13/125
第十三回
「いえね、実のところ、たびたびお越しになるので、不思議に思ってたんですよ。それに、いつも買わないで帰られるから、ははは…。それならそうと、もっと早く言って戴ければね…造作もないこってすから…」
直助の口が、勝手に捲くし立てていた。
「少うし訳がありまして…」
可愛い顔が一瞬、曇ったように直助は思った。
「…そうですか。…康成の全集といいましても種々あります。よろしければ、A6程度のを適当に選んでおきますが…。お見積もりも入れますか?」
「いえ、それは結構です」
「それじゃ、一日おきにご来店戴いておりますが、明日、明後日には入りませんしね。こちらからご連絡致します。たぶん、十日ほどはかかると思いますから、こちらからの連絡後、もう一度、お越し下さい」
「あのう…お代金は?」
「えっ? ああ…そのときでよろしいよ。…お電話で金額はお伝えしますから…」
「そうですか。それじゃ、お願いします」
すんなりと会話は弾んで纏まり、快活に早智子は店を出ていった。




