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第一回

 次第に辺りが暗くなり、読んでいる文字が霞んで見え辛い。

「おっ! もうこんな時間になったか…」

 人っ子一人いない粗末な書店の片隅で、坪倉直助は誰に言うともなく、そう呟いた。無論、ひと気がないのだから仕方がないのだが…。

 直助は今年でついに五十の坂を下っていた。親の代からの書店を頑なに守って数十年が雪崩をうって流れてしまったのだ。

 最近、昔に比べると随分、読み手が減ったように直助には思えている。今日は、つい、ウトウトしてしまっていた。在庫の整理を、あたふたとしていたのだが、いつのまにか睡魔に襲われたのだ。もう六時は疾うに過ぎているのだろう。夏場だから、外の気配は明るいが、それでも昼間に比べりゃ、陽は西の山へトボトボと帰って、夕闇が辺りを覆い始めていた。直助の頭はボーッとしている。

 実を言うと、直助はもう店を畳もうか…と思っていた。読み手が減っていると直助が思うことは、要するに本の売れ行き=収入が減少していることを指す。正直なところ、食うにこと欠く始末で、かなり追いつめられていた。

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