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第八十四回

正直、内心で直助はビクついていた。

 賑やかに朝飯を食べるというのもいいもんだ…と直助は思う。だいいち、寂しさからは、とにかく解放される。

 食べ終えて淹れられた茶を啜ると、心がいつもの冷静さを取り戻していた。

「ちょっと会社へ電話入れとくわ」

 開口一番、直助はそう切り出した。先だって電話をかけた山本の言葉が甦ったのだ。その後、何らかの進展があったかも知れない。だが、よく考えてみれば、昨晩の今朝である。いくらなんでも、そんな早くいい情報が入っているとは思えないのも事実である。それでもまあ、口にした以上は勢一つぁんがいる手前、一応はかけてみるか…と直助は意を決した。腕を見ると、八時を少し回っている。和田倉商事は九時からだと直助は聞いていた。一応、というのは最近になって会社がフレックス・タイム制を採用したと聞いたからだが、実働八時間を自分の好きな時間帯で働けばいいらしい。好きな時間に出勤してタイムレコーダーを押して八時間後にまた押す。もちろん、途中で抜けてもいい。要は八時間のノルマをこなせばOKなのだ。という訳で、直助の判断では山本はまだ出勤していないと思われた。

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