第三十五回
「あんまりお客さん来やはらへんよって、商売しんどいなあ、お父ちゃん」
「んっ? まあ、そうゆうこっちゃな。ははは…、直さんとこも、さっぱりやて言うてたな?」
「ああ…、もう畳まなあかんかも知れん」
「まあ、そう言わんと…。お互い、なんとかせな、とは思うけど、会長もなんかええ考え、ないんかいなあ…」
茶漬けを慌て気味に掻き込んで、勢一つぁんは愚痴る。直助は食事の邪魔をしないよう、ただ頷いて同調するが、少し自分の持ってきた話を出し辛くなっていた。
八百勢も二十年前は羽振りがよかったが、随所に見られる障子の綻びでも分かるように、昨今、生活には窮しているようである。これが八百勢だけなのかと言えばそうではなく、商店会の会長、小山文具店の小山栄吉にしたって同じ有り様で、右に倣え、なのである。正確に列挙すれば、小山文具店に限らず、文照堂、八百勢、その他の大概の店が、すべて鳴かず飛ばずだった。この調子でいけば、孰れはこの界隈全体がゴーストタウンに埋もれるのも間違いないように思われた。そこで、会長の小山が四苦八苦して知恵を絞っているのだが、もうひとつコレ! という決め手のアイデアが浮かばなかった。




