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第四十四回

「それなら別に麻雀やのうても、ええやないの」

「んっ? まあな…。お客さんも、なかったよって…」

 次第に包囲網を狭められる勢一つぁんである。こんな彼を見て、直助は、お気の毒に…とは内心で思ったが、その半面、こんなつまらない会話が出来る身内がいることを羨ましく思った。直助には妻どころか、今や身内は近くに一人もいない。死んだ直吉の弟、直助にすればただ一人の叔父だが、それがいることはいる。しかし、店から遠い地で暮らす叔父家族とは滅多と会う機会もなく、音信も滞りがちであった。ということは、直助にとって、遠くの親戚より近くの他人、ということになる。万一、自分が倒れたら…などと考えれば、先々は、やはり店を畳んで老人ホームへ入ろうか…などと思うのだ。

 直助が物想いに耽り、ふと気づくと、すでに勢一つぁん夫婦の言い争いは集結しており、慣性のように自分の両手だけが忙しく動いていた。麻雀は、また漫然と再開されたようである。直助が正気で牌を睨むと、もう聴牌テンパイしている。そんな…と、もう一度よく見れば、なんともう上がっていた。しかも、奇跡か神懸りか…と思わせるダブル役満、地和チーホー大三元ダイサンゲンだ。一生に一度、いや、恐らく無いであろうと思われる役なのである。それが正に出来上がっていた。

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