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第三十回

 この時点で、もうすっかり妙な電話のことは忘れていた。美味かったせいか、腹が減っていたからか、とにかく肉ジャガは瞬く間に平らげられた。陽気も麗らかで心地よい。そうなると直助を睡魔がふたたび襲ってくる。敏江さんが持ってきてくれた鉢を返すのも忘れ、直助は、いつしかウトウトと微睡まどろんでいた。

 どれほど眠っていたのだろう。直助は以前に経験したことのある妙な金属音で目覚めた。外は、とっぷりと暮れ、辺りは漆黒の闇である。電灯のスイッチを入れ、その音が響く天井を見遣る。それでも直助は、まだこの時点では、━ ネズ公の奴め、また暴れとる… ━ というぐらいにしか考えていなかった。修理屋が嫌がるほど古びた柱時計が、五時半近くを指していた。そして、例の電話がリリリリーン! と響いた。直助は今回も一瞬、ギクリとした。天井裏? の金属音に合わせるかのような電話の呼び出し音…夏でもない宵に怪談はないだろう…と自分に言い聞かせる。家の老朽化も否めないが、他に思い当たることもない妙な現象だった。例えば、電話線が鼠に齧られたか何かで不具合となり、電話会社から確認の通報が入っている…とか、いろいろ思い当たるが、今一つ要領を得ない発想だ。他には…別に何もない。好きなサッカーでもテレビで見て、今日は早く寝ようと、直助は一瞬、考えた。

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