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第ニ十三回
直助は、すっかり商売のことを忘れ、オープンリールのデッキに録音したテープを取りに戻った。
「これなんですがね…。いつでもよろしいからダビングでもされたらお返し下さい。気持が洗われるようないい曲ですよ」
「ありがとうございます。…じゃあ、お借りします。…ええと、この本のお代は?」
「あっ! そうでした。すっかり忘れてましたよ、ははは…」
罰悪く、直助は頭を掻いて苦笑した。肝心のところで調子が狂ってしまう。持って生まれた性分だから仕方がないのだが、いつも最後のの詰めが甘いのだ。大学時代は、それで取れる筈の単位を落としたこともあった。まあそれが返って幸いして卒業出来たのだが、直助には、どこか人の同情を引く得な性分もあった。痛し痒し、というところである。
テープの貸し借りで唯一のチャンスをものにし、直助の気持は大層、快活であった。これを境に二人は接近した…といいたいが、実はそうでもなかった。テープの一件のあと、直助は早智子をクラシックのコンサートにでも誘おうと思っていたのだが、早智子の消息はその後、プッツリと途絶え、今まで出会えずにいる。なんでも、会社の電話説明によれば、転勤とかで本社へ戻ったらしかった。




