿だ。なんか、この光景前にもあった気がする……デジャヴだろうか。


〔久しいのう! そろそろ我の助けが必要かのー?〕


 お、お久しぶりです。最近話しかけてくれなかったから、心配してたんですよ? でも、どうせ現世に夢中なんだろうなーと思ってなかなか声がかけ辛かったんだよね。


〔そりゃ、我も暇人というわけではないんだぞ? それに、菖蒲あの小僧らと一緒にいるではないか。タイミングが掴めなくて困ってるのはこっちなんじゃぞ〕


 あ、そうか。毎回時を止めるわけにもいかないものね。

 それはそうと、私透明魔法がなかなか上達しないんですけど──原因知ってますか?


〔ああ、呪文は普通のを唱えておるな? それならいつまでたっても会得はできぬぞ〕


 え!? まじですか。ここんとこ1週間の努力が水の泡に……。うう、ショック。


〔菖蒲は他の奴等とは違うのじゃよ。それに絶対音感(アブソリュート)が使えるのに、わざわざ普通の魔法を使わなくてもよかろう?〕


 まあそうですけど。でも皆の前であんなチートな能力を使うわけにもいかない気がしまして。そもそも、呪文も違うし……。


〔呪文なら短縮形を自己流で作り出したり、はたまた無詠唱の奴もおるから大丈夫じゃ。数は少ないがな。そなたのようにほとんどの属性を使えるものは中々いないがな〕


 そんなもんなんですか……。うーん、あんまり目立つようなことは性に合わないのにな。いくらなんでもチートすぎるし。


〔まあまあ。ただし絶対音感(アブソリュート)も創造力や感受性も必要だからな、使いこなすことができるのはそなたのセンスがいいからなのだぞ? とりあえず、なんか適当に呪文を決めてやってみい〕


 なんか腑に落ちないけど──まあ、世界を救うって代償を払って手に入れた能力だと思えば、いっか。とりあえず、今は透明魔法に集中しなくちゃ。


「"フロ"!」


 とりあえず、水の玉を出した。ええと、呪文は何がいいかな……。この前全部音楽用語で統一しようって考えたんだっけ。透明、透明と言えば……。透き通ってる。透き通る……あ、確か「澄みきった」って意味のやつがあったな。うん、それがいい! 私は、頭の中に昔祖母の家の前で見た、キラキラと底まで透き通った小川を思い浮かべた。


「"エフェレ"!」


 その瞬間、指先にあった水の玉はゴムのように広がり、私を包み込んだ。水面が虹色に輝いていて、まるでシャボン玉のなかに入れられたみたいだ。ふわふわと心地よい気分になりながら、自分の手を見ると──消えている。いや、消えているかと言われるとそうではないかもしれないんだけど……なんていうか、輪郭を残してあとは見えないというか。そう、まだ色の塗られてない塗り絵みたいな感じ。でも、今までよりも一番それらしい気がする。


〔おお、消えたぞ! 成功じゃ!〕


 ほんとですか!? よしよし、あとで3人にも一応確認してもらおう。これで一安心、だね! 私が胸を撫で下ろした──その時。


 カンカンカンカンカン!


「っ! な、なにっ!? この音っ……!」


 突然けたたましいサイレンのような音が響いた。全身の体毛が逆立つほど大きな音と不協和音を奏でている。どうしようとオロオロしていると、奥の方からバタバタと足音が聞こえてきた。


「いそげ! いそげ!」

「ったく……なんでこんなときに!」


 この時間には牢屋にいるはずもない私がいても、見向きもせず走り去っていった。うん、どうやら透明魔法は完成したみたいだ。ってそれより、このサイレンは一体……?


〔何か問題があったのかの?〕


 どうだろう……でも、今までちょっとした問題でサイレンなんか鳴ってなかったような気がする。──ちょっと、外に出て見ようかな。

 ギィィィィっと気味の悪い音をたてて、扉を開いた。牢屋から出るとすぐ、さっきの奴らとは違う人達が慌ただしく走ってきた。おっと、ぶつかってバレちゃうから避けなくちゃ。

 その看守二人組は、息を切らしながら大声でしゃべっている。その会話が少し聞こえてきた。


「なんで、バレたんだよっ……ここは厳重な結界を張ったってのに!」

「つべこべ言うな。今は早くここから逃げるぞっ。捕まったらおしまいだ!」


 バレた? 捕まるってことは……この世界の警察か何かに目星つけられたということなのだろうか。で、ここから逃げるってこと……? だとしたら、なにもしなくても晴れて自由の身じゃない! やっと!


〔なんだ、そんなら助けを待ってるだけでよいではないか。よかったな!〕


 イーリス様がくるくると宙返りをして微笑んだ。私もだんだん近づいてくる看守を見て、嘲笑した。ふふ、馬鹿だなぁ。こんな悪いことしてるからそういう目に遭うんだよ。──すると、また再び看守の会話が聞こえてきた。


「でも大丈夫だ。あの大馬鹿皇帝は数人しか派遣しなかったらしい。今頃兄貴がよこした軍隊でやられてるだろ。なんせ100人近くいたからな!」

「そんなにいるのかよ! だったらここにいてもいいじゃねぇかよ。めんどくせーな」

「場所が知られちまったんだ。しょうがないだろ。それにしてもあの恐れられてる皇帝もちょろいもんだな。この大きな組織を数人で潰そうとは」

「全くだぜ! 舐められたもんだよな。そのせいで何人犠牲になるんだろうなっ! ハハハッ」

〔……数人、か〕


 ──数人? それに、100人?

 その言葉に私は絶望した。そんなの無理に決まってる。数の暴力もいいとこだ。助けを求めるようにイーリス様を見るけど、険しい顔つきをしている。じゃあ、じゃあそんな助けを待ってるわけにはいかないじゃない。ここから出るためには……やっぱり皆でやらなきゃならない! ──ということは。

 今が、絶好のチャンス!


〔菖蒲? 菖蒲! どこにいくんじゃ!? その状態でもぶつかればばれるんじゃぞ! 走るでないっ!!〕


 私はイーリス様の言葉も聞かず、3人を探すため看守を追いかけた。




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