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第八十六回

機械文明がどんどん進んでいく時代の中で、この商店会だけが閉鎖されたゾーンのように時が停止していた。二十年前と、ほとんど変化の兆しがなかった。それは喜ぶべきなのか、悲しむべきなのかは直助には分からない。

 勢一つぁんが畑へ野菜の収穫に行っている間、直助は手持無沙汰のまま時の流れるのを待った。

「昨日も、たった四人なんよ」

 突然、敏江さんがそう呟いた。

「お客さんが?」

「そうなんよ。ほんま、やってられへんわ」

 溜息混じりにそう言われると、直助には慰めの言葉が出ない。話題から逃れるように受話器を取ってダイヤルを押した。勢一つぁんの家は直助の家と違って真新しい電話機だ。受話器を置いたままモニターを押し、ダイヤルを押せばいいのだが、直助はそれを知らない。彼の頭には、電話は黒く、ダイヤル

を円運動で回転させるもの…というイメージが出来上がっていて固定化されている。

「あっ、山本さんですか。昨日の今日では早過ぎるとは思いましたが、一応、かけさせて戴いたんですが…」

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