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第十三回

「いえね、実のところ、たびたびお越しになるので、不思議に思ってたんですよ。それに、いつも買わないで帰られるから、ははは…。それならそうと、もっと早く言って戴ければね…造作もないこってすから…」

 直助の口が、勝手に捲くし立てていた。

「少うし訳がありまして…」

 可愛い顔が一瞬、曇ったように直助は思った。

「…そうですか。…康成の全集といいましても種々あります。よろしければ、A6程度のを適当に選んでおきますが…。お見積もりも入れますか?」

「いえ、それは結構です」

「それじゃ、一日おきにご来店戴いておりますが、明日、明後日には入りませんしね。こちらからご連絡致します。たぶん、十日ほどはかかると思いますから、こちらからの連絡後、もう一度、お越し下さい」

「あのう…お代金は?」

「えっ? ああ…そのときでよろしいよ。…お電話で金額はお伝えしますから…」

「そうですか。それじゃ、お願いします」

 すんなりと会話は弾んで纏まり、快活に早智子は店を出ていった。

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