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第十七回
「実は…亡くなった父が好きだった蔵書なんです。…生憎、火事で失くしてしまって…」
「あ~あ、そういうことでしたか。で、火事というのは、どうでしたんですか?」
標準語は割合すんなり使えている風だが、やはり言葉の随所に関西訛りが割って入る。しかも、つまらないことを訊いてしまった…と、直助は後悔した。
「はい。幸いボヤ程度、といいましても半焼に近かったんですが、書斎とかが駄目になったんです」
「まあ、それくらいで済んでよかったじゃないですか」
そこまで直助が話を進めたとき、俄かに早智子の表情が陰った。
「いいえ、ちっともよくないんです…」
「えっ?」
直助は疑問の糸をようやく手繰り寄せようとしていた。俺は本屋より探偵の方が性に合っているのかも知れない…という気もした。故意に声をかけるのも憚られる。全集の引き渡し、代金の支払いは無言で淡々と進んだ。
「… …、余り立ち入ってお訊きするのも、なんなんですが…」
遠回りだが、思いきって声を挟んだ。




