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第三十六回
当然、商店会の寄り合いは何度も招集されていた訳だし、直助や勢一つぁんも意見は出していた。しかし、どれも今一で、実現されないでいた。会への加盟店は六十店舗ほどあるから、全店が一つの目的に向かえば、それなりの効果も期待できるのだろうが、肝心の決め手となるアイデアがなかった。直助が今、勢一つぁんに話そうとしている妙な出来事の一件などは、この深刻な問題からすれば、取るに足らない馬鹿げた話なのだ。それに、信じられない幽霊話など笑われるのが落ちで、相談に来た当の本人の直助ですら話しそびれているのだ。しかし、朝食を食い終えた勢一つぁんに襟を正して訊かれると、話さない訳にはいかない。
「で、話て、なんやいな」
敏江さんは片づけで台所に立っているから、この瞬間は二人きりであった。直助としては、ふたたび切り出しやすい状況だった。
「いやな…実は、ちょっと前から怪しいことが、ちょくちょく起こりよるねん。そんで、勢一つぁんに聞いて貰おう思うてな…」
「怪しいこと? なんやねんな。泥棒か何ぞに出会うたんかいな?」




