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第五十二回

 暗闇のため、蒼白く浮かんだ像は、しかとは断定出来なかったが、確かに直助にとって見憶えのある女だった。それが今し方まで想い出せなかったのだ。しかし、その早智子が、なぜ幻のように直助の枕元へ忽然と現れたのか? その訳が皆目、理解出来ない直助だった。だいいち、二人は恋愛関係になるまでの仲ではなかった。直助は早智子に会ったときから好意を寄せていた。というよりは、一目惚れをして近づこうとしていたのだが、早智子の方が直助に好意を寄せていたかは疑問なのだ。それに単なる客だったとも考えられる。となれば、余計に枕元へ立った意味が解せない。思い当たることを、つらつら考えるが、やはり直助には浮かばなかった。

「なんやいな。話しかけといて、だんまり、かいな」

「あっ! そやな。まあ、んっ…」

 一同は枝豆をモグつきながら笑った。まったく要領を得ない。だが直助は、このとき、謎が解けるかも知れんぞ、と思った。早智子の消息を探ることで、この奇怪な出来事の全貌が解けるように思えたのだ。皆にどう言おうか…、ここはひとまず適当にあしらっておこう…などと直助は算段した。

「まっ、この話はさておいて、商店会のことなんやけどな。ほん今、帰らはった会長の小山はん、その後なんかうたはったか?」

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