第十五回
いろいろと発想が膨らむ。他人から言わせりゃ、まどろっこしいことを…直接、訊きゃいいじゃないか、ということになるのだろうが、直助にはそれが出来なかった。やはり、自分はデクノボウだという諦めが胸の内で闊歩していた。
次の日、ともかく数社に電話して康成の全集を吟味した。そうして、自分なりにコレと、手応えのあるものを取り寄せた。どの社の全集も価格的には似たり寄ったりというところだったし、決定はやはり直助の好む主観で選ばれた。好きな女性のものを選ぶという行為、それが直助には堪らない。子供のように無邪気になっている自分自身が少し恥かしかった。
「ええ…入りましたので、ご都合のよいとき、お寄り下さい。七時頃まででしたら開けてますので、お仕事の帰りにでも、どうぞ…」
そう言って電話を切り、値段を言わなかったのに直助は気づいた。電話をしようとしたが、なんか間抜けに思われるんじゃないか、と躊躇し、結局は、かけず、そのままにした。昼のうどんが喉をらなかった。そんな自分が嫌になり、少なからずイライラしたが、どうにもならないのに気づき、洗面台で顔をジャバジャバと洗って振っ切った。




