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第二十回
ひと月ばかりは、恋慕の情を伝える勇気もないデクノボウなど、ここでずっと埋もれるんだ…と、自暴自棄になったりもしたが、歳月の慰めとは偉大である。すっかり忘れていたのだから…。それが、また出会ったのである。恋の病が、またぶり返した。
「…やあ、お久しぶりです。長い間、お見かけ、しませんでしたね?」
「えっ? ええ…」
急に奥の方から声がかかり、驚いた早智子が首を直助の方へ向けた。
「今日は何か?」
「手芸でも始めようかと思いまして…」
「ああ、そういう本なら右側の真ん中辺りの棚に並べてます」
実用書が必要だということは、”手芸”という最初の二文字で閃いた。この機会を逃せば、恐らく二度と早智子とは縁の糸が繋がることもなかろう、と思えた。直助は早智子が棚を移動した後を追って、実用書の棚へと動いた。少し陰湿な気分がしないでもなかったが、そうも言ってはいられなかった。




