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第七十九回

 敏江さんが台所へ立ったことで、直助も動きやすくなった。のっそりと起きて毛布を畳み、台所に顔を出す。

「おはようさんです。ほんまに、昨日は偉いすんませんでしたな…」

 気づいた敏江さんは手を止めて振り返った。

「ああ、直さん、おはようさんです。大したもんは出せんけど、まあ朝のご膳ぐらい食べてって」

 にっこりと笑い、敏江さんはまた手を動かし始めた。実のところ直助は、このひと言を待っていたのだ。渡りに船・・とは、よく言うが、まさに、それだった。

「いやあ、すまんこって…。かまわんといてや」

 一応、遠慮を吐いた直助だが、内心は、してやったりの気分なのだ。食卓が並ぶには少し時間がありそうなので、裏庭の鶏、コケ子でも見ようと直助は思った。この瞬間は昨夜の幽霊への恐怖心が、まったく消えている。

 鶏小屋に近づくと異臭が激しさを増す。中では、コケ子が、ただ右往左往しているだけで、別にどうということはない。そこへ敏江さんが台所から出てきて馴れた仕草で小屋へ入った。すぐ出てきた敏江さんの手には卵が握られていた。

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