第三十一回
呼び出し音は、直助が受話器を取らなかったためか、その後は鳴りを潜めている。しかし、呼び出し音でびくつく日を送るのも直助の性分に合わない。そうかといって、解決の手立てもなく、やはり隣の勢一つぁんに話してみる他ないか…と、直助は諦念して思った。
家計簿をふと、見ると、先月も何千円かの赤字である。サッカーで熱狂するサポーターの歓声を余所に、明日、銀行で取り崩す金額のこと、在庫の返本、新入書の一覧からの仕入れ、などを考える。今の直助には、ゆったりとしたテレビ観戦も、ままならなかった。それでも観戦の間は妙な出来事は忘れられた。ただ、金銭のことは考えれば考えるだけ頭が痛くなる。布団に潜り込んでスナック菓子を肴に缶ビールを飲む。もちろん、貰ったものばかりだ。十分ぐらいすると、次第に身体全体が心地よくなり、眠気も出てくる。知らず知らずのうちに、電灯やテレビを消し、いつしか直助の意識は遠退いていった。
フッ! と目覚めたのは、深夜だった。はっきりしないが、誰かに肩を摩られたような余韻が感覚として残っている。辺りは黒のベールに覆われていて、人の気配などは全くなく、物音なども一切ない。寝惚け眼を擦り擦り、少しずつ瞼を開け、直助は辺りを見回した。やはり、黒ばかり広がる闇以外、なにもない。…が、気のせいか、僅かに頭の後方に淡い光が射すのを感じた。




