第二十七回
そのとき、古めかしい電話の呼び出し音が、チリリリ~ン! と、けたたましく鳴った。慌てて受話器を耳に宛がったが、無言である。「もしもし、文照堂ですが…」とは言ったが、相手からの返答はなかった。
「… …」と、それでも電話は途切れた風でもなさそうである。直助は、━ こりゃ、悪戯か… ━ と瞬間思い、電話を切った。今迄、この手の嫌がらせはなかったから、直助には少し奇妙に感じられた。これといって思い当たる節がない以上、少なからず薄気味悪い。まっ! いろいろあるわな…と、例のズ太さでその場は片づけてしまった。ところが二日後の夕刻、また同じような電話が鳴った。早じまいしようと思っていた矢先だったから、この日は原稿に向かっていなかった。直助が受話器を取ると、また、「… …」である。「もしもし!」と、やや切れ気味に言ったが、やはり返答がない。
「ええ加減にしときや!」
腹が立ち、直助はガチャン! と電話を切った。どう考えても、嫌がらせを受ける憶えはないし、ましてや、人から恨みを買うようなことなどない直助である。ますます気味悪さが増していった。そうはいっても、直助の方から伝達する手段がない以上、どこの誰から何のために…といった疑問は拭えそうになかった。店番に影響はないが、気が散って筆がまったく進まなくなってしまった。




