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第ニ十一回
「ここら辺りのが手頃かと思いますが…」
媚びた商売は直助の最も忌み嫌うところだが、好きな相手を目の当たりにしては、理屈もへったくれもあったものではない。早智子は勧められるまま、書棚から一冊取り出して、パラッと捲った。
「いいですね、これ…」
「でしょ?」
”そうでっしゃろ”と言いかけて、慌てて口を噤み、言い直した。
「編物かなにか、されてるんですか?」
「ええ…レース編みなんです。人様にお見せ出来るほど上手くないんですけど…」
直助にとって、そんなことはどうでもよかった。馨しい香水が匂い、直助の臭覚を擽る。自分が上気しているのが直助自身にも分かった。
問題は、これからどう接近するかである。今とは違う、かれこれ二十年以上前の話だから、男女の語らいや付き合い方も、規律というか、どこかそういう堅苦しさが、まだ重んじられていた時代である。都会はいざ知らず、ローカル色の濃い一地方では、その当時、まだ噂で取り沙汰されたりしたから、男女の接触は慎重さが求められる時代でもあった。




